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第五十七話 笑顔
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ミラと別れたセシリヤは真っ直ぐモンタナへ向かう。まだ日は暮れておらず、石畳は夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。途中で昨日まで枯れていた井戸を見つけて足を止めるとそこには数人が井戸を囲んでいた。一人が滑車を引いており、桶が見えた瞬間「おぉ!」と歓喜の声が上がった。桶を地面に降ろせば、反動で水が揺れて縁から少し零れる。水が掛かった小さな女の子が「つめたい~」と言いながらキャッキャッとはしゃいだ。
「井戸に水が戻るなんてねぇ~、生きていて良かったよ」
涙ぐむ老婆に若い男性が笑いながら「泣くなよ、ばーちゃん。ほら、水だ」と水が入った桶を目の前に差し出した。
「それにしてもどうして水が戻ったのかねぇ……」
中年の女性が不思議そうに零す。彼女の子供だろうか、小さな女の子が「わたし、しってるよ!」と声を上げた。大人たちはその子を見る。
「あのね、おひるにみたせいれいさんのおかげだよ!」
小さな手を左右に大きく広げて満面の笑みを向ける子供に大人たちは顔を見合わせる。そして母親らしき女性が膝を折って女の子と目線を合わせた。大きな掌が少女の頭に乗せられて優しく往復する。くすぐったそうにしている少女に女性は「そうね、きっと精霊さんのおかげね」と微笑んだ。
その様子を少し離れたところで見ていたセシリヤはブレスレットに触れてアンディーンへ話しかけた。
「だってさ」
――喜んでいるようで良かったです。ものすっごく恥ずかしかったですけど……
「あ、やっぱり恥ずかしかったんだ」
――恥ずかしかったですよ! あんな大勢の人間の前に姿を現すことだってしたことないのに、台詞まで……
思い出したのか、アンディーンの声が曇った。姿が見えずとも想像は出来る。きっとアンディーンは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っているのだろう。
「でもさ、昨日までは沈んだ顔をしていた人たちが今は笑顔だよ」
――……、笑顔ですか?
「うん。家族かな? みんな笑ってる。とってもいい顔してるよ」
セシリヤは眩しそうに双眸を細めた。
「だから、力を貸してくれてありがとう。アンディーン」
もう一度礼を述べたセシリヤにアンディーンは顔を上げた。薄暗い洞窟の中では喜んでいる人たちの様子が分からない。けれど、容易に想像できるのは日中に見た人間たちの顔を覚えているから。一度瞳を閉じたアンディーンは笑みを浮かべている人間たちの顔を思い描きながら「どういたしまして」と照れたように微笑んだ。
「井戸に水が戻るなんてねぇ~、生きていて良かったよ」
涙ぐむ老婆に若い男性が笑いながら「泣くなよ、ばーちゃん。ほら、水だ」と水が入った桶を目の前に差し出した。
「それにしてもどうして水が戻ったのかねぇ……」
中年の女性が不思議そうに零す。彼女の子供だろうか、小さな女の子が「わたし、しってるよ!」と声を上げた。大人たちはその子を見る。
「あのね、おひるにみたせいれいさんのおかげだよ!」
小さな手を左右に大きく広げて満面の笑みを向ける子供に大人たちは顔を見合わせる。そして母親らしき女性が膝を折って女の子と目線を合わせた。大きな掌が少女の頭に乗せられて優しく往復する。くすぐったそうにしている少女に女性は「そうね、きっと精霊さんのおかげね」と微笑んだ。
その様子を少し離れたところで見ていたセシリヤはブレスレットに触れてアンディーンへ話しかけた。
「だってさ」
――喜んでいるようで良かったです。ものすっごく恥ずかしかったですけど……
「あ、やっぱり恥ずかしかったんだ」
――恥ずかしかったですよ! あんな大勢の人間の前に姿を現すことだってしたことないのに、台詞まで……
思い出したのか、アンディーンの声が曇った。姿が見えずとも想像は出来る。きっとアンディーンは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っているのだろう。
「でもさ、昨日までは沈んだ顔をしていた人たちが今は笑顔だよ」
――……、笑顔ですか?
「うん。家族かな? みんな笑ってる。とってもいい顔してるよ」
セシリヤは眩しそうに双眸を細めた。
「だから、力を貸してくれてありがとう。アンディーン」
もう一度礼を述べたセシリヤにアンディーンは顔を上げた。薄暗い洞窟の中では喜んでいる人たちの様子が分からない。けれど、容易に想像できるのは日中に見た人間たちの顔を覚えているから。一度瞳を閉じたアンディーンは笑みを浮かべている人間たちの顔を思い描きながら「どういたしまして」と照れたように微笑んだ。
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