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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
尋問タイム
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月明かりに照らされたシーエンス家の一角。
本館と離れの間にある空間。
そこでは現在進行形で尋問(?)が行われていた。
正面に私とギーシャ、両脇にマリス嬢とリンス嬢、背後にギルハード様とキリくん。
円を描くようにある人物を囲んでいる。
名前を知らないので、Xと読んでおこう。
Xは魔法で作られた縄で拘束されており、地面に胡座をかいている。
その視線は明後日の方角を向いており、特に焦燥や困惑といったものは感じられない。どうしようかなっと考えているような表情だった。なんというか、余裕綽々だな。
「お前があの闇魔法を操っていたのか? 何のために?」
ギーシャが訊ねるとXは怠そうに顔を上げ、うーんと考え込むような仕草をする。
「殿下、場所を変えましょう。私が訊き出します」
ギルハード様と一瞬、目があった。恐らく、手荒な尋問も視野に入れているのだろう。それを私たち女子に見せるのは気が引けるってことかな。
「そんな必要ないですよ、兄騎士様! ねぇ、お兄さん、王子様の質問に答えて? じゃないと──首の骨折るよ?」
「えー、そんな細腕で出来るの──って、ちょ、ギブギブ! 首折れる前に窒息する! ぅあ!」
キリくんがXの首に腕を回し、締め上げる。気道を圧迫されてるのか、苦しそうな声が上がった。
腕の筋力あんまないって言ってたのに。技術的なものなの?
「キリくん、ストップストップ! 死んじゃう! 死んじゃうから!」
「えー? これくらい大丈夫ですよ」
「いや、それ以上は不味い。キリ、放しなさい」
「はーい・・・・・・これくらいで壊れちゃうんだ。本当に脆いものなんだね、人体って」
ギルハード様に言われれば、あっさりとそれに従い、Xを解放したキリくん。
キリくんは手をぐーぱーさせながら、興味があるような、或いはどうでもよさそうな声でぽつりと呟いた。
「けほけほっ、いや、お前は人の体を鉄かなんかと思ってるわけ?」
「わぁ、鉄だといいね。体の強度が上がるし、わざわざ武器を手にする必要もないもん。あ、でも、やっぱり剣は使えるようになりたいからなぁ」
「ごめん、何の話?」
キリくんの謎体質の悩みなど知る筈もないXは置いてきぼりを食らったように突っ込んだ。
若干、迷走しつつある話を戻すべく、ギルハード様が咳払いをする。
「こほん。キリ、脱線するから少し黙ってなさい。とにかく移動を」
「待ってください」
ギルハード様が言い終える前にマリス嬢が待ったをかける。
「こんばんは」
「こんばんは」
無表情に挨拶するマリス嬢に、Xは笑顔で返した。
「貴方が闇魔法の使い手?」
「それ、わざわざ訊く必要ある? 白の魔力の使い手さん」
どこか皮肉を滲ませた声音に、マリス嬢が眉をぴくりと動かした。
「そうね。私なら分かるから。一応本人の口から確認しておきたかっただけよ。質問、いいかしら?」
「質問するのはそっちの自由。答えるのはこっちの自由でしょ」
「兄騎士様、やっぱりこの人絞めません? なんかムカつく」
「ふむ。同族嫌悪か?」
「どういう意味ですかぁ!?」
一触即発寸前のような雰囲気の脇で、子犬とその飼い主のやり取りのような微笑ましい光景が広がっていた。ああー、でもどんな状況でも動じず、マイペースなところは似てるかも。なんて言ったら矛先がこっちに向くから、言わないけど。
マリス嬢はそれを気にせず、話を続ける。
「貴方の飼い主はイシュアン卿? それともあの人に追従する誰か?」
──イシュアン卿。
マリス嬢に送られてきたあぶり出しの手紙にかかれていた名前。
魔法管理局を司る大臣の一人であり、魔法崇拝者。
マリス嬢がXに訊ねるということは、何か心当たりがあるのだろう。
その問いに、Xはびっくりするほどあっさり答えた。
「えっと~、今回は少しややこしいんだよね。飼い主がイシュアン卿なのは正解だけど、今回は命令──というか、依頼主が違うから」
「依頼主? それに飼い主って貴方、魔法管理局の人間なの?」
別に、闇魔法の使い手が魔法で働けないという話ではない。ただ、そもそも魔法犯罪の温床になっている闇魔法の使い手は魔法管理局に就職しないだろう。闇魔法の使い手OKって知らないってのもあるんだろうけど。
「違う違う。俺が所属しているのはランカータの方」
「ランカータ家?」
「そう言えば、あそこは独自の魔法犯罪対策法を練っていると聞き及んでいますが」
「ああ。確か──聖魔法団と言ったか?」
リンス嬢とギーシャ様はその聖魔法団? というのを知っているようだ。
え? ひょっとして有名なの? 私が知らないだけ?
