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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
執務室での暴走
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天幻鳥を介して王の執務室を訪れたレイセン国王の聖女──シャーロットは、レヴェルの問いに答えた。
「いやー、ちょっとお話がありまして。悪いけど、ベルク以外は席を外してくれるかしら?」
シャーロットが文官たちに頼むと、彼らは聖女の言葉に従い、礼をすると退室した。書類を支えているせいで身動きの取れない者たちを除いて。
「・・・・・・はぁ」
レヴェルをため息を一つ吐くと、人差し指で宙に円を描いた。すると、ふわりと風が吹き、書類が舞い上がると、それらは風によって床に崩れない程度の高さに積み直された。
それを見た残りの文官たちも、礼をして部屋を後にする。
「私は退室しなくてよろしいのですか?」
「いいのいいの。というか、しないで。もしものことがあったら、この姿じゃ陛下を止められないもの」
シャーロットの言にベルクは嫌そうな顔をした。つまり、シャーロットがここを訪れた用向きとは自分がレヴェルを泊めなくてはならない事態になりかねない案件ということだ。
「で、何用だ」
「いや、えっと~」
「シーエンス家であったことか?」
「え? 知ってたの!?」
昨夜、シーエンス家で怒った事を話しかねていたシャーロットは、レヴェルの言葉にぎょっとしま。
「なるほど。シーエンス家で何かあったのか。話せ」
「って、かまかけか!」
「お前が俺に言い淀むということは、兄様か、メイアーツの子供たち絡みだろう。兄様に何かあれば、俺に聖羽宮の者から報せが来ないわけがない。そして、現状何らかの問題の渦中にいるのはミリアだけだ。ミリアは先日、シーエンス家にいたと聞くしな」
「・・・・・・うわぁ」
姪の動向をきっちり把握している辺りに、シャーロットはどん引いた声を上げた。一方、ベルクは「いつものことだろう」という諦観しきった目をしている。
「相変わらず、兄、姪、甥に対する執着っぷりが引けるんですけど。というか、そんな把握されてるのバレたら、ミリアちゃんに嫌われるわよ? 今が一番多感なお年頃なんだから」
「嫌われない」
「嫌われるわよ。あれよ? 丁度「お父さんの服と一緒に洗濯しないで!」とか言っちゃう頃なんだから」
「兄様はほとんど聖羽宮で過ごされているから、まずミリアの衣類と洗濯する機会はない」
「いや、それは物の例えだってば・・・・・・」
若干、捻くれている上にズレている。
(王族の人間って、少し天然入ってる人多いわよね)
今朝の襲撃されようと、魔力を喰われかけようとシーエンス家の修繕費の請求を決して忘れなかったミリアを思い出してシャーロットはそう思った。
「で? シーエンス家で何があった?」
「うっ!」
「話さないなら、別の者に聞くだけだが? この俺に箝口令が通用すると思うなよ?」
レヴェルはシーエンス家でミリアに何かがあったことは察しているようだが、その詳細はまだ知らない。そして、話せば怒り狂うだろう。シャーロットはその場合、一番の貧乏くじを引かされるであろうベルクを見て、内心で合掌しながら謝罪をした。
「いやー、なんかランカータ一派の一部が暴走しまして、闇魔法を仕掛けてギーシャくんやミリアちゃんも巻き込まれた──みたいな?」
シャーロットと連動している天幻鳥は器用に片方の翼で頭を掻く仕草をして見せると、恐る恐るといった様子でレヴェルを見やった。隣のベルクは素手に顔面蒼白だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ」
長すぎる沈黙の後に、レヴェルは頷いてシャーロットに訊いた。
「ちょっと、魔法管理局を吹き飛ばしてもいいか?」
「絶対、ダメに決まってんでしょ──────!!!」
想像通り、いや、想像以上の暴走っぷりにシャーロットはレヴェルを止めにかかった。
「ええい! 前々から馬鹿共の集いとは思っていたが、ここまでだったか! もういい! 消す! その方が早い!」
「おい、落ち着けって!」
「馬鹿共って、私、そのトップなんですけど! 第一、魔法管理局吹っ飛ばされたら、私も吹っ飛ばされるんですけど!」
「知るか!」
「それに、王が魔法管理局吹っ飛ばしてどうするのよ! あれ、元々は王の仕事を軽減するために創られた組織なのよ!?」
「ぐるるるるる!」
「犬か!」
「ダメだ・・・・・・疲労のせいで完璧に我を失っている」
動物のように喉をならしながら怒るレヴェルをベルクが羽交い締めにし、天幻鳥が翼でレヴェルの顔をべしべし叩く。
「ああ、どうすんだこれ・・・・・・」
ベルクが頭を抱えたくなったその時、執務室の扉がノックされた。
「失礼します。国王陛下、こちらの茶葉の購入申請書にサインを頂けますでしょうか?」
「へ?」
「あ?」
「ん?」
突如、入室してきた官吏に三者三様の声を上げると、官吏は室内の惨状を知って、そっと扉を閉じた。そして、
「ええ。私は何も見てません。補佐官殿が陛下を羽交い締めにして、天幻鳥の姿をした聖女様が翼で陛下のご尊顔を叩いているところなど、決して。もし、そのような光景を見たとしたら、それは白昼夢なのです。だから、次に扉を開けた時はきっと、夢から覚めているでしょう」
官吏の見てないアピールという気遣いを受けた三人は、視線を交わすとそそくさと各々の定位置へと戻った。そして、レヴェルは咳払いを一つすると入室の許可を出した。
「入れ」
