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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち26(蜘蛛視点)
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『主、今そこに父上殿かニール様はいらっしゃるか』
壁を伝い歩きながら、蜘蛛は主に意識を繋いだ。
ダニエラと長い間話し込んでいたから、もしかするとすでに公爵家を出た後かもしれない。
辺境伯というのは、国をぐるりと囲み四方をそれぞれの家が管理しているらしい、東西南北どの家も王家の血を継いだ者が当主になっているそうだが、今回来たのは多分マチルディーダに婚姻の申し込みをしていたという東の辺境伯ではないだろうか。
『どうした蜘蛛、ダニエラに何か』
『蜘蛛の問いにまず答えてくれ。ダニエラは今のところは無事だ』
腹の中の子が双子だと言う事は、父上殿と母上殿に相談してから主に知らせるべきだろうか。
まだあと生まれるまで三か月もあると言うのに、今から主に教える事が正しいのかどうか蜘蛛でも判断出来ない。
『二人共ここにいらっしゃる。まだ公爵家の中だからな』
『それはありがたい。主すぐに戻って来てくれないだろうか出来るならお二人も一緒に』
王家の森に入っていたなら二人を連れて来る事は出来なかっただろう、あそこに魔法陣は設置していない。
主だけなら一人で転移出来るが、魔物が跋扈する王家の森に主が二人を置き去りにして転移出来るとは思えない。
『何があった』
『先触れ無に辺境伯が来た。ダニエラは追い返さずに招き入れた、脅していいなら蜘蛛が相手をするがそれはマズイのだろう?』
貴族の館を訪ねる際、まず手紙で相手の都合を尋ね当日はいつ頃到着すると先触れというものを出すのがこの国の貴族の仕来りだと蜘蛛はニール様から教えて貰った。
余程親しい相手でも、急用でない限りそうするのは最低限の礼儀らしいが、相手が格下の礼儀を失していいと思う相手だと知らしめる為に、わざと先触れを出さない場合もあるらしい。
礼儀知らずだと追い返しても良い事ではあるが、ダニエラが何も言わずに通したのは主が不在中に揉め事を起こしたくなかったのか、主が戻ってくるまでの時間稼ぎのどちらかだろう。
『すぐに戻る。ダニエラはどうしている』
『ダニエラは辺境伯に会う用意をしている。問題なのはマチルディーダだ、玄関の近くにいるらしい』
『温室部屋か。すぐに魔石を交換し向かう。蜘蛛、その間ダニエラ達を頼む』
転移の魔法陣は一人分の魔石を普段取り付けている。
三人一度に転移する場合、魔石を大きな物に変えそれぞれの魔力をある程度流さないといけない。
転移の魔法陣を使える権限が無い者が勝手に使用出来ない様にしているのだから、緊急の場合これでは後手に回る可能性がある。これは改善が必要だ。
『分かった。……マチルディーダが泣いている』
声が聞こえた。
まだ距離があるというのに、聞こえるこの声はマチルディーダの心の声だ。
『主、最悪な場合辺境伯を殺してもいいなっ』
幼子だから知らない人間を見ただけで泣くこともある。
だが、マチルディーダは人見知りしないし、むしろ知らない人間に率先して挨拶をして懐いてしまう子供だ。
それが、心の声が蜘蛛に届く程泣いているなんて、何があったというのだ。
『殺すのは駄目だ。裁くのは私達が到着してからだ。それまで拘束しておけ』
『分かった。蜘蛛は行くっ』
体を最大の大きさまで戻し壁を伝い走る。
蜘蛛の巨体を侯爵家の壁はしっかりと支え、蜘蛛は糸を飛ばし屋敷の壁に蜘蛛の糸で防御を張りながらマチルディーダの鳴き声を目指し走った。
『ディーダ、どうした。すぐに蜘蛛が行くぞ』
なるべく優しく聞こえる様に、蜘蛛はマチルディーダに声を届けた。
『くぅちゃん、くぅちゃん、ロニーがぶたれたの。ディーダをただしくない子って、おかあさまとおとうさまはただしくないふうふだって、メイナが、ロニーが』
マチルディーダが泣きながら、それでもしっかりと状況を教えてくれた。
心の中の声は、普段の会話よりもしっかりしているマチルディーダは、全身で悲しんでいると蜘蛛に伝えて来た。
誰が正しくない?
