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本編
第十二話 その名の響き
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「じゃあ、改めて。アクシズ・セラ・カイントラマだ。ライラックとは飽きるくらい会ってるけど、君とこういう風に会うのは初めてかな?」
「アルメリア・ツルーネと申します。そうですね。私はライラックほど登城する機会もありませんでしたので」
差し出された手を握って握手を交わし、相手に習って名乗りながら会釈をすると、アクシズ様は 初めて蝶の羽化を見たようなお顔をされました。
「話には聞いていたけど、本当にツルーネの姓を名乗っているんだな」
「はい。ツルーネ男爵家は私の大切なもうひとつの家族で、ツルーネは私の大切な居場所の名前ですから」
「アルメリアは籍はシアーガーデンのままだが、公的な場においてもツルーネの姓を名乗ることを陛下よりお許しいただいている。何か問題でも?」
「そうツンツンするな。誰も問題があるとは言っていないだろ。ライラックの姉君なのにシアーガーデンの姓じゃないのが不思議な感じがするだけで他意はない。響きも綺麗だし」
「あ、ありがとうございます……」
名前を褒められて、とても嬉しい気持ちになりました。
アルメリア・ツルーネという名の響きが綺麗。それは私がツルーネ男爵家の娘と認められているようでした。
アクシズ殿下が不思議に感じられたように、アルメリア・ツルーネと名乗り、アルメリア・ツルーネと呼ばれても、多くの方にとっては私はアルメリア・シアーガーデンなのです。
私はしきたりゆえにツルーネ男爵家で過ごしているだけだと思われていて、私のツルーネの姓に対するこだわりを知る方はほとんどおりません。
自分にとって大切なことでも、他の方から見れば取るに足らないことなんてものは、この世に余るほどあります。
私だけが知っていればいいことで、誰かに理解を求めてもおりません。それでもこう言われると嬉しいものですね。
「とはいえ、そのせいでグジル様からあのような誤解を招いてしまうとは思いませんでした」
「ああ、例のパーティーでのことか。まさかそんなことがあるとはなぁ。というか、婚約の際に話を聞いてなかったとしても、君たち結構顔似てるのに気づかなかったのか?」
男女の双子は似ないと言われる中で、私とライラックはかなり似ている双子です。
性差がありますので、成長期に入って体格差が出来てからは間違えられることはありませんが、幼い頃はお母様たちの趣味で同じ格好をした時などは家族以外の方には見分けがつかないほどでした。
その面影は今でもあるので、確かにグジル様がお気づきになられなかったのは不思議ですね。私、パーティーなどでは結構ライラックと一緒にいるのですが。
「単にあの馬鹿者が間抜けなだけだ。女に入れ揚げてろくにアルメリアの顔を見てなかったんだろう──全く、腹立たしい」
「ライラック、なんかいつもと違わないか? いや、普段からはっきりと物を言うタイプではあるけど」
「あのパーティーからずっと不機嫌なものでして……」
ライラックはあれからずっとこの調子です。普段はもう少し物言いも雰囲気も柔らかい子なのですけど。
「俺のことはいいだろう。そんなことより、アクシズ。ちゃんとアルメリアをもせなせ。グズグズするな」
「だから! 殿下に対してそういう言い方は──」
「言い方はともかく、ライラックの言葉には一理あるな。せっかく城まで来てもらったのにここで立ち話ばかりするのももったいない。アルメリア嬢、どうだろう。これから花園に行ってみないか?」
「花園、ですか?」
「ああ、あそこなら色んな花が育てられているから季節問わずに花が見られるし、城内の数少ない憩いの場だ。今日は天気もいいし、どうだろう?」
空を見ると、久しぶりの青空が冴え冴えと広がっております。
雨季に入ってここのところは雨続きだったので、太陽の光がいつもより眩しいです。こんな天気の日にお花を観賞するのは楽しそうです。
「ぜひ、花園を拝見したいです。どのようなお花があるのですか?」
「うーん……今の時期は紫陽花くらいしかわからないなぁ。けど、色々あるぞ。そうそう、君たちと同じ名前の花もあったな。ライラックとアルメリア」
