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9.境界線を踏み越えて
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リサに手伝って貰って、外行きのドレスに着替えたシェーラはリサを伴ってアルトゥニス侯爵家の正門へと向かった。
「お待たせ致しました。お兄様、カイさん」
門前に停められた馬車の傍らに、それぞれ外出用のコートを羽織ったキースとカイの姿が既にあり、シェーラは小走りで駆け寄った。
「いや。じゃあ、行こうか」
「はい──あ」
「シェーラ?」
正門から出ようとして、ふと立ち止まったシェーラにキースが呼び掛けた。
シェーラは凹凸のない綺麗にならされた地面と赤褐色のレンガ道の境界線を見つめている。
「どうした?」
「あ、いえ。外出するんだなぁって思って」
もう何年、一歩先にあるレンガを踏んでなかっただろうか。
この線を踏み越えるだけで、アルトゥニス侯爵邸から出たことになる。
たったそれだけのことなのに、久しぶりすぎてシェーラの胸中はそわそわと変な緊張感に襲われた。
「久しぶりだからな。何なら、手を引いてあげようか?」
「もう、子供扱いしないで下さい」
そう言いつつも、シェーラは差し出されたキースの手を取り、一呼吸置いてから、ぴょんっと地面とレンガの境界線を跨いだ。
ヒールのか踵がカツンと鳴って、その音にほうっと息を吐く。
久しぶりの外に心許なさと新鮮味を感じた。
感慨のようなものが沸き上がってくるが、それは早々に消え失せた。
「数年ぶりの外出。まぁ、いつかはこんな日が来るとは思ってました。・・・・・・ですけど、まさかこんな理由で出ることになるとは流石に思ってませんでしたけど」
「ああ、まぁ、俺もそうだよ・・・・・・」
並んで遠い目をして空を仰ぐ兄妹は、これから出掛けるというのに、まるで長旅から帰ったかのような疲れを顔に滲ませていた。
「今からその調子でどうするんですか。シャキッとして下さい」
カイが二人の背中を叩くように叱咤して、馬車の扉を開ける。
キースにエスコートされたシェーラ、リサ、キースの順に乗ったのを確認し、カイ自身も馬車へと乗り込んだ。
車内の座席にはそれぞれ、キースとシェーラ、カイとリサが向き合うように座る。
「久々の馬車だから、もしかしたら乗り物酔いするかもしれない。気分が悪くなったら言ってね」
「ありがとうございます。でも、念のためにってリサが用意してくれた酔い止めを飲んで来たので大丈夫ですよ」
「そうか。君は気が利くな」
「恐れ入ります」
キースが確認し終えると後ろの壁をコンコンと叩き、
「出してくれ」
御者へ指示を出すと、馬車はゆっくりと動き出した。
車輪が回る音と同時に、床や座席から僅かな振動が伝わってくる。
シェーラは、窓から外を眺めた。
もう何年も外に出ていないため、街並みなどすっかり忘れてしまったが、それでも覚えのある建物や看板がちらほらと見える。
「あのパン屋さん。まだやってるんですね。あ、あそこは理容室だったのに、靴屋になってる。向こうに見える劇場は何か真新しくなりました?」
「ええ。パン屋さんは息子夫婦が継がれたそうで、今までの素朴で懐かしいパンに加え、最近では若い人向けの面白い新メニューも出してるそうです」
「理容室は確か、もっと広い店を出すって場所を変えたんじゃなかったかな?」
「はい。キース様のおっしゃる通りです。劇場の方は三年前に改装工事をして、塗装もしたようですよ」
ひとつひとつを見てシェーラが訊ね、キースたちが答える。
馬車が止まるまで、会話が尽きることはなかった。
そして、馬車がきっと停まり、シェーラたちは降りた。
到着した場所には、白い大きな建物が聳え立っている。
「話は俺とシェーラでするから、カイとリサはエントランスで待機しててくれ。何かあったら呼ぶから」
「了解しました」
