癒して、愛して、そして離さないで

雪白ぐみ

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第十話〜お酒の力②〜

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「やだ、ほっしー冗談だよ!」

 困った? 焦った?
 肘でつんつんって、彼の脇腹を冗談混じりに小突いてみれば、「するか」ってため息混じりに言われて。

 予想外の言葉に、思わず「ふぇ!?」っておマヌケな声が出ちゃったよね。

「俺で良ければいくらでも慰めるよ」って何すか? 
 その、突然のえっちな展開は。

 今から彼のアパートに私も行く話になってるけど、まさかそうなるとは全然思ってなかった。
 これは本当。
 何言ってるんだよ、酔っ払い! って突っ込み待ちしてたくらいだもの。

 だって、相手はこの顔イケメン。
 今更私に手を出すほど、女の子には不自由してないでしょ。

 さっきの話から察するに、今は特定の人は居ないみたいだけどさ。

 それとも、昔私がした事へのお返しのつもりなの?
 ほっしーは今、何を考えている?

「車こっちだから」と言われて、大人しく駐車場まで着いていく。

 年式は古そうだけど、きちんと手入れされた外車の前で、ほっしーは車のキーをポケットから取り出した。
 ロックを解除した彼は、私に助手席に乗るよう促す。
 
 なんでこんな事してるのだろう。
 また前みたいに、一夜の特別な思い出を貰って、傷ついた自分を慰めるつもりなのだろうか。
 後になって絶対後悔するくせに。

 そんな事を考えてボーッとしていると、いつの間にか二次会の会場を後にした車内で、ほっしーから話を振られた。
 
「どのくらい付き合ってたの?」

「え……あ、彼氏? えーと……大学一年の時からだから、五年くらい?」

「長いね。それじゃ、浮気されて相当キツイな」

「そうだね……。すごく好きな人だったんだけど……でも、まぁ要するに私に飽きたっぽい」

 まさか、ここまでどストレートに話すとは思ってなかったんだけど。
 車内と言う狭く逃げ場のない空間は、何でも聞かれた事に答えてしまうような独特な空気感がある。

 でも、あれ?
 聞こえてなかったのかな?

 交差点の信号が青に変わり、車はどんどん前に進んでいくのに、私に話を振った人からの反応は一向にもらえない。
 
 街の明かりに照らされて縞模様になっている隣の人をおずおずと見る。
 これは、今まで見せた事ない真剣な顔つきだ。
 見ようによっては、ちょっと怒ってるようにも見えるかもしれない。
 
「えーと、聞かれた事に答えたんだけど聞こえてた?」

 返ってきたのは、あぁ……とひと言だけ。

 内容が内容なだけに、何て返したら良いのか分からないのかもしれない。
 
「ごめん、そんな事言われても、何て返せば良いか分からないよね」

「ハッキリ言っていい? 今かなりムカついてる」

「それは、元カレ……に?」

「ここで絃ちゃんにムカつくのはおかしいじゃん」

「そうでしょぉ? 酷い話だよねぇ!?」

 後ろ盾を得たような心強さに、私の語気が強くなる。

「酷い話てか、何だよソレ。あり得ない」

「まぁ、でも……私にも悪いところいっぱいあったから。だからね、彼だけのせいじゃないと思うよ」

 手をひらひらと扇ぐように振り、浮気男を庇うような事を口にする。
 言わば他人事なのに、自分の事のように怒りを露わにするほっしーを見て、思わずクスリと笑いが込み上げたから。

「俺はそいつ許せない。浮気って……なんだよ」

「うん、本当にそうだよね。もう気持ちが無いなら、ちゃんと別れてから好きな事すればいいのにね」

「……五年も付き合ったって事は、将来の事も考えてたんでしょ?」

「あーそうだね。長く付き合ってたから、いつかはそうなるもんだと勝手に思ってたかもしれない」

〝それが最後は浮気かぁ、笑っちゃうよね〟

 小さな声で呟いたつもりだったけど、しっかり隣まで聞こえていたみたい。

「いや、笑えないだろ」

 私の言葉を拾い、心配そうにチラッとこちらを伺い見る彼に、何だか少しだけ温かい気持ちになる。
 
 ふふ、と笑いながら見た車窓の景色は、いつの間にか賑やかな市街地を抜けて、閑静な住宅地を流れていった。
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