『マチルの名ははずかしいって、ディーダはなさけないはずかしい子だから、だれもマチルディーダをつまにしたいなんておもわないから、きゅうこんをことわるなんてありえないって』
『ディーダ、すぐに行くもうすぐだ』
温室部屋の屋根が見えて、開け放たれた窓から蜘蛛は最小限の体の大きさで中へと入った。
大人の男と幼い、マチルディーダより少し年上の様な男児が居た。
マチルディーダの前にメイナが立ち、蹲るロニーの側にタオが寄り添っている。
執事長がネルツ家の私兵と一緒に部屋に駆け寄る気配がしている。
魔力の感じから、相当数の私兵が来ていると分かる。
「おとおさまとおかあさまは、あいしあってりゅのっ! ディーダしってりゅもんっ!」
天井に張り付き蜘蛛は、男と男児の首にそっと糸を巻き付けながら部屋の中を見渡す。
泣きながらディーダは、それでも二人を睨みつけ声の限りに叫んでいた。
『そうだ、ディーダ。お前の両親は愛し合っている。互いを大切に思い合っている。正しくないなんてことがあるものかっ』
『おとおさま、おかあさま、いつもなかよしだもん。ディーダのことすきっていってくれるもん』
『そうだ、ディーダ。皆がディーダを愛している』
『でも、つまにしたいっておもわない? だれも?』
「可哀相に、マチルなんて名前が付いたせいで、王家から婚約を断られてしまったのだろう。だが私は優しいからそんな憐れな子でもこの息子の婚約者にしてやろうと言っているんだ。ダニエラに言いなさい。私の息子と婚約すると言いなさい。そうしなければお前は一生一人で惨めに生きる事になるぞ」
「マチュル、だめにゃの?」
マチルディーダはやはり頭が良いのだろう。
ちぃと使役の契約をして、マチルディーダの能力が上がったせいもあるのかもしれない。
悲しい事に、マチルディーダはこの男が言った事を理解しているようだった。
『駄目なんてそんなわけない。マチルディーダの名前は、ディーダが健やかに育つよう願いを込められてつけられた名前だ。良い名前だ。蜘蛛はマチルディーダの名前が大好きだ』
腹が立つが、マチルディーダにはまだ手が出されていないから蜘蛛が攻撃するわけにはいかない。
ロニーの頬が腫れているが、それでもあれは今のところ平民だ。
「言いなさい。婚約をすると。皆に憐れな子だと言われたくなければ。親に捨てられたくなければ」
マチルディーダに手を出せばマズイと分かっているのだろう、男はマチルディーダに胡散臭い笑みを向けながら馬鹿な事を言う。
誰が憐れな子だ。
マチルディーダは皆に愛されている、皆がマチルディーダを愛している。
『くぅちゃん、ディーダ、すてられる?』
『そんなわけあるか。マチルディーダを妻に望む人間が目の前にいるだろう。ディーダを妻にしたくてずっと側にいたくて仕方が無い者が』
その場を見ていないが、ロニーはマチルディーダを守ろうとしてこの男に殴られたのだろう。
平民の立場で貴族に歯向かうなんて、切り殺されても仕方が無いというのに。
『ロニー?』
『そうだ。ロニーはディーダを守ろうとしたんだろ? そいつらは客でも何でもない、追い返してもいい奴らだぞ』
『きゃくでもなんでもない? ディーダしってる、そういうときなんていうか』
何だ? ディーダは何を言おうとしている。
「しちゅじっ!」
「は、はい。マチルディーダ様っ。遅くなりました!」
バンッと勢いをつけ扉を開き私兵を連れた執事長が部屋の中に入って来た。
