修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶

文字の大きさ
121 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

とあるヤバい御仁

しおりを挟む
 エリックさんの方からエーデルグランの話を振ってくるなんて、なんて都合のいい。
 いや、待て待て私。
 どうしてエリックさんはそんな話を?

「レイセンと帝国の関係が気になるのですか?」
「まあな。ロイドの話だとレイセンには結構長く滞在する予定みたいだから、色々調べとこうと思って。公爵令嬢ならそういうのも耳に入ってるんじゃないか?」
「ああ、そうだったんですね」

 来たばかりの土地で情報収集するのは普通だもんね。
 特に、エリックさんたちみたいな旅をしている人たちにとってはいざこざとかに巻き込まれるのは避けたいだろうし。帝国のちょっとアレな国風を知っているのなら、帝国の動きを気にして当然だろう。

「レイセンと帝国の関係は今のところ、何もないですね」
「何も?」
「はい。帝国の王女であった第一夫人も大分前に病没されましたし。式典で帝国の方を招待するとかはありますけど、これと言った繋がりはないですね。強いて挙げるなら、テルファ様と王女様の婚約くらいでしょうか?」

 第一夫人は帝国王女。この不文律により、王太子であるテルファ様の婚約者はテルファ様が次期国王として決定した時に決まった。
 とはいえ、王女様は帝国にいるから、普段の交流は文通くらいってお兄様が言ってたけど。ま、婚約者と結婚するまでほとんど顔を合わせないっていうのは貴族社会では珍しいことでもない。
 私は婚約者とかいないからわかんないけど。

「ふーん。じゃ、今のところ安全?」
「はい。今の皇帝はエーデルグランの歴代の中では穏健な方だと窺ってますし」
「みたいだな。今の皇帝になってから近隣の国との争いも減ってるし」
「ただ──次の皇帝の代はどうなるか分かりませんね」
「次のって──帝国の王太子のことか? ヤバいの?」
「ヤバいですね」
「どれくらい?」
「えっと・・・・・・」

 あの王太子のヤバさを訊かれて、どう表現したらいいか言葉に詰まった。
 えぇ。あれを説明するの?
 なんだろ?
 アルクお兄様のヤバいところと、テルファ様の腹の底が見えないところと、怒り狂った王様の暴走っぷりを煮詰めて凝縮したような──じゃ、伝わんないよなぁ。

「えーと、壺があるじゃないですか」
「うん」
「その壺にサソリを入れます」
「うんうん」
「それから毒蛇とオオムカデも入れて蓋をします」
「ほうほう」
「あの、何の話ですか?」

 アリスさんが私の説明に困惑の表情を浮かべる。エリックさんは理解できているのか、うんうんと真面目に頷いている。
 すごいなー、エリックさん。私も自分で何言ってるか分かんないのに。

「で、それを嫌いな人にその人が大好きな人の名前で送ります」
「うわ、ひっどい」
「で、開けたら壺が爆発します」
「サソリや毒蛇の行はなんだったんですか!?」

 アリスさんの鋭い指摘をいただくが、私も何言ってるか分かんないからね。でも、こんな感じの人だ。

「そりゃ、ヤバいな。わかった」
「説明した私が言うのもなんですけど、よく分かりましたね」
「つまり、危険生物を入れた壺を相手が油断する人物の名前で贈る。開けたら爆発。もし不発に終わっても、中の危険生物による攻撃。 もし、生き物が死んでてもそれはそれで精神的なダメージを与えられる。更に爆発の威力が足りなかった場合も入れ物を壺にすることで、破片でさらに追加攻撃・・・・・・恐ろしいな。あ、もしかして、蠱毒とかいうやつも入ってるのか!?」
「すみません、そこまで考えてませんでした。けど、大体合ってます」
「合ってるんですか・・・・・・」

 私のめちゃくちゃな説明をエリックさんは真面目に解説してくれたようで、ごくりを神妙な面立ちで唾を飲み込んだ。
 でも、あの質の悪さと、周到さと、執念深さには当てはまると思う。

「ここにプラスでヤバい情報が」
「まだあるのか」
「ええ。実は──私、帝国の王太子とは三回しか会ったことがありません」

 にも関わらず、こんな印象である。

「「それは、ヤバいな(ですね)」」

 この一言に、エリックさんとアリスさんは口を揃えて言った。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった

神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》 「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」 婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。 全3話完結

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

処理中です...