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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
ヘアアレンジの傍らの驚愕
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化粧室と聞けば、前世の感覚的にはトイレを想像する。
そういえば、前世で中二の時に住んでたところの最寄駅のデパートのトイレはすごかったなぁ。
トイレとお化粧とかする場所が仕切られてて、その上椅子まで用意してあった。
内装もゴージャスだったから、評判はよかっただろう。初見の感想は何故、トイレにここまで力を・・・・・・だったけど、高級感のある内装にしとけば汚しちゃいけないって気がしてくるから、お客さんに綺麗に使わせようとする経営側の戦略だったのかもしれない。
デパートは色んなお店があるけど、お客さんなら誰しもトイレを使うことはあるだろうからね。
トイレが最大手という言葉も間違ってないのだろう。
とは言え、シーエンス家の化粧室はその名の通りのお化粧の為の部屋だった。
うちもそうだけど、そもそも貴族はトイレで身繕いをしない。
お化粧を落として素顔をさらしたり、服を着替えたりするのが目的の部屋のためか室内は三人入ってもスペースが余りまくる程広いが、用意されたドレッサーは一つで、一度に複数人で使うことは想定されてないのだろう。
貴族は自分で着替えずに身の回りのことは使用人にして貰うのが基本。
私はちょっと自分では脱ぎ着出来ないドレスを着る時だけ手伝ってもらって後は自分でやっている。
ちなみに、学園での着替えは普通に共同の更衣室だ。
体育とかで一斉に着替えるから人数分の個室なんて用意出来る面積的余裕がないのだ。
けど、同性とはいえ恥ずかしがる子もいるので、そういう子は魔法を使ってなんとかしてる。
服屋の試着室みたいに周りをカーテンで覆ったり、幻影で姿を消したり、中には謎の煙で肝心なところだけ隠してアニメの規制みたいになって、返ってアレな状態になってる子もいた。
いくらファンタジーの世界だからって魔法が横行しすぎである。
なんてことを考えているうちに、マリス嬢はテキパキと慣れた手つきで私の髪をあっという間に結い上げてくれた。
「はい、おしまい」
「おー! 凄い!」
子供のような感想しか出てこなかったけど、本当にマリス嬢のヘアアレンジスキルは凄かった。
両サイドに編み込みを入れてから髪を纏めてサイドでお団子にするヘアスタイル。
しかも、どうやったかわからないけど、お団子が薔薇の形をしている。
そっと薔薇に触れてみると、しっかり固定されてるみたいで崩れる気配はない。
「マリス嬢、前世は美容師さんか何かで・・・・・・?」
「美容に気を使ってはいたけど、別にそういう職にはついてなかったわよ」
疑問を投げかければあっさり否定されてしまった。
そもそも、私はマリス嬢の享年を知らない。もしかしたら社会人になる前ってこともある。ちょっと無神経だったかな。
にしても、今背後にいる人の享年を知らないっていうのも変な話だ。私たちの胸の下の心臓は今、確かに動いていると言うのに。
「はい、次はアンタね。ここ座んなさい」
私の問い掛けを特に気にした様子のないマリス嬢が長椅子に足を伸ばしながら座っていたリンス嬢を呼んだので、私は場所を譲るべくドレッサー用の椅子から立ち上がった。
リンス嬢は座る前に警戒している猫の様にマリス嬢の様子を窺ってたけど、
「時間が押してきたわ。は・や・く・し・て」
マリス嬢がお母さんのように椅子の座面をぽんぽん叩くと、リンス嬢はようやく椅子に座った。
その際もマリス嬢から目を離さなかったし、今も鏡越しにマリス嬢を観察している。
「どんだけ警戒するのよ」
「何故、敵に自分から背中を見せにいかなきゃならないの・・・・・・」
「アンタが瓦割りで髪ボサボサにしたからでしょ。ていうか他所の家で瓦割りをするな」
「だって、自宅だと母の目があるからやりにくいのよ。貴族っていうのは不自由だわ」
「いいとこの家なんてそんなものよ。外からは悠々自適に見えても、中から見ればガラリと変わるもの。けど、この場合はアンタの母親の方が正しいわね」
会話をしながらマリス嬢はリンス嬢の長くて艶やかな髪をコームで梳かしていく。
「んー。アップもいいけど、ミリア嬢と被るわね。ね、ちょっと巻いてもいい?」
「巻く?」
「マリス嬢。ここ、コテもカーラーもありませんけど」
「適当な棒があれば後は魔法でどうとでもなるわよ。縦ロールにはしないからいいでしょ?」
「・・・・・・よく分からないから、好きにして構わないわ」
「じゃ、軽く巻いてワンサイドヘアにするわね」
リンス嬢の髪型を決定すると、マリス嬢は近くの棚の上にあったメモ用の用紙を丸めて棒状にすると、それにリンス嬢の髪を巻きつけ、掌から魔法で温風を当てる。
紙筒の方も魔力でコーティングして固くしているようで、折れたりはしなさそうだった。
あ、縦ロールといえば。
「マリス嬢。テロール子爵たちがどうなったか知ってます?」
先日、イクスたちと一緒に魔法管理局の門外処理官のバラットさんという人に連行されて行ったテロール子爵を思い出して訊ねた。
「あ、つい先日ですし、まだ何も──」
「あー、縦ロール子爵は拘束されてるけど、何かイクスは今朝、釈放されたとか、逃亡したとか聞いたわ」
「・・・・・・はい?」
今、とんでもないこと言いませんでしたか?
