修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

美人さんの訪問

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 騎士剣。
 それはレイセン王国における騎士の証。証明書のようなものだ。
 かつて、初代にして最強の称号を手にしたレイセン王国最高の剣聖・シルヴァ・リュソードの剣を模したものとされるその剣は、アイアンガーデンという武器職人の一族が作っている。
 シルヴァ様が初代国王・リスター・ライゼンベルトと共に竜を倒した際にも使われたという剣・屠竜剣。
 リスター王は竜を倒した際に手に入れた竜の鱗を使い、国境に壁を造らせた。
 竜鱗壁と呼ばれるその国防壁は他国にレイセン王国に竜殺しがいたと知らしめている。ま、実際は殺したんじゃなくて倒したんだけどね。そもそも、リスター王たちが竜と闘うことになった原因って、完全に自業自得だし。それでも今尚聳える竜鱗壁は他国の牽制に大いに役立っている訳だから、災い転じて福となるということだろう。いや、一番災い被ったのは鱗剥ぎ取られた竜なんだけど。

 とにかく、そんなこんなな逸話があるからレイセン王国では騎士の中の騎士=シルヴァ様ってことになっている。実際、シルヴァ様はリスター王の第一の騎士だったしね。だから、騎士たちはシルヴァ様の屠竜剣を模した剣を騎士の証としている。
 その騎士剣は騎士が候補生を認めた時にアイアンガーデンに依頼して作ってもらう。そして、騎士が候補生に三つの誓約を告げ、それを守ると候補生が誓った時、騎士剣は候補生の手に渡り、真の騎士となる。というのが一連の流れらしい。私も実際に見たことはないから、聞いた話によるとだけど。
 つまり、騎士剣を受け取ることが、誓いを立てることになるわけだから、授与の儀式で剣を放り投げるなんて誓約を拒絶するのうなものだ。
 キリくん、このこと気づいて──るよなぁ。自分のことだし。

「ギルハード様、キリくんをどうするつもりなんだろう?」

 ギルハード様だって、そもそもキリくんに剣を渡せないという問題に気づいているはずだ。それでもギルハード様はキリくんを弟騎士にしている。諦めろとは言わない。
 そのことを考えて、ぽつりと口から勝手に疑問が溢れた。別に、誰かに向かって言ったわけじゃない。でも私の言葉を拾ったギーシャは答えてくれた。

「まず、前提から問題があるからな。でもギルハードがあの子を自分の騎士候補生にしている以上、騎士にさせるために育てるだろう」
「うん。そうだね」

 そう言えば、『祝愛のマナ』でもギルハード様はキリくんに一回も諦めろとは言ってなかったなぁ。
 ゲームの内容を振り返ると、ギルハード様は『祝愛のマナ』では攻略対象だったけど、ギルハード様ルート以外でも重要人物だったことを思い出す。何せ、同じ攻略対象のギーシャの騎士でキリくんの兄騎士だから。
 キリくんのルートなんて毎節登場してたものね。というか、ギルハード様の好感度をそこそこ上げとかないとキリくんルートに入れないって設定があったくらいだし。しかも、ギルハード様に対する否定的な選択を一度でもするとそれ以上キリくんの好感度が上がらなくなって、恋愛エンド行けなかったらしいし。
 ちなみに、私はプレイしている時はギルハード様がお気に入りキャラだったから、選択ミスすることなく、さくさくキリくんルートを攻略出来た。あー、懐かしい。転生した今、プレイしていた時のこと思い出すと何だかむず痒いというか、恥ずかしくなっちゃうけど。
 キリくんルートでも結局、キリくんの体質は治らなかったし、恋は実っても騎士になる夢はまだ道半ばって感じで終わってた。続編とかファンディスクとか公式ガイドブックとかでも触れられてなかったし、シナリオライターが理由考えてないんじゃっていう疑惑もあったし。
 いや、でもここは現実。理由はあるはず。武器が吹っ飛ぶ理由。武器が吹っ飛ぶ理由。

「う~ん・・・・・・」
「ミリア、ミリア」

 キリくんの体質について考えていると、ギーシャにぽんぽんと肩を叩かれた。

「ん? なぁに?」
「ミリアに客人みたいだぞ」

 ギーシャがいつの間にか現れていたシーエンス家の使用人さんを指して言う。

「客人? あ!」

 私を訊ねてくる人物に思い当たり、私は笑いながら手を打った。

「そっかそっか! わざわざ来てくれたのかぁ。ちょっと行ってくるね」
「ああ」

 ギーシャにそう告げて、私は使用人さんに案内されながらお客さんの元へ向かった。

「クロエ! わざわざ届けに来てくれたの?」
「ええ。今日は時間も空いてたし、興味もあったから」

 そう答えたのはこの間まで一緒の中等部の制服を来ていたとは思えない艶やかな美人さん。
 さらりと流れる黒に近い紫色の髪と蠱惑的な蒼い瞳。
 マリス嬢やリンス嬢も美人さんだけど、あの二人とはまた毛色が違う。
 そんな彼女はクロエ・テンツェル。初等部からの付き合いの友人だ。
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