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【3】正妻と第二夫人
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「お、伯母様・・・・・・っ!」
「誤解です! たまたま、カティスとここで会って、今から宴会場へ一緒に向かおうと──」
「黙らっしゃい! 口づけなんてしておいて、何が誤解だって言うの? 弁解があるならしてご覧なさいよ!」
見咎められて慌てて誤魔化そうとしたパーゼスとカティスであったが、そんな言い訳はすぐに切り捨てられた。
シューノイン公爵夫人──レアナは、パーゼスをキッと睨みつける。
「パーゼス! 貴方は何て事をしてくれたの!? こんな所で堂々と逢引なんて──母親に似て面の皮が厚いのかしらね? やっぱり、育ちより氏ねぇ。同じ公爵家の息子だというのに、私のレノルドとは品性に天と地程の差があるわ」
レアナはそう言って、熊の首に鎌を掛けた様に勝ち気に嘲笑う。
「わぁ。レアナ伯母様、パーゼスの弱みを見つけてご機嫌ねぇ。こりゃ、暫く解放されないわよ?」
「・・・・・・そうだな」
カンカンと耳障りな甲高い声でパーゼスを罵倒している実の母を、レノルドは冷めた目で見ている。それは刎ねられ、地面に転がった罪人の首を見る様な視線だった。
(相変わらず、実の母親を見るとは思えない目ねぇ)
レノルドがレアナへそういった視線を向け始めたのは大分昔の事で、ティティアももうすっかり慣れてしまった。その事について、口を出す気はない。
何故、シューノイン公爵夫人であるレアナが、シューノイン公爵家の令息であるパーゼスをこんなにも嫌っているのか。
それは厄介で、しかし家系図を見れば一目瞭然の理由があるからだ。
「ちょっと! 私のパーゼスちゃんをいじめないで!」
その理由であるもう一人が登場し、ティティアは頭を抱えたくなった。こちらも既に怒り狂っており、現れた途端にパーゼスを胸に抱え込み、レアナへ鋭い視線を向ける。
「こんな人気のない場所で子供をいじめるなんて、何て陰険なの!? 信じられないわ!」
「か、母様・・・・・・っ!」
胸に顔を埋める形で抱き込まれたパーゼスは、窒息しそうになってるのか、震えた手を伸ばして助けを求めている。
だが、そんな事はお構い無しに、女二人の言い合いは加速していく。
「信じられないのはこっちの方よ。その子、ここで何をしていたと思う? カティスと逢引していたのよ? 婚約者がいるのに他の女に手を出すなんて──これもどこかの弁えない女の血を引いているからかしらね?」
「あら? パーゼスちゃんはカティスちゃんが気に入ったの? なら、旦那様にお願いして婚約者を変えて貰いましょう。どうせ同じ分家の従妹なんだもの。取り替えたって問題ないわ」
「別にパーゼスの婚約者がティティアだろうが、カティスだろうが興味はないわ。どっちも所詮は分家だもの。問題は貴方の息子が公爵家の品格を貶める様な真似をした事よ!」
パーゼスを挟んで二人は言い合う二人。その脇ではカティスが逃げ出すタイミングを窺う様に気まず気が顔を浮かべている。一方で、低木の影のティティアは、醜い言い争いの内容にレノルドと似たような温度の視線になってきた。
この会話で分かるのは、どちらもティティアとミスタリタ侯爵家を軽んじているということだ。
パーゼスを抱き抱えている女性の名は、ナタリアという。ナタリア・シューノイン。そして、パーゼスの母親でもある女性だ。
そうつまり、二人はシューノインの次代の公爵の妻であり、レアナはレノルドの母である正妻であり、ナタリアはパーゼスの母である第二夫人なのである。
「誤解です! たまたま、カティスとここで会って、今から宴会場へ一緒に向かおうと──」
「黙らっしゃい! 口づけなんてしておいて、何が誤解だって言うの? 弁解があるならしてご覧なさいよ!」
見咎められて慌てて誤魔化そうとしたパーゼスとカティスであったが、そんな言い訳はすぐに切り捨てられた。
シューノイン公爵夫人──レアナは、パーゼスをキッと睨みつける。
「パーゼス! 貴方は何て事をしてくれたの!? こんな所で堂々と逢引なんて──母親に似て面の皮が厚いのかしらね? やっぱり、育ちより氏ねぇ。同じ公爵家の息子だというのに、私のレノルドとは品性に天と地程の差があるわ」
レアナはそう言って、熊の首に鎌を掛けた様に勝ち気に嘲笑う。
「わぁ。レアナ伯母様、パーゼスの弱みを見つけてご機嫌ねぇ。こりゃ、暫く解放されないわよ?」
「・・・・・・そうだな」
カンカンと耳障りな甲高い声でパーゼスを罵倒している実の母を、レノルドは冷めた目で見ている。それは刎ねられ、地面に転がった罪人の首を見る様な視線だった。
(相変わらず、実の母親を見るとは思えない目ねぇ)
レノルドがレアナへそういった視線を向け始めたのは大分昔の事で、ティティアももうすっかり慣れてしまった。その事について、口を出す気はない。
何故、シューノイン公爵夫人であるレアナが、シューノイン公爵家の令息であるパーゼスをこんなにも嫌っているのか。
それは厄介で、しかし家系図を見れば一目瞭然の理由があるからだ。
「ちょっと! 私のパーゼスちゃんをいじめないで!」
その理由であるもう一人が登場し、ティティアは頭を抱えたくなった。こちらも既に怒り狂っており、現れた途端にパーゼスを胸に抱え込み、レアナへ鋭い視線を向ける。
「こんな人気のない場所で子供をいじめるなんて、何て陰険なの!? 信じられないわ!」
「か、母様・・・・・・っ!」
胸に顔を埋める形で抱き込まれたパーゼスは、窒息しそうになってるのか、震えた手を伸ばして助けを求めている。
だが、そんな事はお構い無しに、女二人の言い合いは加速していく。
「信じられないのはこっちの方よ。その子、ここで何をしていたと思う? カティスと逢引していたのよ? 婚約者がいるのに他の女に手を出すなんて──これもどこかの弁えない女の血を引いているからかしらね?」
「あら? パーゼスちゃんはカティスちゃんが気に入ったの? なら、旦那様にお願いして婚約者を変えて貰いましょう。どうせ同じ分家の従妹なんだもの。取り替えたって問題ないわ」
「別にパーゼスの婚約者がティティアだろうが、カティスだろうが興味はないわ。どっちも所詮は分家だもの。問題は貴方の息子が公爵家の品格を貶める様な真似をした事よ!」
パーゼスを挟んで二人は言い合う二人。その脇ではカティスが逃げ出すタイミングを窺う様に気まず気が顔を浮かべている。一方で、低木の影のティティアは、醜い言い争いの内容にレノルドと似たような温度の視線になってきた。
この会話で分かるのは、どちらもティティアとミスタリタ侯爵家を軽んじているということだ。
パーゼスを抱き抱えている女性の名は、ナタリアという。ナタリア・シューノイン。そして、パーゼスの母親でもある女性だ。
そうつまり、二人はシューノインの次代の公爵の妻であり、レアナはレノルドの母である正妻であり、ナタリアはパーゼスの母である第二夫人なのである。
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