12 / 23
拓サイド
おまけ2 浮かれ気分で過ごす夜 後編
「あ、でも……いいの?」
喜びケーキを眺めながら歩き始めた蛍は、ぴたりと足を止め俺を見上げる。
「いいって何が?」
「拓甘い匂い、本当に大丈夫なのか?」
俺が全く覚えていない高校の頃に言ったらしい言葉にずっと囚われていた蛍は、俺が覚えていないと言っても不安なのかもしれない。
『甘いもの苦手、甘ったるい匂いがちょっとなぁ』
確かに甘いものは苦手と言うか嫌いだと言えるけど、それを人にも強要しようとは思わない。
それは今も過去も同じだっていうのに、どうして俺はその時そんな事言ったんだろう。
そのせいで蛍はずっと俺の前で甘いものを口にしなかったんだ、今ケーキを前にこんなに喜んでいるというのに。
「大丈夫。俺に食えって言わないならね。でも俺ちゃんと大人だから、苦手と言いながら会社でお土産に配られたクッキーとか食べる時あるよ」
「え、拓がクッキー食べるの? 想像出来ない」
それは俺も思う。
だけど、いつの間にか机の上に置いてあったりすると食わないわけにはいかないんだよな。
一番困るのが、手作りなんですと配られるカップケーキとかだ。
仲が良ければ甘いもの苦手なんでと断れるけれど、そうじゃない人が配る手作りケーキは受け取るしかないし、食べるのを目の前で見てられるのは拷問の一言だ。
お茶で流し込むわけにもいかず、顔が引きつらない様に何とか完食したあげく「お口に合わなかったです?」とか泣きそうな顔で聞かれて「実は甘いもの苦手で」と正直に話すと何故か俺が悪者になる。
ものすごく理不尽だと思う。
最近は俺の甘いもの苦手が浸透しつつあるから、お気持ちだけでと逃げられているけれど最初は本当に辛かった。
すべての人間がケーキの差し入れを喜ぶと思わないで欲しい。
「俺も想像できないし、正直な話を言えば貰って食わないと悪者扱いはキツイものがあるけどさ、空気読んで食えって感じだから困るんだよなあ。でも甘いものって嗜好品枠なんだから、好んで食べる人間に食べられた方がお菓子だって嬉しいって思うんじゃないかと思うんだよ」
最近土産関係は、○○さんからお土産です。の付箋が貼られて箱がテーブルとかに置いてある様になったから食べなくて済む様になった。
とてもありがたい。
「……俺が甘いもの好きなの知ったから買って来てくれたんだ。拓ありがと、凄い嬉しい」
俺の苦行の告白に何か思う所があったのか、蛍はじぃっと俺を見つめた後、へへへと笑い嬉しいと言ってくれた。
そんなの、蛍が喜んでくれるだけで俺の方が嬉しいってば。
「蛍……」
今抱きしめたら駄目かな、気持ち通じ合ったし恋人だし。
俺の気持ちは滅茶苦茶盛り上がってるというのに、空気が読めない俺の腹はぐううっと鳴った。高らかに鳴りやがったんだ。
「すぐご飯にするね。トースト何枚食べる?」
「二枚かな」
「おっけぃっ!」
笑いながら蛍はキッチンに早足で向かい、俺は自室に入りため息を吐く。
いきなり色っぽい展開なんて、そんな贅沢言わないからせめて抱きしめたいし、くっつきたいんだが蛍にはその気配がまるでないんだよな。
気持ちが通じてすぐにエロイ展開なんて、そんなの漫画とか映画の世界だけのものなのか?
「落ち着け俺、相手は見た目十代の蛍だ。高校時代だって皆のお子ちゃま枠だったんだぞ」
蛍って男同士だとどんな事するか分かってんだろうかと、遠い目になる。
ゴムとローションをこっそり昨日買ってきた俺のこの気持ちの高鳴りは、どうしたらいいんだろう。
「って、俺がする方でいいんだよな? 蛍どう思ってるんだ?」
一番大事な事を俺はたった今気が付いた。
当たり前に俺がする方で蛍は受け身って考えてたけれど、実のところ蛍がどう考えているか分からないし、こんなの気軽に聞けるわけがない。
「拓ーーっ。パンもうすぐ焼けるよ!」
いつの間にか俺は考え込んでいたらしく、時間が過ぎていた。
慌ててスーツを脱ぎハンガーにかけ、ワイシャツは脱いでクリーニング用の袋に軽く畳んで入れると部屋着にしているスウェットに着替える。
「ああ、いい匂い」
テーブルの上には、熱々のグラタンとサラダとスープにトーストが並べられていた。
トーストは俺の好みの、先にバターをたっぷり塗って焼いた、蛍曰くのじゅわじゅわトーストだ。
これはトースターを温めながら食パンを入れて、ちょっと食パンの表面が乾いた程度で一旦取り出しバターをたっぷりと塗ってトースターに戻して焼くらしい。
俺の家は焼いてからバターを塗っていたから、初めてこの焼き方を食べた時一口ごとに口の中に広がるじゅわぁっていうバターの風味に感動したものだ。
俺が気に入ったのを知ってから、蛍はいつもこの方法で焼いてくれるんだから優しいよな。
「トースト、バター塗って焼いてくれた奴だ。俺これメッチャ好き、ありがと」
「へへ、こんなこと位でお礼言われると照れるよ。サラダにドレッシングかける? それともマヨネーズ?」
「ドレッシングかな」
俺が返事をすると、蛍は手作りドレッシングを俺の皿と自分の皿にかけてくれる。
これは俺が好きなごま油の奴だ。
「グラタン嬉しい。仕事の後にこんなに凝ったもの作ってくれるって、蛍って神?」
「ほめ過ぎだって! ジャガイモはレンチンだし、ホワイトソースもレンチンで作った簡単な奴なんだから、全然凝ってないんだってば」
俺が褒めると蛍は焦った様に両手を顔の前でひらひらと振り、「グラタン冷めちゃうから早く食べよう」と食べ始め、熱々グラタンに口の中火傷しかけたのか涙目になっていた。
なんだそれ、可愛すぎだろ。蛍は俺をどうしたいんだ。
可愛すぎる蛍に、恋人って甘いとかわけわかんない思考に陥った俺は、食後ケーキを食べ始めた蛍が苺を食べさせてくれて、その嬉しさに撃沈した。
ケーキ一個でそんなに幸せそうな顔とか、もう本当に俺の理性を試さないで欲しい。
だけど、蛍、いい雰囲気になりそうになると話題変えようとするんだよなあ。
これはちょっと様子見した方が良い気がする。
頑張れ俺、今迄待ったんだから、焦るな落ち着け俺。
自分自身に言い聞かせながら、甘いクリームを口の端につけてても気がついてない蛍にキスしたくてたまらなかったんだ。
喜びケーキを眺めながら歩き始めた蛍は、ぴたりと足を止め俺を見上げる。
「いいって何が?」
「拓甘い匂い、本当に大丈夫なのか?」
俺が全く覚えていない高校の頃に言ったらしい言葉にずっと囚われていた蛍は、俺が覚えていないと言っても不安なのかもしれない。
『甘いもの苦手、甘ったるい匂いがちょっとなぁ』
確かに甘いものは苦手と言うか嫌いだと言えるけど、それを人にも強要しようとは思わない。
それは今も過去も同じだっていうのに、どうして俺はその時そんな事言ったんだろう。
そのせいで蛍はずっと俺の前で甘いものを口にしなかったんだ、今ケーキを前にこんなに喜んでいるというのに。
「大丈夫。俺に食えって言わないならね。でも俺ちゃんと大人だから、苦手と言いながら会社でお土産に配られたクッキーとか食べる時あるよ」
「え、拓がクッキー食べるの? 想像出来ない」
それは俺も思う。
だけど、いつの間にか机の上に置いてあったりすると食わないわけにはいかないんだよな。
一番困るのが、手作りなんですと配られるカップケーキとかだ。
仲が良ければ甘いもの苦手なんでと断れるけれど、そうじゃない人が配る手作りケーキは受け取るしかないし、食べるのを目の前で見てられるのは拷問の一言だ。
お茶で流し込むわけにもいかず、顔が引きつらない様に何とか完食したあげく「お口に合わなかったです?」とか泣きそうな顔で聞かれて「実は甘いもの苦手で」と正直に話すと何故か俺が悪者になる。
ものすごく理不尽だと思う。
最近は俺の甘いもの苦手が浸透しつつあるから、お気持ちだけでと逃げられているけれど最初は本当に辛かった。
すべての人間がケーキの差し入れを喜ぶと思わないで欲しい。
「俺も想像できないし、正直な話を言えば貰って食わないと悪者扱いはキツイものがあるけどさ、空気読んで食えって感じだから困るんだよなあ。でも甘いものって嗜好品枠なんだから、好んで食べる人間に食べられた方がお菓子だって嬉しいって思うんじゃないかと思うんだよ」
最近土産関係は、○○さんからお土産です。の付箋が貼られて箱がテーブルとかに置いてある様になったから食べなくて済む様になった。
とてもありがたい。
「……俺が甘いもの好きなの知ったから買って来てくれたんだ。拓ありがと、凄い嬉しい」
俺の苦行の告白に何か思う所があったのか、蛍はじぃっと俺を見つめた後、へへへと笑い嬉しいと言ってくれた。
そんなの、蛍が喜んでくれるだけで俺の方が嬉しいってば。
「蛍……」
今抱きしめたら駄目かな、気持ち通じ合ったし恋人だし。
俺の気持ちは滅茶苦茶盛り上がってるというのに、空気が読めない俺の腹はぐううっと鳴った。高らかに鳴りやがったんだ。
「すぐご飯にするね。トースト何枚食べる?」
「二枚かな」
「おっけぃっ!」
笑いながら蛍はキッチンに早足で向かい、俺は自室に入りため息を吐く。
いきなり色っぽい展開なんて、そんな贅沢言わないからせめて抱きしめたいし、くっつきたいんだが蛍にはその気配がまるでないんだよな。
気持ちが通じてすぐにエロイ展開なんて、そんなの漫画とか映画の世界だけのものなのか?
「落ち着け俺、相手は見た目十代の蛍だ。高校時代だって皆のお子ちゃま枠だったんだぞ」
蛍って男同士だとどんな事するか分かってんだろうかと、遠い目になる。
ゴムとローションをこっそり昨日買ってきた俺のこの気持ちの高鳴りは、どうしたらいいんだろう。
「って、俺がする方でいいんだよな? 蛍どう思ってるんだ?」
一番大事な事を俺はたった今気が付いた。
当たり前に俺がする方で蛍は受け身って考えてたけれど、実のところ蛍がどう考えているか分からないし、こんなの気軽に聞けるわけがない。
「拓ーーっ。パンもうすぐ焼けるよ!」
いつの間にか俺は考え込んでいたらしく、時間が過ぎていた。
慌ててスーツを脱ぎハンガーにかけ、ワイシャツは脱いでクリーニング用の袋に軽く畳んで入れると部屋着にしているスウェットに着替える。
「ああ、いい匂い」
テーブルの上には、熱々のグラタンとサラダとスープにトーストが並べられていた。
トーストは俺の好みの、先にバターをたっぷり塗って焼いた、蛍曰くのじゅわじゅわトーストだ。
これはトースターを温めながら食パンを入れて、ちょっと食パンの表面が乾いた程度で一旦取り出しバターをたっぷりと塗ってトースターに戻して焼くらしい。
俺の家は焼いてからバターを塗っていたから、初めてこの焼き方を食べた時一口ごとに口の中に広がるじゅわぁっていうバターの風味に感動したものだ。
俺が気に入ったのを知ってから、蛍はいつもこの方法で焼いてくれるんだから優しいよな。
「トースト、バター塗って焼いてくれた奴だ。俺これメッチャ好き、ありがと」
「へへ、こんなこと位でお礼言われると照れるよ。サラダにドレッシングかける? それともマヨネーズ?」
「ドレッシングかな」
俺が返事をすると、蛍は手作りドレッシングを俺の皿と自分の皿にかけてくれる。
これは俺が好きなごま油の奴だ。
「グラタン嬉しい。仕事の後にこんなに凝ったもの作ってくれるって、蛍って神?」
「ほめ過ぎだって! ジャガイモはレンチンだし、ホワイトソースもレンチンで作った簡単な奴なんだから、全然凝ってないんだってば」
俺が褒めると蛍は焦った様に両手を顔の前でひらひらと振り、「グラタン冷めちゃうから早く食べよう」と食べ始め、熱々グラタンに口の中火傷しかけたのか涙目になっていた。
なんだそれ、可愛すぎだろ。蛍は俺をどうしたいんだ。
可愛すぎる蛍に、恋人って甘いとかわけわかんない思考に陥った俺は、食後ケーキを食べ始めた蛍が苺を食べさせてくれて、その嬉しさに撃沈した。
ケーキ一個でそんなに幸せそうな顔とか、もう本当に俺の理性を試さないで欲しい。
だけど、蛍、いい雰囲気になりそうになると話題変えようとするんだよなあ。
これはちょっと様子見した方が良い気がする。
頑張れ俺、今迄待ったんだから、焦るな落ち着け俺。
自分自身に言い聞かせながら、甘いクリームを口の端につけてても気がついてない蛍にキスしたくてたまらなかったんだ。
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました
あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」
誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け
⚠️攻めの元カノが出て来ます。
⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。
⚠️細かいことが気になる人には向いてません。
合わないと感じた方は自衛をお願いします。
受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。
攻め:進藤郁也
受け:天野翔
※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。
※タグは定期的に整理します。
※批判・中傷コメントはご遠慮ください。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中