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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち25(蜘蛛視点)
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「ダニエラ、癒しの苺を食すといい。話をして疲れただろう」
湿った空気を誤魔化す様に、蜘蛛はダニエラに提案すると、返事を待たず蜘蛛の体を少し小さくしてベッドから下りると、空間収納からマチルディーダが森で休む時用の食器を取り出しテーブルの上に置き、癒しの苺を食べやすい様に半分に切って皿に盛りつける。
魔物は肉だろうが果物だろうが気にせずあるがままの形でポイポイ口に放り込むが、ダニエラやマチルディーダは人族の中でも高貴な貴族だから採取した果物は丁寧に清らかな水で洗うし食べやすく切り分けなければならないと、ちゃんと蜘蛛は勉強しているから知っている。
その辺りの勉強を蜘蛛は、ちぃにも強制的に始めさせた。
使役獣の恥はその主人の恥になる。
礼儀を知らず主人の足を引っ張る様な使役獣は存在する価値が無いし、主人が足らぬ部分を補えるくらいでなければいけないと蜘蛛は考えているからだ。
だから人間の世界の礼儀作法と文字と発音と計算は最低限の知識として必要だし、他にも色々覚えなくてはいけないものはある。
マチルディーダはダニエラの娘なのだから、第一王子の妃を筆頭に命を狙ってくる奴らがこれから先出て来る。
人の世界の知識が無ければ、危険に気が付かない可能性がある。
蜘蛛達には脅威ではない毒草でも、人が摂取したら命に関わる場合だってあるのだ。
大切な主人の命を失ってから、失いかけてから知らなかった力が及ばなかったと後悔しても遅いのだ。
そう、マチルディーダが生まれた時の様な後悔を、蜘蛛はもう二度としない。
そんな危険を、主もダニエラも子供達も合わせないと心に誓っている。
「くぅちゃん」
「ダニエラ、苺にクリームを添えるかそれとも魔蓮華草の蜜がいいか。魔蓮華草の蜜は爽やかに甘くて癒しの効果も魔力も高いぞ」
「魔蓮華草? 聞いた事がないわ。蜂蜜とは違うものなの?」
「ああ、蜂蜜はミツバチが花の蜜を集めて作ったものだろう。これは魔蓮華草の蜜そのものだ。迷宮の奥に咲いている魔蓮華草から蜘蛛が集めて来た」
癒しの苺の花を受粉させる為、迷宮の奥には沢山の紫毒蜂を住まわせている。
奴らは毒の針で敵を攻撃するが、それ以外の攻撃力はなく一度針を使えば死んでしまう弱い虫だ。
紫毒蜂の巣の中に作られる蜜は、普通のミツバチの蜜よりも濃厚で甘く香りも良いし栄養価が高い。
「蜂蜜とは違うものなのね」
「ああ、迷宮の中に住む紫毒蜂が魔蓮華草から蜜を作っていてそれも美味いものだが、少し香りが強いから今のダニエラなら花の蜜の方が食べやすいと思う」
癒しの苺だけでは紫毒蜂の食料には足りないから、魔蓮華草を沢山植えてありその蜜を紫毒蜂が集めているのだ。
「少し頂きたいわ。子供達が心配だけどディーンが戻ってくるまでベッドの中にいないといけないわね」
「アデライザは乳母達が見ているだろうが、マチルディーダは何をしている?」
小さな壺から花の蜜を匙ですくい苺の上にとろりとかけながら聞くと、ダニエラは少し眉間に皺を作って「ロニーと一緒に温室部屋にいると思うわ」と答えた。
「そうか。ダニエラ起き上がれるか。メイドを呼んでくるか」
さすがの蜘蛛もダニエラの体を起き上がらせるのは出来ない。
ダニエラにいつも付き従っているメイド達の姿は何故か見えないが、休ませる為だろうか。
側に呼び鈴はあるから、すぐ近くの部屋に控えているのかもしれない。
「起き上がる事は出来るから平気よ。くぅちゃんありがとう」
「礼を言われる程ではない。ほら、苺だ」
起き上がり枕を背もたれにベッドに座るダニエラの毛布を何とか整えてやり、皿を手渡す。
やはり蜘蛛の体では不自由だ、これは一日でも早く人型になれる様にならなければ。
