【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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そして未来は動き出す

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「ねえ、ディーン。あなたは私と幸せになるの。それを諦めるなんて私が許さないわ」

 この人は誰よりも幸せになりたいと願っている筈なのに、それでも私を思い自分の気持ちではなく私の気持ちを優先して自分にとって辛い選択を受け入れようとしていたのでしょうか。
 私がこの家から出て行ってしまったら、ディーンが幸せになれるのはゲームの主人公と出会い彼女がディーンを受け入れた時だけだというのに。
 それも本当のハッピーエンドではなく、彼女にいつか裏切られるのではと疑いながら生きる。そんな未来しかないのです。
 はっきり言って馬鹿です。

「幸せになりたいなら、そうなる為の努力をして。私に身体的にも精神的にも苦痛を与える様なものは駄目よ。そんなもの私もあなたも幸せになれないわ。二人で幸せになるのよ、どちらが苦しんでいても駄目なのよ」
「あなたを苦しめるなんて、絶対にしません。そんな真似をするなら私は自分の命を絶ちます」

 重い、重すぎます。
 ディーンが何故私をこんなに思っているのか、いえ、もしかするとこれは想いとか愛とかよりも、すでに執着の様な気もしますが、そうされる理由は私には分かりません。
 分かりませんが、私を求めるなら悲観的になるのは困ります。

「それは駄目。自分の命を絶ちたくなる程に悩んでいるなら、まず私に相談すると約束して」
「相談」
「そうよ。報告、連絡、相談。それをすると約束して」

 前世でよく言われていた、所謂『ほうれんそう』です。
 この人にはそれが必要な気がします。
 これを徹底させないと、些細な事でも一人で溜め込み最終的に取り返しがつかない大事に発展させてしまいそうです。

「報告、連絡、相談」
「そうよ。あなたは悲観的に考え過ぎる傾向があると思うの。私にとって些細なことをあなたは重大な問題だと考え過ぎているわ。一人で抱え込んで悩んでいても何の解決も出来ないと思わない? あなたは私以外の件はなんでもそつなくこなすのかもしれないわ。でも私についてはそう出来ないのでしょう? 今だって私が考えもしなかった事を心配しているのだもの。そんな風に悩まれていたら心配で仕方がないわ」

 不安要素はすべて潰していかなければ、この人との明るい未来等やってくる筈がありません。
 なにせ基本要素が自己肯定感が低すぎる位に低い人なのですから。

「そうですか」
「あなたが私に求めるものは私の心? 生涯共に生きること? その他にもある?」
「私が望んでいると言えば私にあなたの心を下さるのですか。私と生涯生きて下さるのですか」

 重すぎる答えが返ってきました。
 私はその他にも望むものがあるのかと聞いているのに、縋るような目で私を見つめながら心が欲しい、将来の約束が欲しいと言い続けているのです。

「ピーターとの結婚はお父様とお兄様の命令に従っただけよ。でもね、ディーン。あなたとの結婚は私自身で考えて決めたことよ。勿論お父様達が反対したら出来ないけれど、幸いそうではなかった。だから私は安心してあなたを夫に出来るの。ディーン私の気持ちを不安に感じたら、これだけを思い出して。私は自分の意思であなたとの結婚を決めたの。あなたと幸せになりたいから、あなたを夫にしたいから。決めたのだと、思い出して」
「私と幸せになりたいから」

 何度も似たようなやり取りをしていますが、その度にディーンは信じられないという顔をするのです。
 それだけお義母様達からの傷が深いのでしょう。

「ええ、そうよ。だからあなたは私をいかに幸せにするか。それを考えるべきなの。私は贅沢な女よ、貧しい暮らしなんてさせないでね」
「勿論です。あなたには髪の毛一本程の苦労すら掛けるつもりはありません」

 きりっと言い切る姿はなかなかです。
 でも、能力はあるのでしょうか。

「私は自分の暮らしを支える領民達が飢えるのは嫌よ。彼らが飢えて苦しい暮らしをしているのに、自分が贅沢をするなんて出来ないわ。だから、私が幸せになる為にはまず領民達が豊かな暮らしをしているのが前提よ」
「はい」
「あなたが良い領主になって領地を豊かにすることは、私達だけじゃなく私達の子供の未来をも明るいものにするのよ」
「私達の子供」
「ええ。私達の子供よ。私だけ贅沢な暮らしをするのでは駄目なのよ。私も私の子供も孫もその子供も、みんなが幸せに生きていける様になりたいの。それが見える生活でなければ幸せとは言わないわ」

 絶望的な未来は嫌です。
 私も娘も断罪され命を落とす、そんな未来は嫌です。

「勿論、天災はあるでしょうし、不作な年もあるでしょう。予想外の困難はこれからいくらでも考えられるわ。でも、あなたはこの地の領主になるし、私達の子の父親になるのよ。だから、皆が幸せになる未来の為に考えて努力し続けて、私はそんなあなたの側にずっといるから。辛い事も悲しい事も二人で乗り越えましょう。楽しい事や嬉しい事を二人で分かち合いましょう。ずっとずっと私達は一緒よ」

 これだけ言えば少しはディーンの心に響くでしょうか。

「約束します。私は良い領主になって、あなたが誇れる夫になります。あなたを一生愛し続けます」

 うっとりと陶酔したような顔でディーンは私に誓います。
 彼が私に心酔している間は、きっと努力をし続けてくれるでしょう。
 私は彼が不安にならない様に、愛していると言葉と態度で言い続けるだけです。

「ありがとう。ディーン。私はずっとあなたの側にいるわ。あなたが私を望む限り、側に居続けるわ」
「はい」

 抱きしめあって、私達は唇を重ねました。
 互いを愛し、尊び、そして明るい未来の為に努力し続ける。そういう誓いをしたのです。
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