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第三十二話 膝枕 1/2
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「セシリヤ様」
アンディーンは声を上げると片手で水を操作した。水はセシリヤの背後に集まりクッションの役割を果たすと地面へと水たまりを作った。
「……」
「あのぉ……大丈夫ではなさそうですよ、ね?」
水たまりの上に仰向けになったセシリヤは助かったとはいえ背後がびしょ濡れになってしまい複雑な表情のまま無言になった。相手の反応にアンディーンが眉を下げながら問う。聞かなくともセシリヤの表情を見れば分かるのだが、問いが口をついて出てしまった。
「すみません! 危ないと思ったものですから、あの……すみません!」
アンディーンが謝罪と共に何度も頭を下げる。
「いや、大丈夫。魔法で乾かせるから。それよりも助けてくれてありがとう」
「いえ……とんでもないです。間に合って良かった」
安堵の息を吐いたアンディーンは仰向けになったままのセシリヤの元まで近づいた。彼女の胸元には気を失ったミラの頭が乗っている。洞窟の中というのを差し引いても彼の顔色は悪い。
「気を失っているようですね……」
「そうみたいね。力の使い過ぎかしら?」
セシリヤはミラの肩を押して自分の上から退かしながら言う。なんとか抜け出せたセシリヤはミラを仰向けにすると彼の口元へ耳を寄せて呼吸を確認した。規則正しい呼吸音に安堵して立ち上がる。
「セシリヤ様?」
目で追ったアンディーンに「ちょっと失礼」と告げると指を鳴らした。乾いた音が洞窟の中に響く。するとあっという間に濡れていたセシリヤの髪も服も乾いていた。目を丸くしているアンディーンに「湖の水に触れてもいいの?」とセシリヤが問うた。頷くと相手はポケットからハンカチを取り出すとそれを水の中へと浸した。軽く絞って戻ってくる。
「……さすがに岩だらけの地面に寝かせておくのは可愛そうよね」
「はい。おそらく痛いかと」
だよね、と肩を竦めたセシリヤはミラの両脇に手を入れて水たまりから引きずった。
(引きずるのも痛そうですが……)
アンディーンはミラを気の毒そうに見つめた。その間にもセシリヤはミラを引きずっている。
「よっ、と」
水たまりから離れた場所まで運び終えたセシリヤは一仕事終えたと言わんばかりの表情をしている。彼女はミラの頭の側で腰を下ろした。
「目が覚めるまでの間だけだからね」
念押ししたセシリヤはミラの頭を持ち上げると自分の太腿の上に乗せて、先程濡らしたハンカチを額の上へと乗せた。彼女の念押しは気を失っている相手に聞こえていないのでは? と思ったアンディーンは口には出さず心の内に留めておくことにした。
「ねえ、さっきから何をしていたの?」
黙っていたティルラが声を出す。ずっとポケットの中にいた彼女には声でしか状況を判断できない。アンディーンとセシリヤがコランマールで水が枯れた話をしていたと思えば、急に慌ただしく動き始めれば不思議に思うだろう。
「ああ。アンディーンと話していたら突然ミラが倒れたのよ」
それを助けただけ、と簡単に説明するセシリヤにティルラが純粋な疑問を口にした。
「風の魔法で助けなかったんだ」
「魔法を発動するのに少し時間が掛かるでしょ。……その前に体が勝手に動いていたのよ」
「ふ~ん。そういうものなんだ」
納得したような、そうでないような。煮え切らない返しをするティルラにセシリヤは居心地の悪さを感じて話題を変えた。
「そ、そうだ! アンディーン、さっき水でピー助に似た鳥を作ったわよね? どうやったの?」
「へ⁉ あ、ああ。はい、えっとまずは水を……」
(逃げた……。なんだかんだ邪険にしながらもセシリヤにとってミラは特別なのかしら)
ティルラは二人の関係に興味を持った。
アンディーンは声を上げると片手で水を操作した。水はセシリヤの背後に集まりクッションの役割を果たすと地面へと水たまりを作った。
「……」
「あのぉ……大丈夫ではなさそうですよ、ね?」
水たまりの上に仰向けになったセシリヤは助かったとはいえ背後がびしょ濡れになってしまい複雑な表情のまま無言になった。相手の反応にアンディーンが眉を下げながら問う。聞かなくともセシリヤの表情を見れば分かるのだが、問いが口をついて出てしまった。
「すみません! 危ないと思ったものですから、あの……すみません!」
アンディーンが謝罪と共に何度も頭を下げる。
「いや、大丈夫。魔法で乾かせるから。それよりも助けてくれてありがとう」
「いえ……とんでもないです。間に合って良かった」
安堵の息を吐いたアンディーンは仰向けになったままのセシリヤの元まで近づいた。彼女の胸元には気を失ったミラの頭が乗っている。洞窟の中というのを差し引いても彼の顔色は悪い。
「気を失っているようですね……」
「そうみたいね。力の使い過ぎかしら?」
セシリヤはミラの肩を押して自分の上から退かしながら言う。なんとか抜け出せたセシリヤはミラを仰向けにすると彼の口元へ耳を寄せて呼吸を確認した。規則正しい呼吸音に安堵して立ち上がる。
「セシリヤ様?」
目で追ったアンディーンに「ちょっと失礼」と告げると指を鳴らした。乾いた音が洞窟の中に響く。するとあっという間に濡れていたセシリヤの髪も服も乾いていた。目を丸くしているアンディーンに「湖の水に触れてもいいの?」とセシリヤが問うた。頷くと相手はポケットからハンカチを取り出すとそれを水の中へと浸した。軽く絞って戻ってくる。
「……さすがに岩だらけの地面に寝かせておくのは可愛そうよね」
「はい。おそらく痛いかと」
だよね、と肩を竦めたセシリヤはミラの両脇に手を入れて水たまりから引きずった。
(引きずるのも痛そうですが……)
アンディーンはミラを気の毒そうに見つめた。その間にもセシリヤはミラを引きずっている。
「よっ、と」
水たまりから離れた場所まで運び終えたセシリヤは一仕事終えたと言わんばかりの表情をしている。彼女はミラの頭の側で腰を下ろした。
「目が覚めるまでの間だけだからね」
念押ししたセシリヤはミラの頭を持ち上げると自分の太腿の上に乗せて、先程濡らしたハンカチを額の上へと乗せた。彼女の念押しは気を失っている相手に聞こえていないのでは? と思ったアンディーンは口には出さず心の内に留めておくことにした。
「ねえ、さっきから何をしていたの?」
黙っていたティルラが声を出す。ずっとポケットの中にいた彼女には声でしか状況を判断できない。アンディーンとセシリヤがコランマールで水が枯れた話をしていたと思えば、急に慌ただしく動き始めれば不思議に思うだろう。
「ああ。アンディーンと話していたら突然ミラが倒れたのよ」
それを助けただけ、と簡単に説明するセシリヤにティルラが純粋な疑問を口にした。
「風の魔法で助けなかったんだ」
「魔法を発動するのに少し時間が掛かるでしょ。……その前に体が勝手に動いていたのよ」
「ふ~ん。そういうものなんだ」
納得したような、そうでないような。煮え切らない返しをするティルラにセシリヤは居心地の悪さを感じて話題を変えた。
「そ、そうだ! アンディーン、さっき水でピー助に似た鳥を作ったわよね? どうやったの?」
「へ⁉ あ、ああ。はい、えっとまずは水を……」
(逃げた……。なんだかんだ邪険にしながらもセシリヤにとってミラは特別なのかしら)
ティルラは二人の関係に興味を持った。
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