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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
プロローグ 婚約破棄→キャットファイト
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「このっ! 泥棒猫!」
「はぁっ!? 何よっ、性悪女!」
バチンッ、バチンッという乾いた音が罵詈雑言と共に飛び交う社交場。
今、ここは紳士淑女の集いとは思えぬ空気に包まれていた。
事の発端はこのレイセン王国の第三王子であるギーシャ・ライゼンベルトが婚約者であるシュナイザー侯爵家ことリンス・シュナイザー嬢に婚約破棄の宣言をしたことだった。
何だっけ? 確か、
「俺はこのマリス嬢を愛してしまった。お前のことは愛せない。だから婚約を破棄してくれ」
とかどうたら。
その時、マリス嬢──マリス・リアルビーはギーシャ王子の腕に腕を絡めてぴっとりと引っ付いていた。婚約破棄の話の最中に何でそんなことしちゃってるの。そして、ギーシャ王子。貴方もなんで公衆の面前でそんな話を始めちゃったの。
私は二人の行動に半ば呆れながらも野次馬根性──もとい、好奇心からこの先が気になり、近くで観察していた。
当然、人の不幸は蜜の味、他人の噂話大好き! な貴族達の視線もそちらへ釘づけになっている。
リンス嬢は暫く呆然として、それから何かを考えていたようだけど気持ちを整えたらしく、落ち着いた様子でどういうことかと訊ねていた。
その際に握り締めた拳が震えていて、私はショックなんだろうなと思っていたけど、どうやら現状を見るに怒りで震えていたようだ。
問い詰めてくるリンス嬢をギーシャ王子がなんとか説得しようとしていると、それまでひっつき虫をしていたマリス嬢が、
「私とギーシャ王子は愛しあっているんです。悪いけど諦めて下さい。嫉妬はみっともないですよ」
とかなんたら言って、それに煽られたリンス嬢と何度か言い合ってからリンス嬢がマリス嬢の頬に思いっきりビンタをかましたのだ。
鋭い音にギーシャ王子も周囲も呆然。
マリス嬢は目を丸くして赤みの差した頬に触れて初めて叩かれたのに気づいたらしい。
そして、マリス嬢の反撃。
マリス嬢もリンス嬢に負けない程のビンタを繰り出し、それが試合開始のゴングになった。
二人の少女は互いをひっぱたきあい、罵り合い、周りが止めに入らなかったばかりに髪を掴んで終いには床に転がって揉みくちゃになっている。
わー、これがキャットファイトかぁ。
もっと近くで見たいと知らずに足が一歩二歩と前に進む。
じーっと彼女達を見ていると十五年ぶりに聞くワードが二人から飛び出してきた。
「うっさいわね! この世界はヒロインの私の為にあるんだからとっとと身を引いて大人しくしていなさいよ! この悪役令嬢!」
「は、はぁ!? ヒロインって貴女、ここが乙女ゲームの世界って知ってるの!? ああ、そういう事、それでヒロインポジを利用して私からギーシャを盗ったのね!? くそっ、予防線張っといたのにっ」
「乙女ゲームって・・・・・・あんたも転生者なワケっ? ああ、どうりで大事な場面で邪魔してくると思った!」
「当たり前でしょ!」
乙女ゲーム、ヒロイン、悪役令嬢。
うーわ、なつかし~。
そっかそっか、二人は転生者だったのね。だから社交場で掴み合いの喧嘩なんてこの世界じゃ常軌を逸したとしか思えない行動に出たわけね。いや、前の世界でも掴み合いの喧嘩は常識はずれだろうけど。
でも、二人とも十五年間この世界で生きてきたはずだろうに・・・・・・。そんなことも吹っ飛んじゃう程ギーシャ王子が好きなのか、或いは前世の性格が濃く出ているのか。
でもまさか、私以外にも転生者がいるとはなぁ。
そう、私も彼女達同様に転生者。といっても二人とは違ってゲームには全く関わらないキャラクター。
私は転生先がヒロイン達と同い年、同じ学園という立場だったのでずっと興味本位で観察してきたのだ。
まさか、中等部の卒業パーティーでこんなことになるとは思ってなかったけど。
う~ん、確かこのゲームって二部構成になっていて一部が中等部、二部が高等部のストーリーでリンス嬢との婚約破棄は二部でだった筈。
マリス嬢は早めにリンス嬢を排除したかったのかな?
そんなことを考えている最中にもキャットファイトはヒートアップしていく。二人は既に生傷だらけだ。
せっかくのドレスアップもメイクもぼろぼろで台無し。勿体ない。
というか、そろそろ誰か止めた方がいいんじゃない? 特に原因を作ったギーシャ王子とか。
いい加減にしないとまずいんじゃ──
あっ、マリス嬢に馬乗りになられたリンス嬢が足をマリス嬢のお腹に──巴投げ!
うっわ! すごい飛んだ! しかもリンス嬢ヒールだから絶対お腹も痛いよあれ!
てゆーかマリス嬢どうすんの!?
誰かキャッチして──
その時、私ははたと気づいた。マリス嬢が飛ばされた方角に。
マリス嬢は私に向かって飛んでくる。
ピンクのやたらふりふりしたドレスに包まれた背中が近づいて──ちょっ! まじか!?
どすんっ!