説明求むというニュアンスでギーシャの袖を引っ張った。ギーシャはその僅かな動きから察してくれたようで、私の疑問に答えてくれた。
「ん? ああ。聖魔法団はランカータ家が抱えている私設組織だ。正直、俺もどんなものかは詳しくないが、魔法の神聖を守るための組織とだけ訊いたことがある」
「皆、知ってるの?」
「ランカータが古い家だからな。貴族なら知ってるんじゃないか?」
「私、知らなかった・・・・・・」
ちょっと、しょんぼり。貴族としての知識が足りないのか? 私。いやいや、これでも真面目にお勉強してるよ!?
「ああ。きな臭いとまでは言わないが、いまいちよく分からない集団だからな。父上が耳に入らないようにしてたんじゃないか?」
「陛下が? なんで?」
「あまりミリアに近づけたくなかったんじゃないか? 父上はそういう正体が曖昧なものが叔父上やお前たちに近づくのを嫌うから」
その一言で納得してしまった。
そして、疑問が浮上する。
私、あくまでゲーム知識でこの世界のことは知ってるけど、現実でのこの世界の知識には偏りがあるし。末っ子だし、大分大事に育てられてる自覚あるけど、ひょっとして自分が思ってるより世間知らず?
本館と離れの間にある空間。
そこでは現在進行形で尋問(?)が行われていた。
正面に私とギーシャ、両脇にマリス嬢とリンス嬢、背後にギルハード様とキリくん。
円を描くようにある人物を囲んでいる。
名前を知らないので、Xと読んでおこう。
Xは魔法で作られた縄で拘束されており、地面に胡座をかいている。
その視線は明後日の方角を向いており、特に焦燥や困惑といったものは感じられない。どうしようかなっと考えているような表情だった。なんというか、余裕綽々だな。
「お前があの闇魔法を操っていたのか? 何のために?」
ギーシャが訊ねるとXは怠そうに顔を上げ、うーんと考え込むような仕草をする。
「殿下、場所を変えましょう。私が訊き出します」
ギルハード様と一瞬、目があった。恐らく、手荒な尋問も視野に入れているのだろう。それを私たち女子に見せるのは気が引けるってことかな。
「そんな必要ないですよ、兄騎士様! ねぇ、お兄さん、王子様の質問に答えて? じゃないと──首の骨折るよ?」
「えー、そんな細腕で出来るの──って、ちょ、ギブギブ! 首折れる前に窒息する! ぅあ!」
キリくんがXの首に腕を回し、締め上げる。気道を圧迫されてるのか、苦しそうな声が上がった。
腕の筋力あんまないって言ってたのに。技術的なものなの?
