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17話

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 ギルバートがドアを開け、自らが先に入る。ギルドの中には数人の男たちが集まっていた。

「お!ギルバートじゃねえか!早かったな!」

「皆さん集まってたのですね」

 ギルバートが挨拶をすると、その後ろからアルフレッドがひょっこりと顔を出す。

「久しぶり~。師匠相変わらず昼間からお酒飲んでるの?」

「ははは!昼間どころかマスターは昨日の夜からお前らが来るのを待つって言って夜通し飲んでるよ!」

 そういってマスターと呼ばれた壮年の男の背を叩く若い男も、反対の手には麦酒のジョッキを持っている。

「うるせえな。そういうお前もだろ!」

 数人の男の輪の中心にいる二人がバシバシと叩き合いながら、ガハハと豪快に笑う。
 周囲の男たちもそれぞれ手に瓶やらジョッキやらグラスやらを持っているので、全員で夜通し酒盛りをしていたというのが正しいのだろう。

「皆さん相変わらずですね…」

 ギルバートがため息をつきつつ、さりげなくアルフレッドの斜め前に移動し、男たちと距離をとらせるように立った。

「なんだよ~。おまえらも相変わらずだな~」

「いやいや!チビのころはどっちもキラキラで可愛いかったのに、ギルバートは今じゃ可愛げのかけらもねぇよ」

「いや~昔は王子様か!って感じのキラキラだったけど、最近じゃあ魔王かよ!ってな!」

 うんうん頷き合いながらギャーギャーと笑いあう男たちに、ギルバートの背中からチョコりと顔を出したアルフレッドが頬を膨らませて抗議する。

「なんでだよ!ギルは今もキラッキラの王子様じゃん!それに、可愛いよ!」

 ぷりぷりと怒るアルフレッドの様子を見て「お前は全く変らねぇなあ!」「うんうん。可愛い可愛い」と男たちが頷きあう。

「そうでしょう。そうでしょう。ギルはかっこよくて可愛いんですよ!」

 満足そうに返すアルフレッドに、男たちがさらに盛り上がる。

「なんだ。アルフレッドが嫁かと思ってたけど、ギルバートが嫁か?」

「何言ってんの。ギルはどう見ても迎える側でしょ!」

「ほー?意外だなー」

 真っ赤に酔っ払った男たちとアルフレッドが噛み合わない会話を繰り広げていると、ギルバートが軽く咳払いをした。

「皆さん。なぜ集まっているかお忘れですか?」

 低く静かに響いたその声に、そろりと視線をギルバートに移したと思うと、さっきまで赤かった酔っ払いたちの顔が一気に青くなっていった。

「す…すまん…」

「ジャン師匠。ギルドマスターのあなたがそんなことでどうするんですか」

「お、おう…」

 呆れたように話続けるギルバートの表情は、背中に隠れているアルフレッドからは見えない。

「皆どしたの?飲みすぎて吐きそう???お水持ってこようか?」

「アルフレッド…天使…」「それに比べて…やっぱ魔王じゃん…」

「…コップで飲むくらいでは足りなさそうですね?樽を用意しましょうか?」

 ギルバートの注意がジャンに集中したことで、他の男たちが小声で話始めると再び低い声が響いたので、男たちは「「「「ひっ」」」」と声をそろえて、我先にと全員で厨房へと水を取りに走った。

 全員が酒の入れ物を片付け、水の入ったグラスを3杯ずつ飲み干したころ、ギルバートはアルフレッドの持ったカップに2杯目の緑茶を注いでいた。ギルバートが手にしている水筒は、保温機能の付いた魔道具である。

「それで、魔獣の足跡を見つけたのはどなたですか?」

 両手でカップを握りしめたアルフレッドが、ふうふうと緑茶を冷ましながら尋ねる。

「おう、俺だよ」

「クラウスさん」

 クラウスと呼ばれたのは、先ほどジャンの背中を叩いた若い男だった。

「定期的な巡回の依頼の最中でな。あんまり人がいくところじゃないし、街の方に向かう足跡はなかったからひとまずそのままにしてある。おそらく熊型の魔獣で、成体。見る限りは一体のみだと思う。巣穴が近くにあるわけじゃなく、通りかかっただけみたいだな」

