【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

ほのぼの日常編1 再婚を祝う人々4(ダニエラ視点)

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「ダニエラ、疲れた顔をするな。見苦しい」

 陛下の前から逃げ出し……いいえ、お暇して豪奢な廊下をお兄様と一緒に歩いている私、なんと今現在未婚のダニエラです。
 寡婦ではありません、未婚です。
 何故そうなったのか、まだ私の頭の中の理解が追い付いておりません。

「お父様、私達を助けに来て下さったのでしょうか」

 陛下はどうも私達と晩餐を共にと考えられていた様ですが、お兄様は兎も角私は王宮での飲食に良い記憶が無いため苦手です。
 先程は短時間だった為、お茶などが出なかったのは幸いでしたがディーンの守り石の意味を知っていても出来れば避けたいのが本音です。

「他にどんな理由がある。陛下がされた諸々の手配は既に一部には広まっているだろう、どんな勘繰りをされているか分からないのに、陛下と我々だけで晩餐をなどとんでもない」
「そうですよね」

 小規模の晩餐会ならそう珍しくはありませんが、忙しい陛下が甥姪だけでとなればちょっとした騒ぎになるのは予想が出来ます。
 昼食やお茶なら兎も角、晩餐は余程の事がない限り王妃殿下ですら別に取るのが普通です。
 何せそれぞれが忙しいのです、時間を合せるのだけでも一苦労でしょう。

「お父様、あんな感じなんですね」
「今日はだいぶ機嫌取りをされていた様だな」

 普通であれば要件だけを話してすぐに、陛下から退室を言われるものですがそれが無く、私達からそれを言い出すわけにもいかず困っていた時にお父様が現れたのです。
 お父様と一緒に入ってきたメイドは、サービングカートに豪華な茶器と菓子を二人分載せていました。
 お父様は「ダニエラの為に兄上自ら動いて下さったお礼にお茶を用意しました。兄上は当然私の為に時間を取ってくれますよね?」と生まれて初めて見る笑顔で、陛下におねだりしていました。
 まさかお父様が誰かにおねだりする瞬間を見ることになるとは、人生何が起きるか分かりません。

「機嫌取りというか、おねだり……」
「あれをそう言えるダニエラが凄いよ。私は父上のあの姿を見る度背筋が寒くなる」

 お兄様の軽口、軽口ですよね? に驚きながらお突然の父様登場にご機嫌になった陛下の変化に私は胸焼けの様なものを感じていました。

 前世の腐海界隈の薄い本では、お兄様✕ディーンとか、お兄様✕第一王子とか、ディーン✕ロニーとかあった様ですが、あの二人を見たら、陛下✕お父様的な本も出したがる人がいたのではないか、そんな気がします。
 二人共、いえお父様は当然、陛下にもそんな気は流石に無いでしょうが、そういう掛け算を好む方は多そうな程陛下の喜び具合は凄かったのです。

「お父様の方が強気に見えましたが、気のせいですか?」
「ああ、陛下は父上が言えば白でも黒くするしその逆もする。良い例がお前だ」
「お父様はそれを見越して行動されたのですね」

