【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

ほのぼの日常編1 再婚を祝う人々2(ダニエラ視点)

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「お前がどう思おうと勝手だが、ディーンは難しい男だ。ダニエラの手に余る時は遠慮せずに相談するといい」

 ディーンの難しさをお兄様は理解されているのでしょう、私に気遣いそう言ってくれる事が嬉しくて馬車の中だというのに私は立ちあがるとお兄様の隣に腰を下ろしました。

「どうした」
「誰にも邪魔されずお兄様に甘えられるのですから、少しだけ私を甘やかして下さいませ」

 お兄様の隣に座り上目遣いにそうお願いすれば、眉間に皺を寄せたお兄様はそれでも拒絶せずに私の我儘を受け入れてくれました。

 ゲームの課金追加の攻略対象者がお兄様で、メリバエンドの相手が私だとしてもそれは現実ではありえないと分かっていますから、私はこうして安心してお兄様に甘えられます。
 それは今回の事で、もしかしたら私は駒としてでは無く妹としてお兄様に愛して貰えているのかもしれないと気が付いたからです。
 ゲームのダニエラとお兄様は、仲がいいとは思えない間柄でした。
 でも、実はそうでは無かったのかもしれない。
 私は良くも悪くも箱入りで、世間を知らなすぎました。
 
「お前は相変わらず王宮が苦手なのだな、だがそれがあれば大抵の事は防げる。ディーンの渾身の作だからな」

 私がお兄様の隣に座ったのは、不安だからと考えたのでしょうか、お兄様は私の腕輪を指さしました。

「ディーンに聞いただろう? それは陛下もご存知ない効果の守り石だからな」
「それは」
「解毒と解呪だ、精神干渉の魔法も防ぐ」

 それは、過去に王宮で私の命が狙われた時に使われた手口です。
 一番警備が厳重な筈の王宮で、私は何度も毒を使われた死にかけましたし、贈り物に呪いが掛けられていた事も一度や二度ではありません。

「お兄様にずっと守っていただいていたのですね」
「それを作ったのはディーンだ」

 素っ気ない言い方は、いつものお兄様です。
 幼い頃は、兄のこの話し方が怖くて怯えながら、それでもまとわりついていました。

「それでも、これを下さったのはお兄様です」

 お兄様の思いやりは分かりにくいし、お父様は更にそうでした。
 言われた事をよくよく考えなければ、褒められていた事すら気が付けない程の難解さでした。
 無表情でからかいと嫌味の間に褒め言葉があるのですから、幼い子供に理解せよという方が難しいのです。
 
「ふん、それがあるからと油断するのがお前だ。王宮内で私から離れるなよ」
「はい」

 気をつけていればお兄様が私を心配してくださっていると簡単に分かるのに、以前の私にはそれが出来ませんでした。
 だから私は、自分が第一王子殿下の婚約者になれなった時、自分で自分を追い詰めていたのかもしれません。
 第一王子殿下に従兄としての思いはありましたが、それ以上の感情はありませんでした。
 それどころか、彼の婚約者候補でなければ他の家から命を狙われる事もないのにと嘆く日々でしたが、王子殿下は私の恐怖を理解する事はありませんでした。
 婚約者になりたいとは思っておらず、ただそうあるべきなのだと考えるだけ、それどころか私が側にいて当たり前とばかりに、自分のもの扱いを常にするので正直な気持ちを言えば苦手な人でした。
 私が婚約者候補から正式に外れ、彼の相手が他国の王女となった時本当はホッとしていたのに、いざ周囲から可哀相な令嬢扱いをされ始めると、遅まきながら私は家の役に立てなかったのだと気が付いて、お父様とお兄様に政略の駒としての役割も出来ないと嘆かれているのかもしれないと思い始めたのです。

 そうして自分より十歳以上年上の男性と結婚を決められた時、その思いは確実なものに変化しました。
 王子の婚約者になれなかった私は罰の様に結婚を決められてしまったのだ、家柄はそれなりでも王弟の娘が嫁ぐには首を傾げたくなる様な相手を夫にするくらいお父様とお兄様は私に怒りを感じているのだと。
 だから、娘を産んで第一王子の子供と婚約させる。とお父様に言われた時、私はその役割を果たせなければいけないのだと思い込んでしまったのです。

「お兄様」
「なんだ」
「私、お兄様の妹に生まれて幸せです。辛い時も悲しい時もお兄様は私と共に居て下さいました」

 五年も子を産めずにいた私、夫から毒を使われていた等思いもしなかった間抜けな私。
 ネルツ家の今回の騒動で、未来の王妃の実家としては相応しくない家になってしまいました。
 それでも私がディーンの結婚を望んでいると知っているからこそ、お父様もお兄様も反対せずにいるのでしょう。

「共にいた覚えは無い。幼い頃のお前は勝手に私の後ろを追いかけて来ただけだし、大きくなってからもお前が、お茶を飲んで休憩して下さい、ダンスの練習に付き合って下さいとまとわりついていただけだ」
「でも、それに付き合って下さいました」

 あれ? やっぱり私の勘違いなのでしょうか。
 私、お兄様に実は嫌われてる? そんな事無いわよね。

「まあ、気晴らしにはなったな。私に相手をして欲しそうにしているお前は面白かった」
「それなら良かったです」

 私をからかうお兄様と、ディーンといるよりも気楽だと感じる私を乗せた馬車は王宮の門をくぐったのです。
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