「しちゅじ、おちゃくしゃまがおかえりでしゅっ!」
「ディーダ?」
「お、おじょ……」
「おじぃしゃまがいってたもん、しちゅれいなことをしゅるものをゆるしゅひちゅようはないって」
一体いつ父上殿がそんなことをマチルディーダに教えたと言うのか。
だが、マチルディーダは正しく言葉を理解して、執事にお客様がお帰りだ(これを追い出せ)と命令したのだ。
「な、なんだと。私がいつ失礼な事をしたというのだ」
「ディーダしってりゅもんっ。さきびゅれをだしゃないでくりゅのは、あいてをばかにしてりゅときだって、にーりゅおじしゃまがいってたもんっ。そういうひとがいたら、しゅぐにおじしゃまとおじぃしゃまにいうんだよって、ディーダいわれたもんっ」
なんていう教育を父上殿とニール様はディーダにしているんだ。
なんだ、ディーダの体から大量の魔力が出ていないか? これはまさかっ。
「ディーダはねるちゅけのちょうじょだもんっ。ばかになんかされにゃいんだから!」
「だめだ、ディーダ、魔力を抑えろっ!」
声の限りに叫んだマチルディーダが男を指さしたその瞬間、ディーダの体が発光したのだ。
壁を伝い歩きながら、蜘蛛は主に意識を繋いだ。
ダニエラと長い間話し込んでいたから、もしかするとすでに公爵家を出た後かもしれない。
辺境伯というのは、国をぐるりと囲み四方をそれぞれの家が管理しているらしい、東西南北どの家も王家の血を継いだ者が当主になっているそうだが、今回来たのは多分マチルディーダに婚姻の申し込みをしていたという東の辺境伯ではないだろうか。
『どうした蜘蛛、ダニエラに何か』
『蜘蛛の問いにまず答えてくれ。ダニエラは今のところは無事だ』
腹の中の子が双子だと言う事は、父上殿と母上殿に相談してから主に知らせるべきだろうか。
まだあと生まれるまで三か月もあると言うのに、今から主に教える事が正しいのかどうか蜘蛛でも判断出来ない。
『二人共ここにいらっしゃる。まだ公爵家の中だからな』
『それはありがたい。主すぐに戻って来てくれないだろうか出来るならお二人も一緒に』
王家の森に入っていたなら二人を連れて来る事は出来なかっただろう、あそこに魔法陣は設置していない。
主だけなら一人で転移出来るが、魔物が跋扈する王家の森に主が二人を置き去りにして転移出来るとは思えない。
『何があった』
『先触れ無に辺境伯が来た。ダニエラは追い返さずに招き入れた、脅していいなら蜘蛛が相手をするがそれはマズイのだろう?』
貴族の館を訪ねる際、まず手紙で相手の都合を尋ね当日はいつ頃到着すると先触れというものを出すのがこの国の貴族の仕来りだと蜘蛛はニール様から教えて貰った。
余程親しい相手でも、急用でない限りそうするのは最低限の礼儀らしいが、相手が格下の礼儀を失していいと思う相手だと知らしめる為に、わざと先触れを出さない場合もあるらしい。
礼儀知らずだと追い返しても良い事ではあるが、ダニエラが何も言わずに通したのは主が不在中に揉め事を起こしたくなかったのか、主が戻ってくるまでの時間稼ぎのどちらかだろう。
『すぐに戻る。ダニエラはどうしている』
『ダニエラは辺境伯に会う用意をしている。問題なのはマチルディーダだ、玄関の近くにいるらしい』
『温室部屋か。すぐに魔石を交換し向かう。蜘蛛、その間ダニエラ達を頼む』
転移の魔法陣は一人分の魔石を普段取り付けている。
三人一度に転移する場合、魔石を大きな物に変えそれぞれの魔力をある程度流さないといけない。