 お兄様が陛下ではなく、伯父上と呼んだのもその一つなのでしょう。
 何せお兄様はお父様の若い頃と瓜二つだそうですし、陛下は実の息子よりも私達を可愛がっています。

「私が結婚していたのは皆が知っているでしょうに」
「そんなもの、陛下の一声ですむ。他国なら兎も角ここはそういう国だ」

 この辺りは元々が乙女ゲームの緩い世界設定だからなのか、王の権力が絶対だし上位の貴族が決めた事に下位の貴族は逆らえないし、平民等死なない程度の締め付けで生かしておけばいいと考えている貴族も多いのですが、ゲームのダニエラやお義母様はその典型でしたし、お兄様達だってそうだった筈だいうのに今は私が前世日本人だった記憶を持っているからなのか、公爵家全体が何だか緩い気がします。
 ゲームはダニエラはダニエラの娘と主人公や攻略対象者とのやり取りの中で出て来るのが殆どで、目立った登場シーンと言えば断罪の時位だけれど、ダニエラってあの時正気だったのかという疑問が出てきました。
 大魔女郎蜘蛛の話をディーンから聞いて、蜘蛛に腕を食われて死んでしまったダニエラの場面を思い出し、後日その後のディーンがダニエラの遺体を抱きしめ泣くシーンを思い出しました。
 あれは主人公の裏エンドの方、ディーンとのメリバエンドになるエピソードでした。
 ディーンは、主人公に過去のトラウマを慰められたり紆余曲折あって彼女を愛する様になりますが、ダニエラの死もその紆余曲折エピソードの一つです。
 ゆるふわ設定の乙女ゲームの割に、攻略対象者は皆病んでるし蜘蛛の魔物に悪役令嬢の母は殺され悪役令嬢も処刑された様な感じに終わるのはかなり酷いと思いますが、他の乙女ゲームとの差別化を図る為に過激なエピソードを入れて行ったのでしょうか。

「ダニエラ?」
「陛下が選ばれたドレスというのが気になってしまって。華美過ぎるものでは私気後れしてしまいそうです」
「陛下の趣味というよりも父上好みのドレスになっているだろうな」

 お兄様が嫌そうに言うので、私はつい苦笑いしてしまいます。
 陛下の基準がお父様なのは、先程の部屋を見れば良く分かります。
 お父様好みの重厚な総革張りでボタンが均一に配置されている、前世でいう所のチェスターフィールドのソファーがメインで置かれた部屋です。
 お父様は豪華絢爛と一目でわかる様な物よりも、落ち着いたものを好む傾向にあります。
 その好みに合わせているのであれば、そう奇抜なドレスにはならないと思いますが王妃様はかなり派手なドレスをいつもお召しになるのでまだ油断は出来ません。

「お前の好みかどうか分からないが、どの道着るしかなのいだから諦めるのだな」
「それはそうですね。ディーンと婚姻の儀式が出来ると考えてしませんでしたから、感謝してドレスも頂きます」

 ディーンの服の話は出ませんでしたが、騎士や魔法師団はそれぞれ儀式用の礼服がありますからそれを着るのでしょう。
 
「お兄様、早く魔法師団の棟に行きましょう。ディーンにもこの事を教えなければいけませんわ。喜んでくれるといいのですが。彼大がかりな式になるのは嫌がるでしょうか」
「ふん。あれはダニエラが喜ぶ事ならなんでも喜ぶだろうさ」
「それならいいのですが、嫌な事をさせるのは申し訳ありませんし」

 ピーターとの式の事は、正直あまり印象に残っていません。
 彼は終始不機嫌そうで私が話し掛けてもまともな返事は貰えませんでしたし、短い婚約期間の間に彼の性格は何となく分かっていましたから、お父様とお兄様の決めた事に従っているだけという気持ちでしかありませんでした。
 この頃に前世の記憶を取り戻していたら、ある意味とても辛い生活だったでしょう。
 貴族の家に生まれて育った箱入りのダニエラだったからこそ、貴族の結婚等こんなものだろうと諦める事が出来たのです。

「安心しろ、あれは自分の事よりおまえが喜ぶかどうかの方が余程大切だ。お前が嬉しそうならそれで良いと考える人間だ」
「そこまで思われる理由が分かりませんが。……まあ」

 少し離れた場所にいる人を見つけ、私はつい声を上げてしまいました。
 この辺りまで人払いされていたのか全く人通りの無かった警備の騎士すら姿が見えない場所に、何故か一人懐かしい人が立っていたです。

「久しぶりだな。ダニエラ」

 お兄様が隣にいるのに、何故かその人は私にだけ声を掛けてきました。

「お久しぶりです。第一王子殿下」

 この廊下の先は陛下の私的な場所です。
 私達を呼んでいて彼を呼ぶとは思えませんが、何故彼はここにいるのでしょう。 
 疑問を抱きながら私は淑女の礼を行ったのです。
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