89 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
テロール子爵、ぶっちん
しおりを挟む
「さっき、管理室を見てきたました。以前、フロン公国で魔法犯罪組織から押収したという闇属性の魔法生物製造機の生成石が抜き取られていました。ご存知ですよね?」
えっと、生成石って人工の魔法生物を生み出すために必要な魔法石の一種だよね? 他にも、魔法道具の製造とかでも重宝されている。魔法石にも属性があって、属性と同じ色をした見た目は水晶のような石だ。
「ああ。蝙蝠を用意するために拝借した」
テロール子爵は本当に観念しているらしく、あっさりと認めた。
「やはり、そうでしたか。で、それは貴方が持ってるのよね?」
「ん? ああ、なんか渡されたこの黒い石ころのこと?」
マリス嬢に訊かれたイクスは、拘束された手を首に回すとつけていたチェーンを引っ張り、服の下に忍ばせていたトップを出す。微かなチェーンの擦れる金属音がして、ブラックホールみたいに黒い小さな丸い石がイクスの胸の前で揺れる。
「やっぱり。まだ持ってたのね」
「ひょっとして、昨日の蝙蝠って全部イクスがその場で造ってたの!?」
「そうだけど?」
闇魔法だったから、イクスが操ってるのは確定だろうと思ってたけど、あの場で造ってたのは予想外だった。
「えー・・・・・・製造機もなしで? 生成石と自前の魔力オンリーで?」
「うん」
「予め、造っといて召喚魔法で仕舞ったりじゃなくて?」
「あ、その手があったか!」
ぽんっと手を打つイクス。まじか。
この人も大概、デタラメだな。魔力ならテルファ様やお兄様たちに匹敵するかも。
もし、アルクお兄様とエンカウントしたら──あ、止めよう。想像したら胃が痛くなってきた。
兄の楽しそうな顔を思い浮かべ、私はぶんぶん頭を振った。
「にしても、ミッちゃん意外と強かったんだね。正直、そっちの白の魔力の使い手さんしか警戒してなかったからびっくりした」
「道具ありきだけどね」
「それでも魔力は強いでしょ? あー、こんな強いなら魔力食べてみたかったかも? てゆーか、魔力って美味しいの?」
「怖いこと言わないでよ。こっちは危うく命の危機だったんだからね」
うん。魔力食べられそうになるとか、普通に危なかったなぁ。冷静に頭が回るようになって、今更だけど、かなりピンチだったと気づく。
逆に、イクスは何か疑問を見つけたように「ん?」と呟いた。
「えー? 別に俺、ミッちゃんの魔力食べようとしただけで殺そうとはしてないよ?」
「は? いやいや、魔力食べようとしたじゃない」
「え?」
「ん?」
明らかに会話に齟齬がある。
私はこの齟齬の原因は何かと考え、一つだけ思い当たったから、それをイクスに問い掛けた。
「えーっと、イクスって魔力が何か知らない?」
「知ってるよ。魔法を使うために必要な不思議パワーだろ?」
「不思議パワー言っちゃってる時点で知ってるって言い難いよ!」
イクス、あんなに強いのに魔力について知らないのか。いや、まぁ魔力がどういうものか知らなくても感覚さえ掴めば魔法は使えるからなぁ。でも、レイセンの子なら誰でも知ってる──いや、イクスってレイセン出身? 魔力の高さからその可能性が高いけど、絶対レイセンってわけではないだろうし。
色々思案していると、何やら、かちかちという音が聞こえた。
「な・・・・・・な・・・・・・な・・・・・・」
それはわななくテロール子爵の口内で歯がぶつかる音の様だった。
「え? テロール子爵?」
「なんだとぉおおおおおおっ!!!?」
ブッチィィィイイイイ──!!!?
「ぎゃああああ!? テロール子爵が右縦ロールを引き抜いた────!?!? なんで!? すっごい音した! 痛い痛い!」
いや、実際痛いのはテロール子爵だろうけど、視覚的に痛い────!!!
