修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

町中の再会

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「あああ~、どうしよう、これ? 弁償? 弁償なの? お小遣いが~」

 魔法道具を抱え、走る馬車の中でぶるぶる震える。
 メイアーツ家は決して貧しくない。お母様とお姉様の趣味が高じて新しい事業を始め、それが軌道に乗って特にお金には困っていない。
 が、それなのに──というか、だからこそなのかメイアーツ家はお母様に徹底されたお小遣い制度を敷かれている。
 一月に貰える基本金額は平民と同じくらい。ここに、前の月の功績──お手伝いをしたり、何か大きなことをやり遂げたり──が加算された額を与えられる。
 今回は色々とお願いしまくって前借りをさせて貰ったのに、この上更なる出費は懐がツンドラになる。もう春なのに。
 というわけで、何故壊れたのかは不明だけど、私は戦々恐々だ。
 それに、これすっごくいい品だから、普通に申し訳ない。部分的な破損だから、直せるとは思うんだけど──。

「ん? あ!」

 窓の外にとある人物を捉え、私は窓を開いて大声で呼んだ。そうだ、彼は確か──

「エリックさーん! エリックさん、丁度いいところに! って、ああ~、遠ざかる~。御者さん、止めてください!」
「え? って、あんたは昨日の──」

 私が見つけたのは、昨日猫の爪で出会ったオレンジ髪のゴーグル青年──エリックさんだった。

「エリックさん! こここ、これ! これ引っ張って、押したらポロって! 説明書どおりに──なのに──直ります!?」

 私は馬車を降りると、エリックさんに駆け寄り、目をぐるぐるさせて捲し立てた。

「んん? ちょ、とりあえず落ち着けって。えーっと、あんたは───」

 面食らっているエリックさん。そういえば昨日は名乗ってなかった。

「ミリア・メイアーツです!」
「メイアーツ・・・・・・ああ、通りで王子と一緒にいたわけだな。とりあえず、立ち話で済む内容じゃないっぽいから場所変えね?」



 移動した先は、近くにあった落ち着いた雰囲気の喫茶店。レトロで花と木の香りがする可愛らしい内装の店だった。
 丁度、朝食の時間帯は過ぎているから、店内は混んでなかった。とはいえ、休み期間だからか、若い人がちらほらいる。

 私とエリックさんは店内はの置くの四人掛けの席に、向き合うように座った。入店しておいて何も頼まないわけにも行かないので、私は紅茶、エリックさんはアイスチョコレートを注文した。

「──で? これ?」
「はい・・・・・・ごめんなさい!」

 私はエリックさんにさっきの出来事を話し、テーブルに魔法道具を置いて頭を下げた。
 昨日のロイドさんに対する態度からして、すっごい怒られそうな気がしたけどエリックさんの反応は意外なほど淡白だった。

「そうか」
「へ? それだけって。あの、私これ壊して──」
「いや、これはそう簡単に壊れる造りにはしてない。というか、この俺の大発明が簡単に壊れて堪るか。多分、他に原因があるんだろう」

 そう言って、エリックさんは外れた部品を観察し始めた。
 原因はすぐ分かった。というか、一目瞭然だった。

「あ、これだわ」
「え?」
「だから、これ。このネジだよ」

 エリックさんが手にしていたのは、透明なネジ。しかし、それは明らかにおかしかった。
 何故なら、そのネジは先端が歪んでいたから。まるで、高熱で溶けてそのまま固まった鉄みたいに形が変形していた。
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