【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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間抜けだったと理解して

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「あぁ、もう朝なのね」

 湯浴みをしベッドに入ったのは、もうすぐ朝告げ鳥が鳴こうかという頃でした。

「何もしていないのに、疲れたわ」

 まだ少し早い時間だからなのか、メイドが扉を叩く様子はありません。
 喉の乾きを感じながらも呼び鈴を鳴らす気にはなれず、重い体を起こすと大きなため息をつきました。

「あんな手を使う人だと、思いもしなかった私は平和に呆けていたのね」

 初夜のあの日、緊張する私に気を遣ったのか彼は用意していた香油をたっぷりと使い、時間を掛けて私を労りながら夜を過ごしてくれました。
 政略婚で歳の離れた夫からの優しさ等望める筈がないだろうと、半ば諦めていた私は夫が体を気遣い丁寧に接してくれる様子に感動し、言葉にはしなかったものの感謝していました。

 幼い頃は従兄弟である第一王子と婚約するものとして育てられましたが、血が近すぎるのは宜しくないのではという考え方が広まり、それが叶わなくなりました。
 陛下は私を姪としても未来の息子の妻としても愛して可愛がって下さっていたましたが、数代前まで兄妹で婚姻をしていた事もあり、血が濃すぎる婚姻は弱い子が生まれると声が上がり断念したのです。 

 陛下に何かあった場合の備えとして、王弟殿下としての地位を残しつつ公爵家を興した父は、自分が王になれなくても王妃の父親になれば良いと考えていたというのに、その立場にもなれず、その悔しさを私の孫を王家に嫁がせることで晴らそうとしました。
 私を従兄妹として愛してくれていた第一王子殿下も、自分の息子の妻に私の娘を望むと内々に約束してくれたことも父の野望に拍車をかけました。

 十歳も年が離れている夫と婚約したのは、父と侯爵の思惑が一致したからです。
 愛されているのは知っていても、第一王子が好きになれずにいた私は、彼の妻になる未来が消えてホッとしたものの。婚約した相手と上手くやっていける自信はほんの一欠片もありませんでした。
 彼と婚約して良かったことといえば、命を狙われる危険が減ったことくらいだと思います。
 上級貴族令嬢達の中で私が一番王子の婚約者になる可能性が高く、その為命を狙われることが多くありました。
 第一王子が他国の王女と婚約が決まってからも、その危険は日常のアチラコチラに潜んでいて気の抜けない日々を過ごしていましたが、夫と婚約してからというもの油断して過ごせる時間が増えてきたお陰で、結婚する頃には夫が恐ろしい毒を寝室に持ち込んでいるなど、考えもしなくなっていたのです。

「見た目が人畜無害で、凡庸を絵に描いた様な人だったから油断してしまったのね」

 どうしても別れられない恋人と子供の存在を私に隠していた夫は、政略結婚の相手としてはそれなりの評価が出せる家の息子でした。

「閨事で、優しく時間を掛けてくれていたのは私を気遣ってくれていたのではなく、毒が吸収されるのを待っていたなんて」

 気遣ってくれていると思っていた私は、夫にはさぞ滑稽だったでしょう。
 毒性のある避妊薬を使われているとも知らずに、私はこの五年もの間月の物が来る度に、子が授からなかったと悲しんでいたのですから。

「毒、私の体にどれ程影響しているかしら」

 食事に毒が混入しているのを警戒し、私は解毒作用があるお茶を常飲しています。
 公爵家で暮らしている時は、同じ効果の湯で沐浴するのも習慣の一つでしたが、侯爵家でそこまでの警戒は不要と考えてお茶だけを使っていました。

「子が授からなかっただけなのか、本当にあの毒が私に影響していたのか分からないのが悔しいわ」

 元々夫と夜を過ごす事は少なく、月にニ、三度程度あれば多い方でした。
 子を望む気がないのかと苛立つ時もありましたが、夫との閨事の後は何故か気持ちが不安定になる時が多いと気がついてからは、夫が屋敷に帰ってきてもそういう雰囲気にならない様にしていました。
 ですから避妊薬など使わなくても、子が授からなかったのは当たり前とも言えます。

「お兄様、詳しく調べて下さったかしら」

 実際私が子を産めなくなっても、結婚していて子が出来てもおかしくない環境が維持できるなら、本当の母親が誰でも構わないと父は言うでしょう。
 私が産むのが一番ですが、大事なのは私の産んだ子供として育てることで、実際に私と血が繋がっている必要はありません。
 愛人が産んだ子には厳しい国ですが、その出生を誤魔化す方法はないわけではないからです。
 誤魔化す方法、つまり妻が己の矜持を捨て、他人が生んだ子の母親として自分で届けを出せばいいのです。
 妻の面目は潰れますし、それが公になれば恥ずかしくて社交界にも出られなくなります。
 すでに出生届けを出した後なら、妻に子が出来ないのを理由に養子にすればいいだけです。
 彼がそれをしなかったのは、そこまで非情になれなかったのか私の父が怖かったのか、多分後者なのでしょう。

「夫には何も出来ないだろうなんて、非情な行いに気が付かなかった私が間抜けなのね。こんな間抜けはお父様の駒としての役割も果たせない」

 遠くから朝告げ鶏の鳴き声が聞こえてきました。
 声高く鳴くそれは、私には暗い未来を告げるものに聞こえたのです。
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