「美味しそうね。良い香り。この苺の香りだけで元気になれそうよ」
皿を両手で持ち苺の香りを嗅いでいるダニエラの喜び方は、とても可愛いくて何人も子供がいる様には見えない。
「主からロニーが養子に出ると聞いた」
「ええ、心配だけど将来の為にはその方がいいと思うの。もしマチルディーダがロニーと共に生きることを選ぶならあの子を平民のままにはしておけないわ。この家に婿入りするならネルツ家で養子にするわけにもいかないでしょうし」
「そうだな。婚約するという時になってどこかの家の養子にするのは邪魔が入りそうだから、早い内がいいのだろうな」
あの晩森に来た主は、少し落ち込んでいた。
何も考えずロニーを応援してやりたいのに、心の底ではそれが出来ないのが辛いとこぼしていた。
ダニエラは、主の葛藤を知っていてそれでもロニーを応援しようとしてくれただけで嬉しいと言ってくれて、それが嬉しくて辛いと。
「ダニエラはそれでいいのか」
「ええ、ロニーは辛くても自分で自分の未来を選んだわ。それが罪を償うことだと信じた結果だというのは辛いけれど、そうする事で自分を許せるのなら、私は彼を応援したいと思うの」
「罪の償い? どういうことだ」
主はそんな話をしていただろうか、数日前の夜を思い返すがそんな話を蜘蛛にしなかった。
すべてを話すわけでは無いから、しなくても当たり前だ。
「実はロニーの母親はね」
ダニエラはリチャードから聞いた話と、ロニーの告白について話をしてくれた。
ゆっくりと苺を咀嚼しながら、ダニエラ自身の懺悔の様に話す内容はあまりにも身勝手で愚かで、蜘蛛は己の子に自分の罪を擦り付ける様な真似事をした女の愚かさに呆れと憤りを感じた。
蜘蛛はロニーを好きでは無い。
あれは我儘で、マチルディーダが仲良くする者すべてを邪魔に思っている。
その心根が嫌だったし、ロニーがマチルディーダに感じているのは愛ではなく執着だと考えていた。
「酷い話もあったものだ」
リチャードは毒に体が蝕まれているのだと、ニール様が以前蜘蛛に教えてくれた。
ダニエラを害そうとした罰を、リチャードはそうとは知らず自ら毒を飲んでいるのだと言う。
最初の頃は解毒剤だと思い、今は体を治す薬だと信じてそれを飲み続けているのだそうだ。
体内に溜まった毒はリチャードの体を苦しめ続けるが、容易には死なない。
苦しいだけで、すぐ死に繋がらない毒をニール様は使っているのだ。
優しいダニエラはリチャードを許しているが、ニール様はそうではない。
「ピーターは母に似た人を愛したのだと思うの。自分だけが大事、子供を愛するのも可愛がるのも虐げるのも全部自分の為」
「そうなのかもしれないな」
魔物と人の徹底的な違いは、人には理性と感情があるという点だと蜘蛛は思う。
魔物にあるのは、良くも悪くも本能だ。
例え蜘蛛の様に知識がついても、その根底にあるのは本能だ。
そこが人とは違う点だ。
だが、ロニーの父母もリチャードも、とても理性がある人間だとは思えない。
本能に従う魔物と同じなんじゃないか、間違えて人に生まれた魔物。そうだとしか思えない。
「ダニエラ、……誰か来た」
「奥様、大変でございますっ」
礼儀正しいこの家の使用人には珍しく、扉の前で誰かが叫んだ。
「どうしたの、入って」
「失礼致します。奥様、辺境伯が突然いらっしゃいました。先触れ無に門の前に!」
「何ですって、辺境伯が何故。す、すぐに着替えの用意を。辺境伯には応接室で待っていただいて」
「畏まりました。すぐにご用意致します」
ひっと息を飲んだダニエラは、それでも気丈に準備を指示した。
ダニエラの指示に使用人は慌ただしく部屋を出て行く、主が感じていた不安はこれだったのだろうか、だとしたら蜘蛛は何をしたらいい? すぐに主に連絡を取りそれから……。
「ダニエラ」
「くぅちゃん、ディーンを呼んで。先触れ無に訪ねて来るなんて、馬鹿にされたものだわ。……くぅちゃん、大変マチルディーダ達が玄関近くの温室部屋にいるの」
「すぐに向かう。一人にするが平気か」
「使用人達が来るから私は大丈夫、マチルディーダをお願い」