そういえば、前世で中二の時に住んでたところの最寄駅のデパートのトイレはすごかったなぁ。
トイレとお化粧とかする場所が仕切られてて、その上椅子まで用意してあった。
内装もゴージャスだったから、評判はよかっただろう。初見の感想は何故、トイレにここまで力を・・・・・・だったけど、高級感のある内装にしとけば汚しちゃいけないって気がしてくるから、お客さんに綺麗に使わせようとする経営側の戦略だったのかもしれない。
デパートは色んなお店があるけど、お客さんなら誰しもトイレを使うことはあるだろうからね。
トイレが最大手という言葉も間違ってないのだろう。
とは言え、シーエンス家の化粧室はその名の通りのお化粧の為の部屋だった。
うちもそうだけど、そもそも貴族はトイレで身繕いをしない。
お化粧を落として素顔をさらしたり、服を着替えたりするのが目的の部屋のためか室内は三人入ってもスペースが余りまくる程広いが、用意されたドレッサーは一つで、一度に複数人で使うことは想定されてないのだろう。
貴族は自分で着替えずに身の回りのことは使用人にして貰うのが基本。
私はちょっと自分では脱ぎ着出来ないドレスを着る時だけ手伝ってもらって後は自分でやっている。
ちなみに、学園での着替えは普通に共同の更衣室だ。
体育とかで一斉に着替えるから人数分の個室なんて用意出来る面積的余裕がないのだ。
けど、同性とはいえ恥ずかしがる子もいるので、そういう子は魔法を使ってなんとかしてる。
服屋の試着室みたいに周りをカーテンで覆ったり、幻影で姿を消したり、中には謎の煙で肝心なところだけ隠してアニメの規制みたいになって、返ってアレな状態になってる子もいた。
いくらファンタジーの世界だからって魔法が横行しすぎである。
なんてことを考えているうちに、マリス嬢はテキパキと慣れた手つきで私の髪をあっという間に結い上げてくれた。
「はい、おしまい」
「おー! 凄い!」
子供のような感想しか出てこなかったけど、本当にマリス嬢のヘアアレンジスキルは凄かった。
両サイドに編み込みを入れてから髪を纏めてサイドでお団子にするヘアスタイル。
しかも、どうやったかわからないけど、お団子が薔薇の形をしている。
そっと薔薇に触れてみると、しっかり固定されてるみたいで崩れる気配はない。
「マリス嬢、前世は美容師さんか何かで・・・・・・?」
「美容に気を使ってはいたけど、別にそういう職にはついてなかったわよ」
疑問を投げかければあっさり否定されてしまった。
そもそも、私はマリス嬢の享年を知らない。もしかしたら社会人になる前ってこともある。ちょっと無神経だったかな。
にしても、今背後にいる人の享年を知らないっていうのも変な話だ。私たちの胸の下の心臓は今、確かに動いていると言うのに。
「はい、次はアンタね。ここ座んなさい」
私の問い掛けを特に気にした様子のないマリス嬢が長椅子に足を伸ばしながら座っていたリンス嬢を呼んだので、私は場所を譲るべくドレッサー用の椅子から立ち上がった。
リンス嬢は座る前に警戒している猫の様にマリス嬢の様子を窺ってたけど、
「時間が押してきたわ。は・や・く・し・て」
マリス嬢がお母さんのように椅子の座面をぽんぽん叩くと、リンス嬢はようやく椅子に座った。
その際もマリス嬢から目を離さなかったし、今も鏡越しにマリス嬢を観察している。
「どんだけ警戒するのよ」
「何故、敵に自分から背中を見せにいかなきゃならないの・・・・・・」
「アンタが瓦割りで髪ボサボサにしたからでしょ。ていうか他所の家で瓦割りをするな」
「だって、自宅だと母の目があるからやりにくいのよ。貴族っていうのは不自由だわ」
「いいとこの家なんてそんなものよ。外からは悠々自適に見えても、中から見ればガラリと変わるもの。けど、この場合はアンタの母親の方が正しいわね」
会話をしながらマリス嬢はリンス嬢の長くて艶やかな髪をコームで梳かしていく。
「んー。アップもいいけど、ミリア嬢と被るわね。ね、ちょっと巻いてもいい?」
「巻く?」
「マリス嬢。ここ、コテもカーラーもありませんけど」
「適当な棒があれば後は魔法でどうとでもなるわよ。縦ロールにはしないからいいでしょ?」
「・・・・・・よく分からないから、好きにして構わないわ」
「じゃ、軽く巻いてワンサイドヘアにするわね」
リンス嬢の髪型を決定すると、マリス嬢は近くの棚の上にあったメモ用の用紙を丸めて棒状にすると、それにリンス嬢の髪を巻きつけ、掌から魔法で温風を当てる。
紙筒の方も魔力でコーティングして固くしているようで、折れたりはしなさそうだった。
あ、縦ロールといえば。
「マリス嬢。テロール子爵たちがどうなったか知ってます?」
先日、イクスたちと一緒に魔法管理局の門外処理官のバラットさんという人に連行されて行ったテロール子爵を思い出して訊ねた。
「あ、つい先日ですし、まだ何も──」
「あー、縦ロール子爵は拘束されてるけど、何かイクスは今朝、釈放されたとか、逃亡したとか聞いたわ」
「・・・・・・はい?」
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