修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

逃走

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 怪奇小説とか読んだ。ホラー映画も見た。
 スプラッタにもグロにも耐性はある。
 が! それはあくまで創作物での話だ。リアルでホラーとか無理だから!

「ひぃいいい! まだ追ってきてるー!」
「何で手形なのかしら?」
「さぁ? でも、何かそんな都市伝説あったわよね。何だったかしら? あの擬音みたいな名前の」
「何でそんなに冷静なんですか──!?」
「ミリア嬢! 敵の正体が不明な以上、一時撤退は賛成ですが、とりあえず殿下とキリを放して下さい」
「先ぱーい。絞まってる、絞まってるから。流石に不味いです~」
「一人で走れるぞ?」

 何でこんな冷静なの、この人たち!
 血の手形が追ってきてるのに!

 私はこのまま走っていても、あの手形から逃げられないと思い、近くの扉を開け、その中に滑り込んだ。全員が入室したのを確認すると、勢いよく扉を閉める。内鍵もしっかり掛けた。
 大丈夫だよね? すり抜けて来たりしないよね。
 どぎまぎしながら扉に耳をつけ、外の音を訊く。

 外ではぺたり、ぺたりと何かを探すように扉付近を這っている足音──いや、手音?──がしてる。ひー!

「けほっけほっ、あーびっくりしたー。ミリア先輩、いきなり引っ張るんですもん」
「殿下、キリ、大丈夫ですか?」
「問題ない」

 私が扉を閉める際に手を放したから、勢い余って尻餅をついてしまったらしいギーシャとキリくんが床に座り込んでいる。私も腰が抜けてその場にぺたんとへたり込んでしまった。

「あばわわば、手が、手が、血血ち・・・・・・」
「ミリア、落ち着け、深呼吸だ」
「深呼吸? あ、腹式呼吸?」
「言語野が働いてないわね」

 無理無理無理。リアルホラーとか無理。
 怖い怖い怖いって!

「ほら、ゆっくり息を吸って」
「すー」
「吐いて」
「はー」
「よしよし、じゃあ繰り返して」
「すー、はー」

 ギーシャに促されるまま、深呼吸を繰り返し、私はなんとか正気に戻った。そして、真っ先にマリス嬢の肩を掴み、食い気味に名前を呼んだ。

「マリス嬢!」
「うわ、何?」
「あれ、魔法の類いですか? 魔法ですよね? そうだと言って!」

 間違ってもポルターガイストとかオカルトとかじゃないよね!?

「そうね。微量だけど、魔力を感じたから魔法だと思うわ」
「は~、セーフ」

 よし、魔法ならまだ対処の仕様もある。

「とりあえず、あの手形は室内には入って来ない様ですから、ここで対策を考えましょう」
「はーい。兄騎士様。ほら、ミリア先輩も立って立って」
「あ、うん」
「あはは。ミリア先輩、生まれたばかりのバンビみたいです!」

 だろうね! 腰が抜けてるからね!
 私はぶるぶる震える足でなんとかキリくんに手伝ってもらいながら立ち上がったが、今にもよろけそうだ。

「ミリア、椅子あった」
「ありがとね、ギーシャ」

 ギーシャが近くに椅子を置いてくれたから、私は遠慮なく腰かけた。皆立ってる中で申し訳ないけど、ありがたい。

「じゃ、じゃあ作戦会議を始めましょ~・・・・・・」
「声が上擦ってるわよ」

 あはは~、泣きそう。
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