主の不安の理由がマチルディーダなのか、蜘蛛は窓を開き壁伝いにマチルディーダの魔力がある場所を目指したのだった。
湿った空気を誤魔化す様に、蜘蛛はダニエラに提案すると、返事を待たず蜘蛛の体を少し小さくしてベッドから下りると、空間収納からマチルディーダが森で休む時用の食器を取り出しテーブルの上に置き、癒しの苺を食べやすい様に半分に切って皿に盛りつける。
魔物は肉だろうが果物だろうが気にせずあるがままの形でポイポイ口に放り込むが、ダニエラやマチルディーダは人族の中でも高貴な貴族だから採取した果物は丁寧に清らかな水で洗うし食べやすく切り分けなければならないと、ちゃんと蜘蛛は勉強しているから知っている。
その辺りの勉強を蜘蛛は、ちぃにも強制的に始めさせた。
使役獣の恥はその主人の恥になる。
礼儀を知らず主人の足を引っ張る様な使役獣は存在する価値が無いし、主人が足らぬ部分を補えるくらいでなければいけないと蜘蛛は考えているからだ。
だから人間の世界の礼儀作法と文字と発音と計算は最低限の知識として必要だし、他にも色々覚えなくてはいけないものはある。
マチルディーダはダニエラの娘なのだから、第一王子の妃を筆頭に命を狙ってくる奴らがこれから先出て来る。
人の世界の知識が無ければ、危険に気が付かない可能性がある。
蜘蛛達には脅威ではない毒草でも、人が摂取したら命に関わる場合だってあるのだ。
大切な主人の命を失ってから、失いかけてから知らなかった力が及ばなかったと後悔しても遅いのだ。
そう、マチルディーダが生まれた時の様な後悔を、蜘蛛はもう二度としない。
そんな危険を、主もダニエラも子供達も合わせないと心に誓っている。
「くぅちゃん」
「ダニエラ、苺にクリームを添えるかそれとも魔蓮華草の蜜がいいか。魔蓮華草の蜜は爽やかに甘くて癒しの効果も魔力も高いぞ」
「魔蓮華草? 聞いた事がないわ。蜂蜜とは違うものなの?」
「ああ、蜂蜜はミツバチが花の蜜を集めて作ったものだろう。これは魔蓮華草の蜜そのものだ。迷宮の奥に咲いている魔蓮華草から蜘蛛が集めて来た」
癒しの苺の花を受粉させる為、迷宮の奥には沢山の紫毒蜂を住まわせている。
奴らは毒の針で敵を攻撃するが、それ以外の攻撃力はなく一度針を使えば死んでしまう弱い虫だ。
紫毒蜂の巣の中に作られる蜜は、普通のミツバチの蜜よりも濃厚で甘く香りも良いし栄養価が高い。
「蜂蜜とは違うものなのね」
「ああ、迷宮の中に住む紫毒蜂が魔蓮華草から蜜を作っていてそれも美味いものだが、少し香りが強いから今のダニエラなら花の蜜の方が食べやすいと思う」
癒しの苺だけでは紫毒蜂の食料には足りないから、魔蓮華草を沢山植えてありその蜜を紫毒蜂が集めているのだ。
「少し頂きたいわ。子供達が心配だけどディーンが戻ってくるまでベッドの中にいないといけないわね」
「アデライザは乳母達が見ているだろうが、マチルディーダは何をしている?」
小さな壺から花の蜜を匙ですくい苺の上にとろりとかけながら聞くと、ダニエラは少し眉間に皺を作って「ロニーと一緒に温室部屋にいると思うわ」と答えた。
「そうか。ダニエラ起き上がれるか。メイドを呼んでくるか」
さすがの蜘蛛もダニエラの体を起き上がらせるのは出来ない。
ダニエラにいつも付き従っているメイド達の姿は何故か見えないが、休ませる為だろうか。
側に呼び鈴はあるから、すぐ近くの部屋に控えているのかもしれない。
「起き上がる事は出来るから平気よ。くぅちゃんありがとう」
「礼を言われる程ではない。ほら、苺だ」
起き上がり枕を背もたれにベッドに座るダニエラの毛布を何とか整えてやり、皿を手渡す。
やはり蜘蛛の体では不自由だ、これは一日でも早く人型になれる様にならなければ。
「美味しそうね。良い香り。この苺の香りだけで元気になれそうよ」
皿を両手で持ち苺の香りを嗅いでいるダニエラの喜び方は、とても可愛いくて何人も子供がいる様には見えない。
「主からロニーが養子に出ると聞いた」