「じゃあ、行こうか。シェーラ」
「はい」
シェーラはこくりと頷き、キースたちと共に正面の大きな扉へと向かって歩き出した。
「お待たせ致しました。お兄様、カイさん」
門前に停められた馬車の傍らに、それぞれ外出用のコートを羽織ったキースとカイの姿が既にあり、シェーラは小走りで駆け寄った。
「いや。じゃあ、行こうか」
「はい──あ」
「シェーラ?」
正門から出ようとして、ふと立ち止まったシェーラにキースが呼び掛けた。
シェーラは凹凸のない綺麗にならされた地面と赤褐色のレンガ道の境界線を見つめている。
「どうした?」
「あ、いえ。外出するんだなぁって思って」
もう何年、一歩先にあるレンガを踏んでなかっただろうか。
この線を踏み越えるだけで、アルトゥニス侯爵邸から出たことになる。
たったそれだけのことなのに、久しぶりすぎてシェーラの胸中はそわそわと変な緊張感に襲われた。
「久しぶりだからな。何なら、手を引いてあげようか?」
「もう、子供扱いしないで下さい」
そう言いつつも、シェーラは差し出されたキースの手を取り、一呼吸置いてから、ぴょんっと地面とレンガの境界線を跨いだ。
ヒールのか踵がカツンと鳴って、その音にほうっと息を吐く。
久しぶりの外に心許なさと新鮮味を感じた。
感慨のようなものが沸き上がってくるが、それは早々に消え失せた。
「数年ぶりの外出。まぁ、いつかはこんな日が来るとは思ってました。・・・・・・ですけど、まさかこんな理由で出ることになるとは流石に思ってませんでしたけど」
「ああ、まぁ、俺もそうだよ・・・・・・」
並んで遠い目をして空を仰ぐ兄妹は、これから出掛けるというのに、まるで長旅から帰ったかのような疲れを顔に滲ませていた。
「今からその調子でどうするんですか。シャキッとして下さい」
カイが二人の背中を叩くように叱咤して、馬車の扉を開ける。
キースにエスコートされたシェーラ、リサ、キースの順に乗ったのを確認し、カイ自身も馬車へと乗り込んだ。
車内の座席にはそれぞれ、キースとシェーラ、カイとリサが向き合うように座る。
「久々の馬車だから、もしかしたら乗り物酔いするかもしれない。気分が悪くなったら言ってね」
「ありがとうございます。でも、念のためにってリサが用意してくれた酔い止めを飲んで来たので大丈夫ですよ」
「そうか。君は気が利くな」
「恐れ入ります」
キースが確認し終えると後ろの壁をコンコンと叩き、
「出してくれ」
御者へ指示を出すと、馬車はゆっくりと動き出した。
車輪が回る音と同時に、床や座席から僅かな振動が伝わってくる。
シェーラは、窓から外を眺めた。
もう何年も外に出ていないため、街並みなどすっかり忘れてしまったが、それでも覚えのある建物や看板がちらほらと見える。
「あのパン屋さん。まだやってるんですね。あ、あそこは理容室だったのに、靴屋になってる。向こうに見える劇場は何か真新しくなりました?」
「ええ。パン屋さんは息子夫婦が継がれたそうで、今までの素朴で懐かしいパンに加え、最近では若い人向けの面白い新メニューも出してるそうです」
「理容室は確か、もっと広い店を出すって場所を変えたんじゃなかったかな?」
「はい。キース様のおっしゃる通りです。劇場の方は三年前に改装工事をして、塗装もしたようですよ」
ひとつひとつを見てシェーラが訊ね、キースたちが答える。
馬車が止まるまで、会話が尽きることはなかった。
そして、馬車がきっと停まり、シェーラたちは降りた。
到着した場所には、白い大きな建物が聳え立っている。
「話は俺とシェーラでするから、カイとリサはエントランスで待機しててくれ。何かあったら呼ぶから」
「了解しました」
「じゃあ、行こうか。シェーラ」
「はい」
シェーラはこくりと頷き、キースたちと共に正面の大きな扉へと向かって歩き出した。
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