「了解。具体的な場所はわかる?」

 冒険者が使う用の地図をアルフレッドが広げると、クラウスが自分の通ったルートと見かけた範囲をきちんと示した。

「ありがとう。ギル、昨日探査魔法にかかった位置は?」

「我々が泊まったのがこの辺りですので、こちらからこう動いた形ですね」

 ギルバートが地図上を示すと、ジャンが唸り声をあげた。

「うーん。街へ近づいてきてはないが、人が通る道沿いを移動している可能性が高いな」

「これだと、近いうちに人と遭遇するかもしれませんね」

 ジャンの話にギルバートが相槌をうつ。

「じゃあ、早いうちに行ってしまおうか。ギル、すぐ行ける?」

 アルフレッドがギルバートに尋ねると、すぐさま肯定の返事が来る。

「俺らもすぐ準備するから、ちょっと待ってろ」

 ジャンが席を立ちかけるのを、アルフレッドが止めた。

「いや、師匠。今回は俺たち二人で大丈夫!」

 明るく言い切るアルフレッドに、ジャンが怪訝な顔をする。

「今回、ちょっと試したいことが色々あるので、俺たちだけの方が動きやすいんですよ」

 ギルバートがそう繋げると、ジャンは大げさにため息をついた。

「ほんっとにお前らは昔っから次々と…。俺のことも師匠なんて呼びやがるが、ほとんど自力で好き勝手やってるだろ。お前ら」

「そんなことないよ!いろんなことを師匠から教えてもらったから、それを元に考えれたことがいっぱいあるんだから!」

 アルフレッドが力説すると、ジャンが目を細めてアルフレッドの頭に手を伸ばそうとすると、その手をギルバートに握られた。

「そうですよ。ジャン師匠。師匠にはまだまだ教えていただきたいこともありますし、このギルドも師匠なしでは回りませんからね」

 握手をするように握った手に力を込めて、ギルバートがにっこりと笑った。

「わかったわかった!俺もまだまだ現役でいたいからな!お前たちの邪魔はしないでおとなしくしてるよ!」

「任せて!」

 顔を引きつらせたジャンが手を振りほどくと、アルフレッドが今回の作戦を簡単に説明する。

 作戦はこうだ。
 今回はまず、対象の魔獣を殺さず、大けがをしない程度に魔道具で衝撃を与える。それでも向かってくるようなら倒すが、もし逃げていくようなら新しく開発した魔道具で目印を付け、そのまま放す。
 目印を魔道具で追って、巣穴を確認。巣穴の場所が危険だったり、群れがあれば改めて討伐隊を組む。
 しかし、人が踏み入らない場所で単体で縄張りを持っているようなら、そのまま放置する。
 大型の魔獣の縄張りであれば、逆に他の魔獣が侵入してくるリスクも下がるうえに、痛い思いをした魔獣自体も自分から人里に近づくリスクも減るだろう…というものだ。

 さらに、今後の新たな防衛手段として、探索魔法を応用した簡易センサーも併せて説明する。
 街の入り口の周囲や、森の人が通る道の周囲などにロープ状の魔道具を張る。
 夜には、この魔道具を稼働させておくと、何者かがこのロープに触れると軽い雷魔法が発動し、触れたものを驚かせると同時に、ギルドの警報器が鳴るようにしておけば、魔獣や盗賊除けになり、警備もしやすくなるだろう…と伝えた。

「警戒用のロープの設置個所とかはさすがに師匠に任せるよ!」

「設置作業に関しては、私たちからの依頼ということでギルドに出させてもらいますね」

「ほんっとお前らは…。領主様の伯爵家からじゃなくて、お前らからかよ…」

 自分の頭をガシガシとかいて大きなため息をついた。

「まあいい。お前らが開発したものなら、効果も信用できるし、何よりアルフレッドがやるって言ってんだから俺らが反対する必要もねえよ」

「ありがとう!」

 満面の笑みを浮かべるアルフレッドと、その後ろで柔らかく微笑むギルバートを見やり、ジャンは今日何度目かわからない大きなため息をつく。

「ため息をつくと、幸せが逃げるらしいぞ」

「俺の幸せ、今日一日でどれだけ逃げてったよ…」

「他人の幸せは見せつけられてっけどな…」

「俺らもそろそろあっち側になるとするかね…」

「…そうだな…」

 ジャンとクラウスは、そう言いながらも大きく息を吐くとともに、顔を見合わせたのだった。
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