闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0767話 蜈崖

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山頂で約三十分間待った後、やっと視界にぼんやりと黒い影が現れた。

その影は数回瞬きするだけで突然空中に浮かび上がり、周囲の空気を切り裂くようにして山頂上空に姿を現した。

人影の動きは即座に三人の注意を引きつけた。

しかし白い長髪が露わになると同時に、緊張が緩和された。

「申し訳ありません。

先ほど宗内で一件相談していたので、少し遅れました」

小医仙が優雅に腰をひねりながら降り立つと、蕭炎に向かって話しかけた。

その間も紫研と後ろのメデューサを見やると、薄く笑みを浮かべて言った。

「また見かけたことあるでしょう?マントで顔隠す必要ないわよ。

それで本当に分からないと思ってるの?」

小医仙の言葉に、蕭炎は内心でため息をついた。

するとメデューサの頭上のマントが突然黒い影となって鋭い風を引き連れて小医仙めがけて直撃した。

小医仙は動じることなく指先で一筋の気流を放ち、マントと衝突させた。

爆発音と共にその場に粉塵が舞った。

「隠れようとしているなら、貴方でも見つけるのは簡単よ」

メデューサの妖艶な顔が現れた瞬間、冷たい視線で小医仙を睨み付けた。

「出雲帝国では私が探せない人物はいないわ」

小医仙も負けじと厳しい表情で言い返す。

「うるさい!呼び出したのはそんなことじゃないんだ!」

二人のやり取りを見ていた蕭炎が我慢できず、声を荒げた。

その言葉に反応して二人は視線を逸らし、無言になった。

「小医仙さん、魂殿の連中に関する情報は?」

ようやく落ち着いたところで、蕭炎が真剣な表情で尋ねた。

「ええ……私が出雲に戻った時、彼らからまた接触がありました。

彼は貴方を捕まえたことに怒り、少し言い争いした後去りました。

今回は警戒して様子を見ていたら、その男の行方が分かってきました」

小医仙が頷きながら説明する。

「実力はどうだ?」

蕭炎の目が鋭く光った。

「私よりは下ではないわ。

それ以下なら、あの男は私の前に威張ることなどできないでしょう。

私たち三人で協力すれば捕まえられるかもしれません」

小医仙がメデューサを見やりながら答えた。

蕭炎は頷き、目を輝かせた。

最初のころ薬老と逃げ回っていた頃とは比べ物にならない成長ぶりだった。



「もしかしたら、彼に十分な時間を与えれば、いずれは魂殿と対等に戦えるかもしれない。

」小医仙がため息をつくように云う。

「我々三人でその魂殿の強者に対抗するのは問題ないだろうが、厄介なのは、この魂殿の連中が何らかの勢力と関係がある点だ。

もし手を下すなら、その勢力との衝突は避けられない」

「出雲帝国の毒師勢力を毒宗がほぼ掃討したという話は聞いたぞ」蕭炎が驚きの表情で云う。

「掃討したのは確かだが、この『万蝎門』だけは例外だ。

その門主に、昔から出雲帝国で名を馳せた老いた人物がいる。

今はほとんど現れず閉じこもっているが、確かに生きてる。

先月『万蝎門』を掃討する際に彼の目覚めを起こしたんだ。

私は一度戦ったことがあるが、かなり厄介だった」

「それにこの『万蝎門』にも強者がいる。

普段は控えめだが、出雲帝国ではそれなりに重みがある勢力だ」小医仙の瞳孔が僅かに鋭さを増す。

「最近は毒宗との衝突が頻繁にあると聞く」

「そうなると、その魂殿の連中を捕まえるにはまず『万蝎門』と戦うことになる。

だが現在出雲帝国では炎盟の強者が手薄だ。

動けば大変なことになりそうだ」

「彼女が貴方を呼んだのは何か計画があるからだろう。

彼女の意図を聞いてみようか」美杜莎が淡々と云う。

その言葉に蕭炎は一瞬驚きの表情を見せ、小医仙を見やった。

美杜莎の視線をちらりと見た小医仙が頷くと、彼女は黙考するように云う。

「最近『万蝎門』と毒宗の衝突が頻繁にある。

先日捕まった『万蝎門』の連中から情報を得たが、この一向に控えめな勢力が毒宗に手を出す気配があるようだ…私の推測では、これは魂殿の者が扇動した結果だろう。

もしそうでなければ、その老いた人物はそんなことをしないはずだ」

「その情報を受けた我々は先制攻撃を決断した。

『万蝎門』が動き出す前に彼らを掃討する計画だ」小医仙の目が凶光を湛える。

「以前なら勝負にならなかったかもしれないが、貴方達が加われば勝算が増すだろう」

「おや、結局は貴方を傭兵に雇うためか?」

美杜莎が皮肉たっぷりに云う。

「美杜莎! 貴方がそのような発言をするのは無理があるわ。

毒宗が貴方に怯えているなどあり得ないわ!」

小医仙の顔が凍りつく。

「もし貴方が私が貴方を傭兵として使おうと考えてると信じるなら、今すぐ去っても構わないわ!」

美杜莎の目が僅かに細まる。

しかし蕭炎の表情を見た途端、言葉を飲み込んだ。

「勝手な推測だったかもしれない」

「もしもまた騒ぐなら、私は自ら魂殿の者を捜しに行くわ。

貴方たちが何をするかは勝手よ」

眼差しを上げた蕭炎は怒鳴らずに淡々と告げた。

その声色だけで美杜莎と小医仙は瞬時に口を閉じた。

二人とも彼の心の不快感と怒りを直覚的に感じ取っていたからだ。

一隅で紫研が震えて黙り込んだ二人を見てニヤリと笑った。

「毒宗の目標が万蝎門なら、私の目標はその背後に潜む魂殿の者よ。

協力できるわね」

彼女の言葉に圧倒された美杜莎と小医仙は俯くばかりだった。

蕭炎は小医仙を見据えて重々しく告げた。

「安心して。

私は貴方を加瑪帝国から呼び出した理由が喧嘩相手探しだとは思っていないわ。

信用していないなら来ていないはずよ」

その言葉に小医仙は安堵の息を吐き、穏やかに続けた。

「ならば明日にでも動くわ。

毒宗もこの日を迎えられるよう準備していたみたいね」

「うむ」

蕭炎が頷いた瞬間、彼女の視線は万蝎門の老者へと向けられた。

「そのお爺さん、実力はどう?」

小医仙は真剣な表情で答えた。

「三星斗宗くらいでしょう。

毒術も凄まじい。

かつて出雲帝国を震撼させた凶星だったわ。

最近は閉門修業中で姿を見せないけど、老一派の間ではその名が残っている」

「あの方は畢岩さんよね?」

美杜莎が突然口を開いた。

「知ってるの?」

小医仙と蕭炎が驚きを顔に浮かべる。

彼女はゆっくりと続けた。

「私もかつて戦ったことがあるわ。

私が族長になった頃、既に出雲帝国屈指の強者だった。

当時はまだ斗皇級でね。

それが今や斗宗……意外だわ」

「そういえば車海も交戦記録があるみたいよ。

加刑天とは何度も対決したけど、常に上手く勝てたらしい。

でも今は蝎畢岩が斗宗なら彼はまだ斗皇級のまま。

その情報が知られたら落ち込むでしょうね。

当時は出雲と加瑪の強者争いに大活躍したわ」

美杜莎の言葉を聞いた蕭炎は驚きを隠せなかった。

「万蝎門の最強はあの方ね。

毒宗の強者がいれば問題ないわ。

ただ魂殿の者も考慮しないといけない。

その二人さえ倒せば、他の門主や長老は苦労しなくてもいい」

「そうだわ」小医仙が頷き、深く考えた。

「魂殿の者を含めれば万蝎門には二名の斗宗級がいるわ。

私と私が相手にできるでしょう。

それに蕭炎君なら斗宗級を傷つける手段も持っているわね。

勝算は十分よ」

「そうか」

彼女たちの言葉に笑みを浮かべた蕭炎は頷いた。

「ならば明日出発しよう。

あの昔から加瑪の強者を圧倒した人物がどんな実力なのか、私も見てみたいわね……」

最後の一言と共に、彼女の顔には冷ややかな殺意が浮かんだ。



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