「ぜーはー! しゃあ! 勝った!」
という見えないがガッツポーズをしてそうなリンス嬢の声の後に、
「マリス! だいじょ──ってミリア!?」
マリス嬢に駆け寄って来たであろうギーシャ王子が恐らく下敷きになっている私に気づいて驚く声。
最後に、
「きゃー! ミリア様が!?」
「おい! 誰か担架持って来い!」
「は? 下敷きなったのミリア嬢なのか? それってまずくないか?」
そんな声がしたが、その時、私は既に痛みと衝撃で気を失っていた。
「はぁっ!? 何よっ、性悪女!」
バチンッ、バチンッという乾いた音が罵詈雑言と共に飛び交う社交場。
今、ここは紳士淑女の集いとは思えぬ空気に包まれていた。
事の発端はこのレイセン王国の第三王子であるギーシャ・ライゼンベルトが婚約者であるシュナイザー侯爵家ことリンス・シュナイザー嬢に婚約破棄の宣言をしたことだった。
何だっけ? 確か、
「俺はこのマリス嬢を愛してしまった。お前のことは愛せない。だから婚約を破棄してくれ」
とかどうたら。
その時、マリス嬢──マリス・リアルビーはギーシャ王子の腕に腕を絡めてぴっとりと引っ付いていた。婚約破棄の話の最中に何でそんなことしちゃってるの。そして、ギーシャ王子。貴方もなんで公衆の面前でそんな話を始めちゃったの。
私は二人の行動に半ば呆れながらも野次馬根性──もとい、好奇心からこの先が気になり、近くで観察していた。
当然、人の不幸は蜜の味、他人の噂話大好き! な貴族達の視線もそちらへ釘づけになっている。
リンス嬢は暫く呆然として、それから何かを考えていたようだけど気持ちを整えたらしく、落ち着いた様子でどういうことかと訊ねていた。
その際に握り締めた拳が震えていて、私はショックなんだろうなと思っていたけど、どうやら現状を見るに怒りで震えていたようだ。
問い詰めてくるリンス嬢をギーシャ王子がなんとか説得しようとしていると、それまでひっつき虫をしていたマリス嬢が、
「私とギーシャ王子は愛しあっているんです。悪いけど諦めて下さい。嫉妬はみっともないですよ」
とかなんたら言って、それに煽られたリンス嬢と何度か言い合ってからリンス嬢がマリス嬢の頬に思いっきりビンタをかましたのだ。
鋭い音にギーシャ王子も周囲も呆然。
マリス嬢は目を丸くして赤みの差した頬に触れて初めて叩かれたのに気づいたらしい。
そして、マリス嬢の反撃。
マリス嬢もリンス嬢に負けない程のビンタを繰り出し、それが試合開始のゴングになった。
二人の少女は互いをひっぱたきあい、罵り合い、周りが止めに入らなかったばかりに髪を掴んで終いには床に転がって揉みくちゃになっている。
わー、これがキャットファイトかぁ。
もっと近くで見たいと知らずに足が一歩二歩と前に進む。
じーっと彼女達を見ていると十五年ぶりに聞くワードが二人から飛び出してきた。
「うっさいわね! この世界はヒロインの私の為にあるんだからとっとと身を引いて大人しくしていなさいよ! この悪役令嬢!」
「は、はぁ!? ヒロインって貴女、ここが乙女ゲームの世界って知ってるの!? ああ、そういう事、それでヒロインポジを利用して私からギーシャを盗ったのね!? くそっ、予防線張っといたのにっ」
「乙女ゲームって・・・・・・あんたも転生者なワケっ? ああ、どうりで大事な場面で邪魔してくると思った!」
「当たり前でしょ!」
乙女ゲーム、ヒロイン、悪役令嬢。
うーわ、なつかし~。
そっかそっか、二人は転生者だったのね。だから社交場で掴み合いの喧嘩なんてこの世界じゃ常軌を逸したとしか思えない行動に出たわけね。いや、前の世界でも掴み合いの喧嘩は常識はずれだろうけど。
でも、二人とも十五年間この世界で生きてきたはずだろうに・・・・・・。そんなことも吹っ飛んじゃう程ギーシャ王子が好きなのか、或いは前世の性格が濃く出ているのか。
でもまさか、私以外にも転生者がいるとはなぁ。
そう、私も彼女達同様に転生者。といっても二人とは違ってゲームには全く関わらないキャラクター。
私は転生先がヒロイン達と同い年、同じ学園という立場だったのでずっと興味本位で観察してきたのだ。
まさか、中等部の卒業パーティーでこんなことになるとは思ってなかったけど。
う~ん、確かこのゲームって二部構成になっていて一部が中等部、二部が高等部のストーリーでリンス嬢との婚約破棄は二部でだった筈。
マリス嬢は早めにリンス嬢を排除したかったのかな?
そんなことを考えている最中にもキャットファイトはヒートアップしていく。二人は既に生傷だらけだ。
せっかくのドレスアップもメイクもぼろぼろで台無し。勿体ない。
というか、そろそろ誰か止めた方がいいんじゃない? 特に原因を作ったギーシャ王子とか。
いい加減にしないとまずいんじゃ──
あっ、マリス嬢に馬乗りになられたリンス嬢が足をマリス嬢のお腹に──巴投げ!
うっわ! すごい飛んだ! しかもリンス嬢ヒールだから絶対お腹も痛いよあれ!
てゆーかマリス嬢どうすんの!?
誰かキャッチして──
その時、私ははたと気づいた。マリス嬢が飛ばされた方角に。
マリス嬢は私に向かって飛んでくる。
ピンクのやたらふりふりしたドレスに包まれた背中が近づいて──ちょっ! まじか!?
どすんっ!
「ぜーはー! しゃあ! 勝った!」
という見えないがガッツポーズをしてそうなリンス嬢の声の後に、
「マリス! だいじょ──ってミリア!?」
マリス嬢に駆け寄って来たであろうギーシャ王子が恐らく下敷きになっている私に気づいて驚く声。
最後に、
「きゃー! ミリア様が!?」
「おい! 誰か担架持って来い!」
「は? 下敷きなったのミリア嬢なのか? それってまずくないか?」
そんな声がしたが、その時、私は既に痛みと衝撃で気を失っていた。
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