翠眼の魔道士

桜乃華

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第十四話 精霊戦 2/3

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 ピィー、と鳴き声を上げながらピー助がセシリヤの前へと降り立った。未だに氷を纏うピー助にセシリヤは感心したように顔を近づけた。

 「魔力に応じて成長って……吸収する魔力に応じて能力も、姿も変わるってこと?」

 先ほどの戦闘でセシリヤの氷の魔力を吸収した影響でピー助の体も氷に対応できるようになったのだろう。パンディオンについての記述は少ない。師匠に読まされたどの本にも書かれていなかったことだ。興味深い。ピー助に触れると、冷気を纏う体は冷たかった。セシリヤの瞳が輝く。

 「これで学術論文を発表したら結構いい線いくのでは……?」

 「ねー」

 ぶつぶつ呟きながらセシリヤはふふふっ、と笑い出した。目の前ではピー助が嬉しそうに跳ねながらピィー、ピィーと鳴いている。

 「はっ! もしかして、他の属性もいける?」

 自分の世界に入り込みかけているセシリヤのポケットからティルラが何度も声を掛けるが、聞こえていないようだ。

 「ねーってば!」

 先ほどよりも大きな声を出してようやくセシリヤは気が付いた。

 「なによ、今考え事してて……」

 「その前に浄化しなくていいの?」

 「あ……」

 ティルラに言われてセシリヤは忘れていたと言わんばかりに氷漬けの精霊へ視線を送った。一部氷が溶け始めている。セシリヤはポケットに手を入れて魔石を取り出した。

 「ティルラ、どう? 浄化できそう?」

 「分からないけど、とりあえず魔力を吸収させて」

 分かった、とセシリヤは両手で魔石を持った。途端に淡い光が魔石から溢れてきた。魔力を吸収した魔石は輝きを増していく。

 「ねえ、これ割れたりしない?」

 不安を口にしたセシリヤにティルラは黙ったまま魔力を吸収し続けた。

 (これだけの魔力を吸収しているのに……セシリヤの魔力どうなってんの?)

 「ティルラ、まだ? 結構吸収してない?」

 「もう少し……」

 「ほんと……?」

 唇を尖らせるセシリヤに喋る元気は残っているのか、とティルラは彼女の魔力量に驚きつつも吸収する方に意識を集中させた。そうしている間にも氷は解け、汚染された水が一滴、一滴落ちてきた。

 「よしっ! いける」

 「へ⁉ ちょ、眩しっ」

 一層光が増してセシリヤは眩さに瞳を閉じた。ゆっくりと瞳を開くと、セシリヤの瞳にエメラルド色の長い髪が映った。魔石の中にいたティルラと同じ色。魔石へと視線を移せば、彼女の姿はなく、ただの石になっていた。

 「実体化したの……?」

 ポツリ、と零したセシリヤにティルラが顔だけ向けて柔らかく微笑んだ。
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