えっと、生成石って人工の魔法生物を生み出すために必要な魔法石の一種だよね? 他にも、魔法道具の製造とかでも重宝されている。魔法石にも属性があって、属性と同じ色をした見た目は水晶のような石だ。
「ああ。蝙蝠を用意するために拝借した」
テロール子爵は本当に観念しているらしく、あっさりと認めた。
「やはり、そうでしたか。で、それは貴方が持ってるのよね?」
「ん? ああ、なんか渡されたこの黒い石ころのこと?」
マリス嬢に訊かれたイクスは、拘束された手を首に回すとつけていたチェーンを引っ張り、服の下に忍ばせていたトップを出す。微かなチェーンの擦れる金属音がして、ブラックホールみたいに黒い小さな丸い石がイクスの胸の前で揺れる。
「やっぱり。まだ持ってたのね」
「ひょっとして、昨日の蝙蝠って全部イクスがその場で造ってたの!?」
「そうだけど?」
闇魔法だったから、イクスが操ってるのは確定だろうと思ってたけど、あの場で造ってたのは予想外だった。
「えー・・・・・・製造機もなしで? 生成石と自前の魔力オンリーで?」
「うん」
「予め、造っといて召喚魔法で仕舞ったりじゃなくて?」
「あ、その手があったか!」
ぽんっと手を打つイクス。まじか。
この人も大概、デタラメだな。魔力ならテルファ様やお兄様たちに匹敵するかも。
もし、アルクお兄様とエンカウントしたら──あ、止めよう。想像したら胃が痛くなってきた。
兄の楽しそうな顔を思い浮かべ、私はぶんぶん頭を振った。
「にしても、ミッちゃん意外と強かったんだね。正直、そっちの白の魔力の使い手さんしか警戒してなかったからびっくりした」
「道具ありきだけどね」
「それでも魔力は強いでしょ? あー、こんな強いなら魔力食べてみたかったかも? てゆーか、魔力って美味しいの?」
「怖いこと言わないでよ。こっちは危うく命の危機だったんだからね」
うん。魔力食べられそうになるとか、普通に危なかったなぁ。冷静に頭が回るようになって、今更だけど、かなりピンチだったと気づく。
逆に、イクスは何か疑問を見つけたように「ん?」と呟いた。
「えー? 別に俺、ミッちゃんの魔力食べようとしただけで殺そうとはしてないよ?」
「は? いやいや、魔力食べようとしたじゃない」
「え?」
「ん?」
明らかに会話に齟齬がある。
私はこの齟齬の原因は何かと考え、一つだけ思い当たったから、それをイクスに問い掛けた。
「えーっと、イクスって魔力が何か知らない?」
「知ってるよ。魔法を使うために必要な不思議パワーだろ?」
「不思議パワー言っちゃってる時点で知ってるって言い難いよ!」
イクス、あんなに強いのに魔力について知らないのか。いや、まぁ魔力がどういうものか知らなくても感覚さえ掴めば魔法は使えるからなぁ。でも、レイセンの子なら誰でも知ってる──いや、イクスってレイセン出身? 魔力の高さからその可能性が高いけど、絶対レイセンってわけではないだろうし。
色々思案していると、何やら、かちかちという音が聞こえた。
「な・・・・・・な・・・・・・な・・・・・・」
それはわななくテロール子爵の口内で歯がぶつかる音の様だった。
「え? テロール子爵?」
「なんだとぉおおおおおおっ!!!?」
ブッチィィィイイイイ──!!!?
「ぎゃああああ!? テロール子爵が右縦ロールを引き抜いた────!?!? なんで!? すっごい音した! 痛い痛い!」
いや、実際痛いのはテロール子爵だろうけど、視覚的に痛い────!!!
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった
神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》
「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。
全3話完結
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる