【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

番外編

兄の寵愛弟の思惑130

「その馬車が停まっていたのは、具体的にどの家の辺りなのか分かるか」
「道の反対側が第三騎士団の寮のある辺りですから、あそこは……そうですね。殿下が学校で倒れた時話をしていた生徒会長の家ビンダール侯爵家が少し先にあり、その手前ですからシーカ侯爵家とルイス伯爵家の境目といったところでしょうか。両家の門からは離れた場所で、両家の間には馬車がやっとすれ違える程度の細い道があります」

「シーカ侯爵の近く……それにビンダールの家……ルイス家はビンダールの婚約者だったか？」

　ビンダール家とルイス家は、遠い親戚で寄り親寄り子の関係でもある。
　シーカ家は母上の末の妹が嫁いだ家で、ウーゴの婚約者候補の一人であるアニェーゼ・シーカ嬢はつまり私達の従妹だ。
　シーカ家は武門名高い家で、幼い頃からアニューゼ嬢も剣を嗜んでいる。対して幼い頃から魔法使いになると宣言していたウーゴとの相性は顔合わせした当初は良くないのではと言われていたが、今はもう一人の婚約者候補のロッセラ・フェリーチェ侯爵令嬢よりもアニューゼと仲が良いように見える。
　フェリーチェ嬢は、アニューゼ嬢とウーゴの相性を心配され宮廷魔法師の父を持つ彼女が、もう一人の婚約者候補として選ばれたが、このままいくとウーゴはアニューゼ嬢と婚約するのではないかと周囲に思われている。
　ウーゴの本音は分からないが、ウーゴの希望で、兄上の子が無事に生まれた後で王位継承権は放棄し王弟の立場のまま宮廷魔法使いになる予定だ。
　だからウーゴの妻は、王子妃として王宮に暮らすことになる。
　つまり、エマニュエラと顔を合わせる機会が多いから、エマニュエラと何かあっても心を強く保っていられる気持ちの強い女性が望ましい。
　アニューゼ嬢は、ウーゴの婚約者にならないのであれば女騎士となって母上の護衛になりたい。と言う程の母上の崇拝者だから、エマニュエラと問題があっても母上とは上手くやっていくだろう。
　婚約が正式に決まれば、久々に王族以外から王子嫁ぐ令嬢になるが、アニューゼ嬢は母上の姪だから気安い関係でもある。何せ、母上は姉妹の仲が良いし、甥姪達を可愛がってもいる。
　ボナクララは、アニューゼ嬢ともフェリーチェ嬢とも仲は良いと聞いている。
　エマニュエラだけが問題なのだな、どこに行ってもエマニュエラだけが問題になる。
　
「シーカ家は何か言ってきたか？」
「サデウス家の護衛が馬車を守り戦っていると気がついたのが、シーカ家の門番です。門番がすぐにシーカ家の騎士と第三騎士団の詰所に連絡に走り、自らも助けに入った者もいたとか、そのお陰もありボナクララ様には怪我一つなく、襲撃者を一人残さず捕らえられたと聞いております」
「それではシーカ家に礼をしなくてはいけないな」

　兄上には何も聞かされていなかったがそんなことになっていたとは、私自身の意識がなかったとは言え、目覚めてすぐ確認しなかったのは私の落ち度だ。
　本当に私は色々と甘いと、落ち込むことばかりが続いている。

「礼については、すでにサデウス様と王太子殿下がそれぞれされておいでと聞いております。殿下からは、礼状を送られては如何でしょうか」
「そうだな」

　兄上からとはいえ、それは兄上個人ではなく王家からの礼だろう。
　ボナクララはもう王家の一員といってもいいし、襲われたのが私を見舞った帰り道ということもある。

「シーカ家の門番はさすがだな、厄介事に関わろうとしないものだが」
「あの家の者であれば、嬉々として関わったことでしょう。目に浮かびます」
「あぁ、災いを恐れ剣に恥じる生き方は死ぬのと同じというのが家訓と聞きますから、門番であろうとその考えが染み付いているのでしょう」

　それは貴族的で無いというか、なんというかだな。
　叔母上はそういう考えをする人には見えないが、実は違うのだろうか。
　ジョバンニ叔父上のこともそうだが、普段の付き合いだけで理解できた気になるのは私の良くない癖だな。