「────そうですか」
その名前の持つ響きは、愛おしくて、けれど私の心を少し冷やしました。
「アルメリア・ツルーネと申します。そうですね。私はライラックほど登城する機会もありませんでしたので」
差し出された手を握って握手を交わし、相手に習って名乗りながら会釈をすると、アクシズ様は 初めて蝶の羽化を見たようなお顔をされました。
「話には聞いていたけど、本当にツルーネの姓を名乗っているんだな」
「はい。ツルーネ男爵家は私の大切なもうひとつの家族で、ツルーネは私の大切な居場所の名前ですから」
「アルメリアは籍はシアーガーデンのままだが、公的な場においてもツルーネの姓を名乗ることを陛下よりお許しいただいている。何か問題でも?」
「そうツンツンするな。誰も問題があるとは言っていないだろ。ライラックの姉君なのにシアーガーデンの姓じゃないのが不思議な感じがするだけで他意はない。響きも綺麗だし」
「あ、ありがとうございます……」
名前を褒められて、とても嬉しい気持ちになりました。
アルメリア・ツルーネという名の響きが綺麗。それは私がツルーネ男爵家の娘と認められているようでした。
アクシズ殿下が不思議に感じられたように、アルメリア・ツルーネと名乗り、アルメリア・ツルーネと呼ばれても、多くの方にとっては私はアルメリア・シアーガーデンなのです。
私はしきたりゆえにツルーネ男爵家で過ごしているだけだと思われていて、私のツルーネの姓に対するこだわりを知る方はほとんどおりません。
自分にとって大切なことでも、他の方から見れば取るに足らないことなんてものは、この世に余るほどあります。
私だけが知っていればいいことで、誰かに理解を求めてもおりません。それでもこう言われると嬉しいものですね。
「とはいえ、そのせいでグジル様からあのような誤解を招いてしまうとは思いませんでした」
「ああ、例のパーティーでのことか。まさかそんなことがあるとはなぁ。というか、婚約の際に話を聞いてなかったとしても、君たち結構顔似てるのに気づかなかったのか?」
男女の双子は似ないと言われる中で、私とライラックはかなり似ている双子です。
性差がありますので、成長期に入って体格差が出来てからは間違えられることはありませんが、幼い頃はお母様たちの趣味で同じ格好をした時などは家族以外の方には見分けがつかないほどでした。
その面影は今でもあるので、確かにグジル様がお気づきになられなかったのは不思議ですね。私、パーティーなどでは結構ライラックと一緒にいるのですが。
「単にあの馬鹿者が間抜けなだけだ。女に入れ揚げてろくにアルメリアの顔を見てなかったんだろう──全く、腹立たしい」
「ライラック、なんかいつもと違わないか? いや、普段からはっきりと物を言うタイプではあるけど」
「あのパーティーからずっと不機嫌なものでして……」
ライラックはあれからずっとこの調子です。普段はもう少し物言いも雰囲気も柔らかい子なのですけど。
「俺のことはいいだろう。そんなことより、アクシズ。ちゃんとアルメリアをもせなせ。グズグズするな」
「だから! 殿下に対してそういう言い方は──」
「言い方はともかく、ライラックの言葉には一理あるな。せっかく城まで来てもらったのにここで立ち話ばかりするのももったいない。アルメリア嬢、どうだろう。これから花園に行ってみないか?」
「花園、ですか?」
「ああ、あそこなら色んな花が育てられているから季節問わずに花が見られるし、城内の数少ない憩いの場だ。今日は天気もいいし、どうだろう?」
空を見ると、久しぶりの青空が冴え冴えと広がっております。
雨季に入ってここのところは雨続きだったので、太陽の光がいつもより眩しいです。こんな天気の日にお花を観賞するのは楽しそうです。
「ぜひ、花園を拝見したいです。どのようなお花があるのですか?」
「うーん……今の時期は紫陽花くらいしかわからないなぁ。けど、色々あるぞ。そうそう、君たちと同じ名前の花もあったな。ライラックとアルメリア」
「────そうですか」
その名前の持つ響きは、愛おしくて、けれど私の心を少し冷やしました。
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