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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
硝子の歯車
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「リリーちゃん?」
「んとね、ミリーちゃん、これ」
「? 歯車?」
リリーちゃんから手渡されたのは、片手サイズの透明な歯車。質感からして硝子のようだ。
それに、少し魔力を感じる。何かの魔法道具の部品かな? でも、なんで私に渡したんだろう。
「硝子、綺麗。ミリーちゃんは好き?」
「え? うん。ステンドグラスとか、硝子細工とか綺麗だなーって思うよ」
「じゃあ、これあげるね」
小さな両手で歯車を押さえたリリーちゃんが、ぐっと私の手ごと歯車を押して、私の元へ寄せた。
「えっと、でもこれ、お店のものじゃ?」
「これはリリーの」
「ああ、それリリーが作ったやつか」
「これ、リリーちゃんが作ったんですか?」
「そうだぞ。リリーは部品作りの修行中だからな。まだ、粗が目立つから商品には使えねーけど。いいのか? それ、成功作だろ」
「うん」
リリーちゃんがこくりと頷いた。
って、今割りととんでもないこと言わなかった!?
「リリーちゃん。これ、上手に出来たものなんでしょう? 私が貰っちゃっていいの?」
「いいよ。それに、まだ修行中だから商品の部品には出来ないから。ミリーちゃんが持ってて・・・・・それに」
「それに?」
「・・・・・・」
「リリーちゃん?」
急にリリーちゃんが黙ってしまい、心配になって顔を覗き込むと、リリーちゃんは虚ろな目をしていてだらんと腕が人形のように垂れ下がった。
「っ!?」
「リリー!?」
「やばっ! ロイド!」
私が驚いていると、アリスさんがリリーちゃんに駆け寄り、エリックさんがロイドさんを呼ぶ。
「アリス、リリーをこっちへ」
「はい!」
アリスさんがリリーちゃんを支え、ロイドさんの元へ連れていくとロイドさんはリリーちゃんを抱き上げた。
「あの! リリーちゃんは・・・・・・」
「大丈夫ですよ、ミリア嬢は気にしないで下さい」
気にしないでと言われても、目の前で突然女の子の様子がおかしくなれば心配になる。どうしたんだろう?
「でも・・・・・・リリーちゃん?」
そっと頬に柔らかなものが触れる。
それは、ロイドさんに抱えられたリリーちゃんの手だった。ロイドさんの肩口から伸ばされた小さな手は私の頬をゆらゆらと撫で、リリーちゃんはぼんやりとした瞳で口を開いた。
「綺麗な国・・・・・・源泉の国・・・・・・混じりけのない・・・・・・だから、気をつけて・・・・・・一滴の黒で、全てが覆る」
「え・・・・・・?」
まるで、神託を告げる巫女のように、リリーちゃんはそう言い終えると意識を失った。
「リリーちゃん!」
「大丈夫です。ロイド、リリーをお願いします」
「うん。上に連れていくね」
アリスさんに支えられ、私は椅子に腰を下ろした。
ロイドさんはリリーちゃんを連れて部屋を退室する。上の階に行くのだろう。
「今のは・・・・・・?」
「時々あるんです。リリーがあんな風になることは」
「驚いただろ? でも、目が覚めればけろりとしてるから、気にするな。なんだっけ? アリスの国の似た奴──」
「神憑りですか?」
「そうそれ。それに似たようなやつ──って、言っても伝わんねーか。えーと」
エリックさんは説明に窮しているようだったけど、それ以上にリリーちゃんの言ったことが気になった。
──混じりけのない──一滴の黒で、全てが覆るから。
──混ざりものさえ取り除けば問題ない。
今朝の聖女様の言葉と重なるような?
混ざりものとはなんだろうと考える私の手の中で、硝子の歯車が光を反射してきらりと輝いた。
「んとね、ミリーちゃん、これ」
「? 歯車?」
リリーちゃんから手渡されたのは、片手サイズの透明な歯車。質感からして硝子のようだ。
それに、少し魔力を感じる。何かの魔法道具の部品かな? でも、なんで私に渡したんだろう。
「硝子、綺麗。ミリーちゃんは好き?」
「え? うん。ステンドグラスとか、硝子細工とか綺麗だなーって思うよ」
「じゃあ、これあげるね」
小さな両手で歯車を押さえたリリーちゃんが、ぐっと私の手ごと歯車を押して、私の元へ寄せた。
「えっと、でもこれ、お店のものじゃ?」
「これはリリーの」
「ああ、それリリーが作ったやつか」
「これ、リリーちゃんが作ったんですか?」
「そうだぞ。リリーは部品作りの修行中だからな。まだ、粗が目立つから商品には使えねーけど。いいのか? それ、成功作だろ」
「うん」
リリーちゃんがこくりと頷いた。
って、今割りととんでもないこと言わなかった!?
「リリーちゃん。これ、上手に出来たものなんでしょう? 私が貰っちゃっていいの?」
「いいよ。それに、まだ修行中だから商品の部品には出来ないから。ミリーちゃんが持ってて・・・・・それに」
「それに?」
「・・・・・・」
「リリーちゃん?」
急にリリーちゃんが黙ってしまい、心配になって顔を覗き込むと、リリーちゃんは虚ろな目をしていてだらんと腕が人形のように垂れ下がった。
「っ!?」
「リリー!?」
「やばっ! ロイド!」
私が驚いていると、アリスさんがリリーちゃんに駆け寄り、エリックさんがロイドさんを呼ぶ。
「アリス、リリーをこっちへ」
「はい!」
アリスさんがリリーちゃんを支え、ロイドさんの元へ連れていくとロイドさんはリリーちゃんを抱き上げた。
「あの! リリーちゃんは・・・・・・」
「大丈夫ですよ、ミリア嬢は気にしないで下さい」
気にしないでと言われても、目の前で突然女の子の様子がおかしくなれば心配になる。どうしたんだろう?
「でも・・・・・・リリーちゃん?」
そっと頬に柔らかなものが触れる。
それは、ロイドさんに抱えられたリリーちゃんの手だった。ロイドさんの肩口から伸ばされた小さな手は私の頬をゆらゆらと撫で、リリーちゃんはぼんやりとした瞳で口を開いた。
「綺麗な国・・・・・・源泉の国・・・・・・混じりけのない・・・・・・だから、気をつけて・・・・・・一滴の黒で、全てが覆る」
「え・・・・・・?」
まるで、神託を告げる巫女のように、リリーちゃんはそう言い終えると意識を失った。
「リリーちゃん!」
「大丈夫です。ロイド、リリーをお願いします」
「うん。上に連れていくね」
アリスさんに支えられ、私は椅子に腰を下ろした。
ロイドさんはリリーちゃんを連れて部屋を退室する。上の階に行くのだろう。
「今のは・・・・・・?」
「時々あるんです。リリーがあんな風になることは」
「驚いただろ? でも、目が覚めればけろりとしてるから、気にするな。なんだっけ? アリスの国の似た奴──」
「神憑りですか?」
「そうそれ。それに似たようなやつ──って、言っても伝わんねーか。えーと」
エリックさんは説明に窮しているようだったけど、それ以上にリリーちゃんの言ったことが気になった。
──混じりけのない──一滴の黒で、全てが覆るから。
──混ざりものさえ取り除けば問題ない。
今朝の聖女様の言葉と重なるような?
混ざりものとはなんだろうと考える私の手の中で、硝子の歯車が光を反射してきらりと輝いた。
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