8 / 19
8.きょうだい会議④
しおりを挟む
「フィーネ?」
「だって、おかしくない? いや、文書偽造してる時点でどこの家だろうとおかしいけど、エドゥーラ伯爵家のやったことって、露見したらうちに喧嘩売ったってことになるじゃない。うちってそこそこ歴史も権力もあるし、ようやく三代目の伯爵家がわざわざ怒りを買うような真似するかなって」
「まぁ、それはそうだな」
キースがふぅむ、と親指で顎を撫でる。
確かに、偽造婚姻届を提出したことも謎だが、何故アルトゥニス侯爵家、何故シェーラなのかも分からない。
そもそも原因はエドゥーラ側にあるのだろうが、ヘンドリック自身もシェーラと結婚したという話を誰かから聞かされた様子だった。
アルトゥニス侯爵家は貴族の中でも力のある家だ。そんな相手に新興貴族が喧嘩を売るような真似をするだろうか?
「考えられるのは、アルトゥニス侯爵家の縁者であると装い、何らかの取引を進めやすくするためとか? いや、流石にそんな真似されてたら父上たちの耳に入っているだろうし、俺は何も聞かされてないし」
キースは真っ先に思いついた予想を話した。
時期侯爵であるキースは、父であるアルトゥニス侯爵と侯爵家に関することは共有している。もし、キースが今話したようなことがあれば、自分が聞かされていないのはおかしいと、キースを腕を組み唸った。
「他の動機はともかく、シェーラに目をつけたのはバレにくいとでも思ったのかね?」
「そうじゃないかしら? そもそもの問題として、シェーラはまだ結婚出来ないし」
「うっ!」
マリーヌに横目で視線を向けられたフィーネは、言葉を詰まらせた。
姉妹の結婚は年功序列。よっぽどの事情がない限り、妹が姉より先に結婚することはない。
マリーヌが嫁いだ以上、次はフィーネの番なのだが、フィーネもシェーラに負けず劣らずの結婚願望のなさを持ち合わせていたため、いまだ実家暮らしをしている。
元々邸に籠りがちで、なおかつすぐに婚姻する予定のない理由からシェーラを選んだというのは、悪くない予想だろう。
何故、婚姻届が出されたのか。
何故、エドゥーラ伯爵家とアルトゥニス侯爵家なのか。
とにかく、今気になる大きな問題はこの二つであった。
「考えれば考える程、訳が分からなすぎて気味が悪いな」
動機らしい動機が分からない。
関わりの全くないエドゥーラ伯爵家に、荒唐無稽な偽造婚姻届。
犯人も真相も闇の中で、得体が知れない。少なくとも、いい気分になれる状況ではなかった。
「何で、よりによって父上たちが不在の時にこんなことが起こるかなぁ・・・・・・」
「シェーラもお兄様も、ほんとご愁傷さま」
頭を抱えるキースにぽんっと手を置き、フィーネは言った。
「キース様」
退室していたカイが戻ってきて、キースに呼び掛ける。
「そろそろお時間ですので、準備を。シェーラ様も」
「ああ、分かった」
カイに言われて、シェーラが時計を見ると、役所へ行く時間が迫っていた。
ちくたくと正常に進む秒針を見て、シェーラの心は重石をつけられたように重くなる。
「リサ、準備を手伝ってちょうだい」
「かしこまりました」
どうしたって行かなくてはいけないのだ。
シェーラはリサにそう言うと、心と同じくらい重い腰を上げ、立ち上がった。
「表に馬車を用意してあります」
「ああ。わかった。シェーラ、準備が終わったら、そのまま門までおいで」
「わかりました」
自分と同時に立ち上がったキースに言われ、シェーラは頷いた。
「じゃあフィーネ、留守は任せたぞ。マリーヌはどうする?」
「はぁい」
「お兄様、今日は泊まっていってもいいかしら?」
「それは構わないが」
嫁いだ後も、マリーヌの私室はそのままになっている。しかし、度々遊びに来ることはあっても、マリーヌがアルトゥニス侯爵家に泊まることはほとんどない。
キースが何故だと表情でマリーヌに訊ねる。
「わたくしも気になるし──それに、夕方にはリオールも帰ってくるのでしょう? 止める者は多いに越したことはないわ。主人には連れてきた公爵家の者に言伝てさせますわ」
「確かに。それは助かる。分かった。カイ、出掛ける前に侍女たちにマリーヌの部屋を掃除するよう命じておいてくれ」
「了解しました」
夕方に帰って来る弟は、話を聞けばヘンドリックの頬を陥没させに飛び出して行きかねないなと、その姿がありありと想起され、キースは納得してカイに頼んだ。
「はぁ」
そんなやり取りの端で、憂鬱からシェーラが密やかにため息を吐いた。
目敏くそれに気づいたマリーヌは、シェーラの気持ちを慮り、優しく頭を撫でる。
「久しぶりの外出がこんなことになったのは残念だけれど、どうせならいい機会だと思って、少し外で羽を伸ばしてらっしゃい」
「・・・・・・はい」
マリーヌにそう言われて頷いたものの、やはり気分は沈んだままだった。
「だって、おかしくない? いや、文書偽造してる時点でどこの家だろうとおかしいけど、エドゥーラ伯爵家のやったことって、露見したらうちに喧嘩売ったってことになるじゃない。うちってそこそこ歴史も権力もあるし、ようやく三代目の伯爵家がわざわざ怒りを買うような真似するかなって」
「まぁ、それはそうだな」
キースがふぅむ、と親指で顎を撫でる。
確かに、偽造婚姻届を提出したことも謎だが、何故アルトゥニス侯爵家、何故シェーラなのかも分からない。
そもそも原因はエドゥーラ側にあるのだろうが、ヘンドリック自身もシェーラと結婚したという話を誰かから聞かされた様子だった。
アルトゥニス侯爵家は貴族の中でも力のある家だ。そんな相手に新興貴族が喧嘩を売るような真似をするだろうか?
