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第十四話 音の正体
しおりを挟む今宵もサリサリ……、とドアから音が聞こえた。けれど、今日は違った。
サリサリ……、サリサリ……
ポコポコ、ドン……
今まではサリサリ……と柔らかな音だったのだが、今日は違った。ドアを叩くような音だ。誰かがノックしたのかと思った私は「はーい」と返事をしてドアを開けた。
「……?」
やっぱり誰もいない。首を傾けた私は視線を落とした。そこには茶々さんが座っていて「ニャー」と一鳴きする。ドアから音がして私が開けるまでそんなに時間は経過していない。誰かが悪戯でノックしたと仮定するなら足音も、人影がないのもおかしい。
「うーん……。まさかとは思うけど、茶々さんじゃないよね?」
問えば茶々さんは後ろ脚で耳の後ろを掻いているところだ。動きを止めて伸びをした茶々さんが「ン、ニャー」ともう一度鳴いた。
翌日、私は千帆ちゃんにあることを依頼した。それは、ドアから音が聞こえたら連絡するから犯人(仮)を見てほしいというもの。
「いいよ! というか、ほとんど犯人(仮)は茶々さんで確定っぽいけどね」
千帆ちゃんが笑いながら言う。相変わらず彼女の部屋には音が鳴らないらしい。他の部屋は分からないが。
「よーし! それじゃあ、よろしくね」
「任せて!」
日が暮れて夕食、入浴を済ませた私は課題を終わらせてテレビを観ていた。
サリサリ……、ドンドン……!
(来た! 千帆ちゃんに連絡!)
音が鳴ってすぐ私はスマートフォンを操作して千帆ちゃんにメッセージを送った。すぐに既読が付いて千帆ちゃんの部屋の扉が開いた音がした。私はごくりと喉を鳴らす。
「あははっ! 茶々さん、何やってるの」
千帆ちゃんの笑い声に加えてシャッター音、そして「ニャー」と茶々さんの鳴き声が聞こえた。腰を浮かせた私に千帆ちゃんが「和ちゃん、来て~」と呼ぶ。私は笑いながらドアを開けた。
廊下には茶々さんと千帆ちゃんしかいない。予想通り連日の音の犯人は茶々さんで間違いなかったようだ。
「茶々さんがやっぱりドアの前で何かしてたんだね」
茶々さんへ向かって言うと、相手は「ンナー」と鳴きながら自分の体を舐めている。千帆ちゃんが腰を落として茶々さんを撫でながらスマートフォンを私へ渡した。
「はい、これ。現場」
言われて画面を見ると、そこに映っていたのは私の部屋の扉と茶々さん。
後ろ足で立って前脚をドアに掛けているところだった。どうやら開けてと言わんばかりにドアに前脚を乗せたはいいが、滑りがいいドアの前に脚を滑らせてしまった。廊下に足を着ける前に連続で前脚を動かしたためにサリサリ……、と音が聞こえていたらしい。次第に動きが激しくなった結果ドンドン、と叩くような音に変わったようだ。
「でも残念なのは、私からは直接見ることが出来ないんだよね……」
肩を落とした私に千帆ちゃんが「まあまあ」と笑う。毛繕いが終わった茶々さんが前脚を伸ばして伸びをしたあと座り直した。
「結局、茶々さんはドアを開けてほしかったんだね?」
問うても茶々さんは大きく口を開けて欠伸をするだけだった。
これ以降も茶々さんからのドアを叩く音は卒業するまで続いた。
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