シリーズ 愉快なQちゃん -わが母の記ー

松澤 康廣

文字の大きさ
9 / 10

涙がぽろり

しおりを挟む
 神奈川県寒川市のさむかわ産業祭り。
 ここは人が多すぎる。食事場所には向かない。落ち着ける場所がいい。
 ならばと、私は、かねてから考えていた神奈川県水道記念館に移動。ここの水の広場は、ベンチも多く、食事場所は幾つもある。


 食事場所の一番に考えていた東屋には先客がいた。お母さん、おばあさん、女の子2人の家族だ。
 女の子は広場に設置された装置のようなものの傍にいて、何かをしている。装置から、霧状の水が出ている。

 私は車椅子を押して、そこに近づいた。
 すると、女の子は少し離れた装置へ移った。
 譲ってくれたようだ。

 「レバーを押すと、水が噴射され、虹が見えます」
 装置にはそう書かれていた。

 「Qちゃん、ここ押してみて。虹が見えるよ」と私。
 
 私が先ず見本を見せる。虹がはっきり見える。
 「きれいだねえ。凄い、凄い」とQちゃん。
 「では、交代ね」と私。

 Qちゃん、なかなか押せない。Qちゃんには硬くて、結構大変なのだ。

 レバーの上のQちゃんの手に私の手を重ねて押す。噴射成功。

 そこでQちゃんは考えた。
 体重をいっぱい手にかけて押した。
 すると、見事に水が出た。

 「Qちゃん、凄い、虹だよ」と」私。

 だが、急に水が止まった。
 虹を見るとき、顔が上がって体重がかけられないのかレバーが戻ったのだ。 当然、虹も消える。

 Qちゃんは、諦めず、また力いっぱいレバーを押す。
 水が出る。虹が出る。Qちゃんが見る。水が止まる。
 Qちゃんはまたも見ることができない。

 Qちゃんは必死だ。

 もう1回。また1回。


 ……私はしてはいけないことをしたのだ。
 Qちゃんの負けん気の凄さを私は思い知らされる。

 私は悲しい気持ちでQちゃんの手を押す。


 もう いいよ  Qちゃん  ごめんなさい。



 涙がぽろり。 


   この小品は、ブログ「Qちゃん 103歳 おでかけですよー」より 改稿したものです。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...