翠眼の魔道士

桜乃華

文字の大きさ
上 下
30 / 114

第二十七話 ご挨拶 1/2

しおりを挟む
 「セ、セシリヤさん⁉ 近くないですか?」

 上ずった声を出すミラにセシリヤは「そう?」と首を傾ける。

 「いつもミラこれくらいの距離だけど。さっきの転移魔法を使った時なんかもっと近かったじゃない」

 何を今さら、と口角を上げるセシリヤにミラが俯いて口ごもる。

 「(……自分から近づくのとは意味が違うんですよ)」

 「なにか言った?」

 ミラの独白は届いていなかったようで聞き返すセシリヤにミラは「なんでもありません」と首を左右に振る。

 「はああ……」

 深く重い息を吐きだすミラにセシリヤがどうしたの? と再び首を傾けた。

 「こんなんじゃ、僕カッコ悪いじゃないですか……」

 肩を落としている相手に「大丈夫よ、元からカッコよさは期待していないから」と言いかけて口を噤んだ。どちらかと言えば普段の彼からは“可愛い”という単語が一番よく似合う気がする。女の自分よりも男であるミラの方が可愛いと言うのも複雑なのだが……。

 「……そんなことないわよ?」

 「だいぶ間がありませんでしたか?」

 「……」

 ジッと見つめてくる相手の視線から逃れるようにセシリヤは顔を逸らした。それでもミラの視線が刺さって痛い。先ほどと立場が逆転してしまっている。話題を変えねば、とセシリヤは「あ!」と声を上げた。

 「そう、そうよ! ミラ、記憶の読み取り終ったんでしょ? クエスト完了ならさっさと帰るわよ」

 「そうでした。読み取りは完了してます。セシリヤさんが仰った通りクエスト管理協会へ報告があった怪鳥の大きさにだいぶ誤差がありましたね……」

 と言うか、とミラの視線がピー助へと向く。視線を受けたピー助がピッ、と鳴いた。

 「君が怪鳥だったんですね。パンディオンならクエストに挑戦した人たちと対峙するたびに魔力を吸収して大きくなるのも頷けます」

 「それもあるんだろうけど、ピー助の額に魔石が埋め込まれていたのよ。それが原因で間違いなさそうだけど、記憶の中で埋め込んだ者はいたの?」

 セシリヤの問いにミラは首を左右に振った。

 「残念ながら。パンディオンがここに来た時には既に額に魔石は埋め込まれていました。ここではないどこかで埋め込まれたんでしょう」

 「ピー助の記憶を読むことが出来れば分かるってことね」

 「僕にはそこまでのスキルはないのでお役に立てずすみません……」

 肩を落とすミラに「気にしないで」と笑いかける。

 「それはそうと、セシリヤさん」

 「ん?」

 「魔石を拾いませんでしたか?」
しおりを挟む

処理中です...