「考えられるのは、アルトゥニス侯爵家の縁者であると装い、何らかの取引を進めやすくするためとか? いや、流石にそんな真似されてたら父上たちの耳に入っているだろうし、俺は何も聞かされてないし」
キースは真っ先に思いついた予想を話した。
時期侯爵であるキースは、父であるアルトゥニス侯爵と侯爵家に関することは共有している。もし、キースが今話したようなことがあれば、自分が聞かされていないのはおかしいと、キースを腕を組み唸った。
「他の動機はともかく、シェーラに目をつけたのはバレにくいとでも思ったのかね?」
「そうじゃないかしら? そもそもの問題として、シェーラはまだ結婚出来ないし」
「うっ!」
マリーヌに横目で視線を向けられたフィーネは、言葉を詰まらせた。
姉妹の結婚は年功序列。よっぽどの事情がない限り、妹が姉より先に結婚することはない。
マリーヌが嫁いだ以上、次はフィーネの番なのだが、フィーネもシェーラに負けず劣らずの結婚願望のなさを持ち合わせていたため、いまだ実家暮らしをしている。
元々邸に籠りがちで、なおかつすぐに婚姻する予定のない理由からシェーラを選んだというのは、悪くない予想だろう。
何故、婚姻届が出されたのか。
何故、エドゥーラ伯爵家とアルトゥニス侯爵家なのか。
とにかく、今気になる大きな問題はこの二つであった。
「考えれば考える程、訳が分からなすぎて気味が悪いな」
動機らしい動機が分からない。
関わりの全くないエドゥーラ伯爵家に、荒唐無稽な偽造婚姻届。
犯人も真相も闇の中で、得体が知れない。少なくとも、いい気分になれる状況ではなかった。
「何で、よりによって父上たちが不在の時にこんなことが起こるかなぁ・・・・・・」
「シェーラもお兄様も、ほんとご愁傷さま」
頭を抱えるキースにぽんっと手を置き、フィーネは言った。
「キース様」
退室していたカイが戻ってきて、キースに呼び掛ける。
「そろそろお時間ですので、準備を。シェーラ様も」
「ああ、分かった」
カイに言われて、シェーラが時計を見ると、役所へ行く時間が迫っていた。
ちくたくと正常に進む秒針を見て、シェーラの心は重石をつけられたように重くなる。
「リサ、準備を手伝ってちょうだい」
「かしこまりました」
どうしたって行かなくてはいけないのだ。
シェーラはリサにそう言うと、心と同じくらい重い腰を上げ、立ち上がった。
「表に馬車を用意してあります」
「ああ。わかった。シェーラ、準備が終わったら、そのまま門までおいで」
「わかりました」
自分と同時に立ち上がったキースに言われ、シェーラは頷いた。
「じゃあフィーネ、留守は任せたぞ。マリーヌはどうする?」
「はぁい」
「お兄様、今日は泊まっていってもいいかしら?」
「それは構わないが」
嫁いだ後も、マリーヌの私室はそのままになっている。しかし、度々遊びに来ることはあっても、マリーヌがアルトゥニス侯爵家に泊まることはほとんどない。
キースが何故だと表情でマリーヌに訊ねる。
「わたくしも気になるし──それに、夕方にはリオールも帰ってくるのでしょう? 止める者は多いに越したことはないわ。主人には連れてきた公爵家の者に言伝てさせますわ」
「確かに。それは助かる。分かった。カイ、出掛ける前に侍女たちにマリーヌの部屋を掃除するよう命じておいてくれ」
「了解しました」
夕方に帰って来る弟は、話を聞けばヘンドリックの頬を陥没させに飛び出して行きかねないなと、その姿がありありと想起され、キースは納得してカイに頼んだ。
「はぁ」
そんなやり取りの端で、憂鬱からシェーラが密やかにため息を吐いた。
目敏くそれに気づいたマリーヌは、シェーラの気持ちを慮り、優しく頭を撫でる。
「久しぶりの外出がこんなことになったのは残念だけれど、どうせならいい機会だと思って、少し外で羽を伸ばしてらっしゃい」
「・・・・・・はい」
マリーヌにそう言われて頷いたものの、やはり気分は沈んだままだった。
722
あなたにおすすめの小説
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる