60 / 114
第五十七話 笑顔
しおりを挟む
ミラと別れたセシリヤは真っ直ぐモンタナへ向かう。まだ日は暮れておらず、石畳は夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。途中で昨日まで枯れていた井戸を見つけて足を止めるとそこには数人が井戸を囲んでいた。一人が滑車を引いており、桶が見えた瞬間「おぉ!」と歓喜の声が上がった。桶を地面に降ろせば、反動で水が揺れて縁から少し零れる。水が掛かった小さな女の子が「つめたい~」と言いながらキャッキャッとはしゃいだ。
「井戸に水が戻るなんてねぇ~、生きていて良かったよ」
涙ぐむ老婆に若い男性が笑いながら「泣くなよ、ばーちゃん。ほら、水だ」と水が入った桶を目の前に差し出した。
「それにしてもどうして水が戻ったのかねぇ……」
中年の女性が不思議そうに零す。彼女の子供だろうか、小さな女の子が「わたし、しってるよ!」と声を上げた。大人たちはその子を見る。
「あのね、おひるにみたせいれいさんのおかげだよ!」
小さな手を左右に大きく広げて満面の笑みを向ける子供に大人たちは顔を見合わせる。そして母親らしき女性が膝を折って女の子と目線を合わせた。大きな掌が少女の頭に乗せられて優しく往復する。くすぐったそうにしている少女に女性は「そうね、きっと精霊さんのおかげね」と微笑んだ。
その様子を少し離れたところで見ていたセシリヤはブレスレットに触れてアンディーンへ話しかけた。
「だってさ」
――喜んでいるようで良かったです。ものすっごく恥ずかしかったですけど……
「あ、やっぱり恥ずかしかったんだ」
――恥ずかしかったですよ! あんな大勢の人間の前に姿を現すことだってしたことないのに、台詞まで……
思い出したのか、アンディーンの声が曇った。姿が見えずとも想像は出来る。きっとアンディーンは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っているのだろう。
「でもさ、昨日までは沈んだ顔をしていた人たちが今は笑顔だよ」
――……、笑顔ですか?
「うん。家族かな? みんな笑ってる。とってもいい顔してるよ」
セシリヤは眩しそうに双眸を細めた。
「だから、力を貸してくれてありがとう。アンディーン」
もう一度礼を述べたセシリヤにアンディーンは顔を上げた。薄暗い洞窟の中では喜んでいる人たちの様子が分からない。けれど、容易に想像できるのは日中に見た人間たちの顔を覚えているから。一度瞳を閉じたアンディーンは笑みを浮かべている人間たちの顔を思い描きながら「どういたしまして」と照れたように微笑んだ。
「井戸に水が戻るなんてねぇ~、生きていて良かったよ」
涙ぐむ老婆に若い男性が笑いながら「泣くなよ、ばーちゃん。ほら、水だ」と水が入った桶を目の前に差し出した。
「それにしてもどうして水が戻ったのかねぇ……」
中年の女性が不思議そうに零す。彼女の子供だろうか、小さな女の子が「わたし、しってるよ!」と声を上げた。大人たちはその子を見る。
「あのね、おひるにみたせいれいさんのおかげだよ!」
小さな手を左右に大きく広げて満面の笑みを向ける子供に大人たちは顔を見合わせる。そして母親らしき女性が膝を折って女の子と目線を合わせた。大きな掌が少女の頭に乗せられて優しく往復する。くすぐったそうにしている少女に女性は「そうね、きっと精霊さんのおかげね」と微笑んだ。
その様子を少し離れたところで見ていたセシリヤはブレスレットに触れてアンディーンへ話しかけた。
「だってさ」
――喜んでいるようで良かったです。ものすっごく恥ずかしかったですけど……
「あ、やっぱり恥ずかしかったんだ」
――恥ずかしかったですよ! あんな大勢の人間の前に姿を現すことだってしたことないのに、台詞まで……
思い出したのか、アンディーンの声が曇った。姿が見えずとも想像は出来る。きっとアンディーンは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っているのだろう。
「でもさ、昨日までは沈んだ顔をしていた人たちが今は笑顔だよ」
――……、笑顔ですか?
「うん。家族かな? みんな笑ってる。とってもいい顔してるよ」
セシリヤは眩しそうに双眸を細めた。
「だから、力を貸してくれてありがとう。アンディーン」
もう一度礼を述べたセシリヤにアンディーンは顔を上げた。薄暗い洞窟の中では喜んでいる人たちの様子が分からない。けれど、容易に想像できるのは日中に見た人間たちの顔を覚えているから。一度瞳を閉じたアンディーンは笑みを浮かべている人間たちの顔を思い描きながら「どういたしまして」と照れたように微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる