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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
外から見たレイセン王国
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ごっきゅごっきゅ。
「ぷはぁ~・・・・・・んー! やっぱお風呂上がりの珈琲牛乳はサイコーだわぁ」
「公爵令嬢でも腰に手を当てて珈琲牛乳一気飲みするんだな」
「大抵のご令嬢はしませんね!」
私は親指を立てていい笑顔で言った。
エリックさんは肩に掛けたタオルで、まだ濡れた髪をわしゃわしゃと拭いている。二つあるドライヤーのうち、私はリリーちゃんと最初に使わせて貰った。今はアリスさんとロイドさんが使っている。
「本当に公爵令嬢か?」
「正真正銘、公爵令嬢ですよ」
「それにしては、そういうオーラがない」
「自覚はあります」
「あるのか」
お嬢様ムーブを覚えただけで、根は庶民ですから。前世の記憶がある以上、生粋のお嬢様とはいきませんて。
「そういう貴方は少しは言葉遣いを改めなさい」
アリスさんがエリックさんの頭をぺちんと叩いた。
「えー、そういうの苦手」
「エリックは作ること以外は適当だもんねぇ。はい、ドライヤー」
髪を乾かし終えたロイドさんが、エリックさんにドライヤーを差し出す。アリスさんは髪が長いからもう少し時間が掛かりそう。
「だって、必要ねーじゃん。取引とかはロイドの担当だし、定住するわけでもないんだから。大体、国によって作法違ったりするから、覚えるのめんどいし」
「猫の爪は色んな場所を転々としているんですよね」
「はい。長くても一年で移動しますね。場合によっては数週間ということもあります。だから、エリックみたいなワーカーホリックな構成員は一度も外に出ないで移動──なんてこともありますね」
「数週間? 随分短いですね。何か理由が?」
小規模で簡素なテナントであれば難しいことはないだろうけど、数週間で移動することもあるって、何か一ヶ所に留まれない理由でもあるのだろうか。
まさか──指名手配──いやいや、それならそもそも入国する前に捕まってるって!
「大した理由はありませんよ。水が合わなかったりとか、治安の事情とか」
「ああ、なるほど」
猫の爪の問題ではなく、移動先での環境事情で長いが出来ないのか。
確かに、地域によっては飲み水がなくて、代わりにお酒とか飲む所もあるって訊くし。
年に数回、王様がレイセンの飲み水を生成出来る魔法官が派遣しているみたいだし。
基本、魔法で何でも解決出来るレイセンは本当に恵まれた豊かな国だ。その代わり、レイセンは大陸全土のあらゆる魔法に関するトラブルの解析や解決を一手に引き受けているわけだけど。
「ロイドさんたちから見て、レイセンはどういう国に見えますか?」
他所から来た人たちと話せる機会はあまりないから、訊いておこう。もしかしたら何かの役に立つかもしれないし。
「そうですね・・・・・・とても豊かで、強い国だと思いました。レイセンに近づくほど、この地に眠る大きな魔力の気配をひしひしと感じましたよ」
「そうそう。やっぱ源泉に近いだけあって、淀みが少ないんだよな。レイセン付近の霊脈で魔法道具作ったら、品質がぐっと跳ね上がった。代わりに、魔力が強すぎて最初は上手くいかなかったけど。あー、ここになら定住してもいいかもな」
ロイドさんとエリックさんはレイセン王国の魔力について語ってくれた。レイセンの話なら魔法は切り離せないから、予想通りではある。
アリスさんとリリーちゃんはどうだろう? 女性なら、また違った意見を訊けるかも。私はアリスさんたちもという意味を込めて、アリスさんたちに視線を向けた。アリスさんの髪はほとんど乾いていて、今は髪を溶かすのをリリーちゃんが台に乗って手伝っていた。
「素敵な国だと思いますよ。私の生まれた東にも魔力ではありませんが、不思議な力があったのですが・・・・・・その使い方は正しいとは言えない・・・・・・いえ、そもそも人の手に余るものでしたので。大きな力と共存出来ているのは良いことだと思います」
東の力。
そういえば、ゲームで少し触れられてたっけ。大陸の魔力や呪術のように東にも不思議な力が存在するって。
確か、妖力だったかな。東では魔力の代わりに妖力があり、魔物の代わりに妖怪が存在するって少し触れられてた。詳細は書かれていなかったからよく分からないけど、アリスさんの様子からして、東の人々はその力に手を焼いているようだ。
妖力か。魔法道具が大陸に普及しているように、今後、妖力に関するものが大陸に流れてくるかもしれないな。
「それから、個人的には柄物に興味があります!」
「柄物?」
「はい! レイセンの布やレースは柄やデザインのバリエーションが豊富で、見ていて飽きません! ファッションならやはり、フローラ王国が最先端と言われてますが、フローラで発表された服の布はレイセンのものがよく使われているので、一度レイセンのお店を見てみたいと思っていたのです!」
瞳をキラキラさせて、アリスさんは熱く語ってくる。どうやら、年頃の娘さんらしくファッションなどに興味津々のようだ。ひょっとして、エリックさんが言っていたのってアリスさんのことなのかな?
「ああ・・・・・・まぁ、フローラの女王様は第二夫人のパトロンですからね」
「ぱとろん?」
聞き慣れない言葉だったのだろう。リリーちゃんがきょとんとしながら、「どういう意味?」と言いたげな瞳で見上げてくる。
「うーんとね、パトロンっていうのは人の作るものとか、することが好きで、その人のことを頑張れーって応援してくれる人のことだよ」
私はリリーちゃんと目線を合わせるように屈んで答えた。こんな感じの返答で大丈夫かな?
「第二夫人って?」
「レイセンの王様の二番目のお嫁さんだよ」
「フローラの女王様は、レイセンの王様のお嫁さんを応援してるの?」
「あー、うん。そうだね」
一国の女王が他国の王妃のパトロン。
字面を見ればかなりおかしなことになってるけど、王妃様を芸術家に置き換えれば違和感はないだろう。
何せ、レイセン王国の第二夫人は王妃である前に、大陸全土に名を馳せる一流の芸術家なのだから。
「ぷはぁ~・・・・・・んー! やっぱお風呂上がりの珈琲牛乳はサイコーだわぁ」
「公爵令嬢でも腰に手を当てて珈琲牛乳一気飲みするんだな」
「大抵のご令嬢はしませんね!」
私は親指を立てていい笑顔で言った。
エリックさんは肩に掛けたタオルで、まだ濡れた髪をわしゃわしゃと拭いている。二つあるドライヤーのうち、私はリリーちゃんと最初に使わせて貰った。今はアリスさんとロイドさんが使っている。
「本当に公爵令嬢か?」
「正真正銘、公爵令嬢ですよ」
「それにしては、そういうオーラがない」
「自覚はあります」
「あるのか」
お嬢様ムーブを覚えただけで、根は庶民ですから。前世の記憶がある以上、生粋のお嬢様とはいきませんて。
「そういう貴方は少しは言葉遣いを改めなさい」
アリスさんがエリックさんの頭をぺちんと叩いた。
「えー、そういうの苦手」
「エリックは作ること以外は適当だもんねぇ。はい、ドライヤー」
髪を乾かし終えたロイドさんが、エリックさんにドライヤーを差し出す。アリスさんは髪が長いからもう少し時間が掛かりそう。
「だって、必要ねーじゃん。取引とかはロイドの担当だし、定住するわけでもないんだから。大体、国によって作法違ったりするから、覚えるのめんどいし」
「猫の爪は色んな場所を転々としているんですよね」
「はい。長くても一年で移動しますね。場合によっては数週間ということもあります。だから、エリックみたいなワーカーホリックな構成員は一度も外に出ないで移動──なんてこともありますね」
「数週間? 随分短いですね。何か理由が?」
小規模で簡素なテナントであれば難しいことはないだろうけど、数週間で移動することもあるって、何か一ヶ所に留まれない理由でもあるのだろうか。
まさか──指名手配──いやいや、それならそもそも入国する前に捕まってるって!
「大した理由はありませんよ。水が合わなかったりとか、治安の事情とか」
「ああ、なるほど」
猫の爪の問題ではなく、移動先での環境事情で長いが出来ないのか。
確かに、地域によっては飲み水がなくて、代わりにお酒とか飲む所もあるって訊くし。
年に数回、王様がレイセンの飲み水を生成出来る魔法官が派遣しているみたいだし。
基本、魔法で何でも解決出来るレイセンは本当に恵まれた豊かな国だ。その代わり、レイセンは大陸全土のあらゆる魔法に関するトラブルの解析や解決を一手に引き受けているわけだけど。
「ロイドさんたちから見て、レイセンはどういう国に見えますか?」
他所から来た人たちと話せる機会はあまりないから、訊いておこう。もしかしたら何かの役に立つかもしれないし。
「そうですね・・・・・・とても豊かで、強い国だと思いました。レイセンに近づくほど、この地に眠る大きな魔力の気配をひしひしと感じましたよ」
「そうそう。やっぱ源泉に近いだけあって、淀みが少ないんだよな。レイセン付近の霊脈で魔法道具作ったら、品質がぐっと跳ね上がった。代わりに、魔力が強すぎて最初は上手くいかなかったけど。あー、ここになら定住してもいいかもな」
ロイドさんとエリックさんはレイセン王国の魔力について語ってくれた。レイセンの話なら魔法は切り離せないから、予想通りではある。
アリスさんとリリーちゃんはどうだろう? 女性なら、また違った意見を訊けるかも。私はアリスさんたちもという意味を込めて、アリスさんたちに視線を向けた。アリスさんの髪はほとんど乾いていて、今は髪を溶かすのをリリーちゃんが台に乗って手伝っていた。
「素敵な国だと思いますよ。私の生まれた東にも魔力ではありませんが、不思議な力があったのですが・・・・・・その使い方は正しいとは言えない・・・・・・いえ、そもそも人の手に余るものでしたので。大きな力と共存出来ているのは良いことだと思います」
東の力。
そういえば、ゲームで少し触れられてたっけ。大陸の魔力や呪術のように東にも不思議な力が存在するって。
確か、妖力だったかな。東では魔力の代わりに妖力があり、魔物の代わりに妖怪が存在するって少し触れられてた。詳細は書かれていなかったからよく分からないけど、アリスさんの様子からして、東の人々はその力に手を焼いているようだ。
妖力か。魔法道具が大陸に普及しているように、今後、妖力に関するものが大陸に流れてくるかもしれないな。
「それから、個人的には柄物に興味があります!」
「柄物?」
「はい! レイセンの布やレースは柄やデザインのバリエーションが豊富で、見ていて飽きません! ファッションならやはり、フローラ王国が最先端と言われてますが、フローラで発表された服の布はレイセンのものがよく使われているので、一度レイセンのお店を見てみたいと思っていたのです!」
瞳をキラキラさせて、アリスさんは熱く語ってくる。どうやら、年頃の娘さんらしくファッションなどに興味津々のようだ。ひょっとして、エリックさんが言っていたのってアリスさんのことなのかな?
「ああ・・・・・・まぁ、フローラの女王様は第二夫人のパトロンですからね」
「ぱとろん?」
聞き慣れない言葉だったのだろう。リリーちゃんがきょとんとしながら、「どういう意味?」と言いたげな瞳で見上げてくる。
「うーんとね、パトロンっていうのは人の作るものとか、することが好きで、その人のことを頑張れーって応援してくれる人のことだよ」
私はリリーちゃんと目線を合わせるように屈んで答えた。こんな感じの返答で大丈夫かな?
「第二夫人って?」
「レイセンの王様の二番目のお嫁さんだよ」
「フローラの女王様は、レイセンの王様のお嫁さんを応援してるの?」
「あー、うん。そうだね」
一国の女王が他国の王妃のパトロン。
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