「キリくん、ストップストップ! 死んじゃう! 死んじゃうから!」
「えー? これくらい大丈夫ですよ」
「いや、それ以上は不味い。キリ、放しなさい」
「はーい・・・・・・これくらいで壊れちゃうんだ。本当に脆いものなんだね、人体って」
ギルハード様に言われれば、あっさりとそれに従い、Xを解放したキリくん。
キリくんは手をぐーぱーさせながら、興味があるような、或いはどうでもよさそうな声でぽつりと呟いた。
「けほけほっ、いや、お前は人の体を鉄かなんかと思ってるわけ?」
「わぁ、鉄だといいね。体の強度が上がるし、わざわざ武器を手にする必要もないもん。あ、でも、やっぱり剣は使えるようになりたいからなぁ」
「ごめん、何の話?」
キリくんの謎体質の悩みなど知る筈もないXは置いてきぼりを食らったように突っ込んだ。
若干、迷走しつつある話を戻すべく、ギルハード様が咳払いをする。
「こほん。キリ、脱線するから少し黙ってなさい。とにかく移動を」
「待ってください」
ギルハード様が言い終える前にマリス嬢が待ったをかける。
「こんばんは」
「こんばんは」
無表情に挨拶するマリス嬢に、Xは笑顔で返した。
「貴方が闇魔法の使い手?」
「それ、わざわざ訊く必要ある? 白の魔力の使い手さん」
どこか皮肉を滲ませた声音に、マリス嬢が眉をぴくりと動かした。
「そうね。私なら分かるから。一応本人の口から確認しておきたかっただけよ。質問、いいかしら?」
「質問するのはそっちの自由。答えるのはこっちの自由でしょ」
「兄騎士様、やっぱりこの人絞めません? なんかムカつく」
「ふむ。同族嫌悪か?」
「どういう意味ですかぁ!?」
一触即発寸前のような雰囲気の脇で、子犬とその飼い主のやり取りのような微笑ましい光景が広がっていた。ああー、でもどんな状況でも動じず、マイペースなところは似てるかも。なんて言ったら矛先がこっちに向くから、言わないけど。
マリス嬢はそれを気にせず、話を続ける。
「貴方の飼い主はイシュアン卿? それともあの人に追従する誰か?」
──イシュアン卿。
マリス嬢に送られてきたあぶり出しの手紙にかかれていた名前。
魔法管理局を司る大臣の一人であり、魔法崇拝者。
マリス嬢がXに訊ねるということは、何か心当たりがあるのだろう。
その問いに、Xはびっくりするほどあっさり答えた。
「えっと~、今回は少しややこしいんだよね。飼い主がイシュアン卿なのは正解だけど、今回は命令──というか、依頼主が違うから」
「依頼主? それに飼い主って貴方、魔法管理局の人間なの?」
別に、闇魔法の使い手が魔法で働けないという話ではない。ただ、そもそも魔法犯罪の温床になっている闇魔法の使い手は魔法管理局に就職しないだろう。闇魔法の使い手OKって知らないってのもあるんだろうけど。
「違う違う。俺が所属しているのはランカータの方」
「ランカータ家?」
「そう言えば、あそこは独自の魔法犯罪対策法を練っていると聞き及んでいますが」
「ああ。確か──聖魔法団と言ったか?」
リンス嬢とギーシャ様はその聖魔法団? というのを知っているようだ。
え? ひょっとして有名なの? 私が知らないだけ?
説明求むというニュアンスでギーシャの袖を引っ張った。ギーシャはその僅かな動きから察してくれたようで、私の疑問に答えてくれた。
「ん? ああ。聖魔法団はランカータ家が抱えている私設組織だ。正直、俺もどんなものかは詳しくないが、魔法の神聖を守るための組織とだけ訊いたことがある」
「皆、知ってるの?」
「ランカータが古い家だからな。貴族なら知ってるんじゃないか?」
「私、知らなかった・・・・・・」
ちょっと、しょんぼり。貴族としての知識が足りないのか? 私。いやいや、これでも真面目にお勉強してるよ!?
「ああ。きな臭いとまでは言わないが、いまいちよく分からない集団だからな。父上が耳に入らないようにしてたんじゃないか?」
「陛下が? なんで?」
「あまりミリアに近づけたくなかったんじゃないか? 父上はそういう正体が曖昧なものが叔父上やお前たちに近づくのを嫌うから」
その一言で納得してしまった。
そして、疑問が浮上する。
私、あくまでゲーム知識でこの世界のことは知ってるけど、現実でのこの世界の知識には偏りがあるし。末っ子だし、大分大事に育てられてる自覚あるけど、ひょっとして自分が思ってるより世間知らず?
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