「はい。失礼します。おはようございます陛下。どうやら、私は先程まで夢を見ていたようで、陛下の威厳に満ち溢れた姿を拝して、すっかり目が覚めました」
ベルクとシャーロットは内心でこの官吏に対し、「こいつ、度胸あるなぁ」と思った。
「いやー、ちょっとお話がありまして。悪いけど、ベルク以外は席を外してくれるかしら?」
シャーロットが文官たちに頼むと、彼らは聖女の言葉に従い、礼をすると退室した。書類を支えているせいで身動きの取れない者たちを除いて。
「・・・・・・はぁ」
レヴェルをため息を一つ吐くと、人差し指で宙に円を描いた。すると、ふわりと風が吹き、書類が舞い上がると、それらは風によって床に崩れない程度の高さに積み直された。
それを見た残りの文官たちも、礼をして部屋を後にする。
「私は退室しなくてよろしいのですか?」
「いいのいいの。というか、しないで。もしものことがあったら、この姿じゃ陛下を止められないもの」
シャーロットの言にベルクは嫌そうな顔をした。つまり、シャーロットがここを訪れた用向きとは自分がレヴェルを泊めなくてはならない事態になりかねない案件ということだ。
「で、何用だ」
「いや、えっと~」
「シーエンス家であったことか?」
「え? 知ってたの!?」
昨夜、シーエンス家で怒った事を話しかねていたシャーロットは、レヴェルの言葉にぎょっとしま。
「なるほど。シーエンス家で何かあったのか。話せ」
「って、かまかけか!」
「お前が俺に言い淀むということは、兄様か、メイアーツの子供たち絡みだろう。兄様に何かあれば、俺に聖羽宮の者から報せが来ないわけがない。そして、現状何らかの問題の渦中にいるのはミリアだけだ。ミリアは先日、シーエンス家にいたと聞くしな」
「・・・・・・うわぁ」
姪の動向をきっちり把握している辺りに、シャーロットはどん引いた声を上げた。一方、ベルクは「いつものことだろう」という諦観しきった目をしている。
「相変わらず、兄、姪、甥に対する執着っぷりが引けるんですけど。というか、そんな把握されてるのバレたら、ミリアちゃんに嫌われるわよ? 今が一番多感なお年頃なんだから」
「嫌われない」
「嫌われるわよ。あれよ? 丁度「お父さんの服と一緒に洗濯しないで!」とか言っちゃう頃なんだから」
「兄様はほとんど聖羽宮で過ごされているから、まずミリアの衣類と洗濯する機会はない」
「いや、それは物の例えだってば・・・・・・」
若干、捻くれている上にズレている。
(王族の人間って、少し天然入ってる人多いわよね)
今朝の襲撃されようと、魔力を喰われかけようとシーエンス家の修繕費の請求を決して忘れなかったミリアを思い出してシャーロットはそう思った。
「で? シーエンス家で何があった?」
「うっ!」
「話さないなら、別の者に聞くだけだが? この俺に箝口令が通用すると思うなよ?」
レヴェルはシーエンス家でミリアに何かがあったことは察しているようだが、その詳細はまだ知らない。そして、話せば怒り狂うだろう。シャーロットはその場合、一番の貧乏くじを引かされるであろうベルクを見て、内心で合掌しながら謝罪をした。
「いやー、なんかランカータ一派の一部が暴走しまして、闇魔法を仕掛けてギーシャくんやミリアちゃんも巻き込まれた──みたいな?」
シャーロットと連動している天幻鳥は器用に片方の翼で頭を掻く仕草をして見せると、恐る恐るといった様子でレヴェルを見やった。隣のベルクは素手に顔面蒼白だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ」
長すぎる沈黙の後に、レヴェルは頷いてシャーロットに訊いた。
「ちょっと、魔法管理局を吹き飛ばしてもいいか?」
「絶対、ダメに決まってんでしょ──────!!!」
想像通り、いや、想像以上の暴走っぷりにシャーロットはレヴェルを止めにかかった。
「ええい! 前々から馬鹿共の集いとは思っていたが、ここまでだったか! もういい! 消す! その方が早い!」
「おい、落ち着けって!」
「馬鹿共って、私、そのトップなんですけど! 第一、魔法管理局吹っ飛ばされたら、私も吹っ飛ばされるんですけど!」
「知るか!」
「それに、王が魔法管理局吹っ飛ばしてどうするのよ! あれ、元々は王の仕事を軽減するために創られた組織なのよ!?」
「ぐるるるるる!」
「犬か!」
「ダメだ・・・・・・疲労のせいで完璧に我を失っている」
動物のように喉をならしながら怒るレヴェルをベルクが羽交い締めにし、天幻鳥が翼でレヴェルの顔をべしべし叩く。
「ああ、どうすんだこれ・・・・・・」
ベルクが頭を抱えたくなったその時、執務室の扉がノックされた。
「失礼します。国王陛下、こちらの茶葉の購入申請書にサインを頂けますでしょうか?」
「へ?」
「あ?」
「ん?」
突如、入室してきた官吏に三者三様の声を上げると、官吏は室内の惨状を知って、そっと扉を閉じた。そして、
「ええ。私は何も見てません。補佐官殿が陛下を羽交い締めにして、天幻鳥の姿をした聖女様が翼で陛下のご尊顔を叩いているところなど、決して。もし、そのような光景を見たとしたら、それは白昼夢なのです。だから、次に扉を開けた時はきっと、夢から覚めているでしょう」
官吏の見てないアピールという気遣いを受けた三人は、視線を交わすとそそくさと各々の定位置へと戻った。そして、レヴェルは咳払いを一つすると入室の許可を出した。
「入れ」
「はい。失礼します。おはようございます陛下。どうやら、私は先程まで夢を見ていたようで、陛下の威厳に満ち溢れた姿を拝して、すっかり目が覚めました」
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