「ええ、心配だけど将来の為にはその方がいいと思うの。もしマチルディーダがロニーと共に生きることを選ぶならあの子を平民のままにはしておけないわ。この家に婿入りするならネルツ家で養子にするわけにもいかないでしょうし」
「そうだな。婚約するという時になってどこかの家の養子にするのは邪魔が入りそうだから、早い内がいいのだろうな」
あの晩森に来た主は、少し落ち込んでいた。
何も考えずロニーを応援してやりたいのに、心の底ではそれが出来ないのが辛いとこぼしていた。
ダニエラは、主の葛藤を知っていてそれでもロニーを応援しようとしてくれただけで嬉しいと言ってくれて、それが嬉しくて辛いと。
「ダニエラはそれでいいのか」
「ええ、ロニーは辛くても自分で自分の未来を選んだわ。それが罪を償うことだと信じた結果だというのは辛いけれど、そうする事で自分を許せるのなら、私は彼を応援したいと思うの」
「罪の償い? どういうことだ」
主はそんな話をしていただろうか、数日前の夜を思い返すがそんな話を蜘蛛にしなかった。
すべてを話すわけでは無いから、しなくても当たり前だ。
「実はロニーの母親はね」
ダニエラはリチャードから聞いた話と、ロニーの告白について話をしてくれた。
ゆっくりと苺を咀嚼しながら、ダニエラ自身の懺悔の様に話す内容はあまりにも身勝手で愚かで、蜘蛛は己の子に自分の罪を擦り付ける様な真似事をした女の愚かさに呆れと憤りを感じた。
蜘蛛はロニーを好きでは無い。
あれは我儘で、マチルディーダが仲良くする者すべてを邪魔に思っている。
その心根が嫌だったし、ロニーがマチルディーダに感じているのは愛ではなく執着だと考えていた。
「酷い話もあったものだ」
リチャードは毒に体が蝕まれているのだと、ニール様が以前蜘蛛に教えてくれた。
ダニエラを害そうとした罰を、リチャードはそうとは知らず自ら毒を飲んでいるのだと言う。
最初の頃は解毒剤だと思い、今は体を治す薬だと信じてそれを飲み続けているのだそうだ。
体内に溜まった毒はリチャードの体を苦しめ続けるが、容易には死なない。
苦しいだけで、すぐ死に繋がらない毒をニール様は使っているのだ。
優しいダニエラはリチャードを許しているが、ニール様はそうではない。
「ピーターは母に似た人を愛したのだと思うの。自分だけが大事、子供を愛するのも可愛がるのも虐げるのも全部自分の為」
「そうなのかもしれないな」
魔物と人の徹底的な違いは、人には理性と感情があるという点だと蜘蛛は思う。
魔物にあるのは、良くも悪くも本能だ。
例え蜘蛛の様に知識がついても、その根底にあるのは本能だ。
そこが人とは違う点だ。
だが、ロニーの父母もリチャードも、とても理性がある人間だとは思えない。
本能に従う魔物と同じなんじゃないか、間違えて人に生まれた魔物。そうだとしか思えない。
「ダニエラ、……誰か来た」
「奥様、大変でございますっ」
礼儀正しいこの家の使用人には珍しく、扉の前で誰かが叫んだ。
「どうしたの、入って」
「失礼致します。奥様、辺境伯が突然いらっしゃいました。先触れ無に門の前に!」
「何ですって、辺境伯が何故。す、すぐに着替えの用意を。辺境伯には応接室で待っていただいて」
「畏まりました。すぐにご用意致します」
ひっと息を飲んだダニエラは、それでも気丈に準備を指示した。
ダニエラの指示に使用人は慌ただしく部屋を出て行く、主が感じていた不安はこれだったのだろうか、だとしたら蜘蛛は何をしたらいい? すぐに主に連絡を取りそれから……。
「ダニエラ」
「くぅちゃん、ディーンを呼んで。先触れ無に訪ねて来るなんて、馬鹿にされたものだわ。……くぅちゃん、大変マチルディーダ達が玄関近くの温室部屋にいるの」
「すぐに向かう。一人にするが平気か」
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2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
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