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第六話〜彼の部屋〜
しおりを挟む「俺、小澤に渡すもの家に置いてきちゃってさ、今からアパート行ってもいい?」
会計を済ませ、私の後に店を出た青山君が気まずそうに言った。
「大丈夫だよ」
彼の住むアパートと聞いて、なぜか心が弾む。
でも流石に中には入らないよね。
外で待っていればいいんだよね。
タイ料理屋から彼のアパートまでは、大学を挟んで反対方向へ向かうので更に十分以上歩いた。
食後の運動としてはちょうど良い。
その間私はずっと、どんなところに住んでるんだろう? どんな部屋なんだろう? そんな事ばかりをウキウキしながら考えていた。
そんな事考える必要なんて一つもないのに。
「小澤聞いてる?」
「え、うん、何だっけ?」
「やっぱ聞いてないと思った」
「ごめん何?」
「良かったらお茶でも飲んでく? って話」
「え、でも中入って大丈夫? 彼女に悪いんじゃ……」
「今は彼女いないよ」
「そうなんだ」
……何でホッとしてるんだろう。
変なの。
「小澤は?」
「い、いないっ! ずっといない!」
あ、何か変に力んでしまった。
しかも余計な情報まで。
けど、彼氏いないってどう思ったかな。
……話の流れで聞いただけで、大して興味なんてないか。
「……そうなんだ」
いつもと何ら変わりのない声色、その時彼はどんな表情をしていたのだろう。
その"間"に何か特別な意味はあるのだろうか。
彼の横顔は何も語らない。
そんな事を話している内に、あっという間に彼の借りている学生アパートに着いた。
そんなに新しい建物ではないけど、玄関ドアは暗証番号を入力するタイプでセキュリティもしっかりしていそうだ。
すぐ目の前にはコンビニもあるし、周りには他にもアパートがいくつも建ち並んでいる。
これなら一人暮らしさせても安心。
って、お前は親か!
なぜか親心のようなものまで湧いた自分に心の中で突っ込む。
ピッピッピ――
勝手に侵入するつもりはさらさら無いけど、見たら悪いと思って、彼が番号を入力する間は視線を外して待つ。
ピピっと音が鳴った後、青山君は「散らかってるけど、どうぞ」と言いながらドアを開けた。
想像よりも遥かに整えられた玄関でスニーカーを脱ぎ、ちゃんと踵を揃えてから、あの頃よりもずっと広くなった背中について行く。
青山君の部屋は、かなりシンプルかつ綺麗に整頓されていた。
ベランダ側にベッドが置いてあり、その前にはフリンジ付きの小洒落たラグが敷かれ、その上には木製のローテーブルが一つ。
後は本棚と、これはキーボード? 電子ピアノ? それくらいしか見当たらない。
テレビすら置いてなかった。
散らかってるって言うけど、全然……突然来たにも関わらず床にはゴミ一つ落ちていないし、服もちゃんとハンガーにかけてある。
背の高い観葉植物まで飾ってあるし、これは私の部屋よりよほど綺麗でお洒落だ。
「その辺テキトー座って」
適当と言われても……このベッド、は違うよね。
ラグの上でいいか。
ラグの上で膝を抱えて座る。
「何もしないからそんなに警戒しないで」
ベランダの窓を開けた彼が苦笑する。
「べ、別にそんなんじゃ」
警戒してるんじゃなくて、緊張してるの。
異性の一人暮らしの部屋なんて初めて来たんだから。
「はいこれ」
青山君はペットボトルのお茶をテーブルの上に置いた後、大きな手に包まれた"何か"を私の手のひらの上にそっと乗せた。
返したいものって、やっぱりヘアゴム
だった。
「ありがとう、実はずっと気になってたの」
三年の時を経て戻ってきた宝物を、手のひらの中にギュッと閉じ込めた。
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