転移の魔法陣を使える権限が無い者が勝手に使用出来ない様にしているのだから、緊急の場合これでは後手に回る可能性がある。これは改善が必要だ。
『分かった。……マチルディーダが泣いている』
声が聞こえた。
まだ距離があるというのに、聞こえるこの声はマチルディーダの心の声だ。
『主、最悪な場合辺境伯を殺してもいいなっ』
幼子だから知らない人間を見ただけで泣くこともある。
だが、マチルディーダは人見知りしないし、むしろ知らない人間に率先して挨拶をして懐いてしまう子供だ。
それが、心の声が蜘蛛に届く程泣いているなんて、何があったというのだ。
『殺すのは駄目だ。裁くのは私達が到着してからだ。それまで拘束しておけ』
『分かった。蜘蛛は行くっ』
体を最大の大きさまで戻し壁を伝い走る。
蜘蛛の巨体を侯爵家の壁はしっかりと支え、蜘蛛は糸を飛ばし屋敷の壁に蜘蛛の糸で防御を張りながらマチルディーダの鳴き声を目指し走った。
『ディーダ、どうした。すぐに蜘蛛が行くぞ』
なるべく優しく聞こえる様に、蜘蛛はマチルディーダに声を届けた。
『くぅちゃん、くぅちゃん、ロニーがぶたれたの。ディーダをただしくない子って、おかあさまとおとうさまはただしくないふうふだって、メイナが、ロニーが』
マチルディーダが泣きながら、それでもしっかりと状況を教えてくれた。
心の中の声は、普段の会話よりもしっかりしているマチルディーダは、全身で悲しんでいると蜘蛛に伝えて来た。
誰が正しくない?
『マチルの名ははずかしいって、ディーダはなさけないはずかしい子だから、だれもマチルディーダをつまにしたいなんておもわないから、きゅうこんをことわるなんてありえないって』
『ディーダ、すぐに行くもうすぐだ』
温室部屋の屋根が見えて、開け放たれた窓から蜘蛛は最小限の体の大きさで中へと入った。
大人の男と幼い、マチルディーダより少し年上の様な男児が居た。
マチルディーダの前にメイナが立ち、蹲るロニーの側にタオが寄り添っている。
執事長がネルツ家の私兵と一緒に部屋に駆け寄る気配がしている。
魔力の感じから、相当数の私兵が来ていると分かる。
「おとおさまとおかあさまは、あいしあってりゅのっ! ディーダしってりゅもんっ!」
天井に張り付き蜘蛛は、男と男児の首にそっと糸を巻き付けながら部屋の中を見渡す。
泣きながらディーダは、それでも二人を睨みつけ声の限りに叫んでいた。
『そうだ、ディーダ。お前の両親は愛し合っている。互いを大切に思い合っている。正しくないなんてことがあるものかっ』
『おとおさま、おかあさま、いつもなかよしだもん。ディーダのことすきっていってくれるもん』
『そうだ、ディーダ。皆がディーダを愛している』
『でも、つまにしたいっておもわない? だれも?』
「可哀相に、マチルなんて名前が付いたせいで、王家から婚約を断られてしまったのだろう。だが私は優しいからそんな憐れな子でもこの息子の婚約者にしてやろうと言っているんだ。ダニエラに言いなさい。私の息子と婚約すると言いなさい。そうしなければお前は一生一人で惨めに生きる事になるぞ」
「マチュル、だめにゃの?」
マチルディーダはやはり頭が良いのだろう。
ちぃと使役の契約をして、マチルディーダの能力が上がったせいもあるのかもしれない。
悲しい事に、マチルディーダはこの男が言った事を理解しているようだった。
『駄目なんてそんなわけない。マチルディーダの名前は、ディーダが健やかに育つよう願いを込められてつけられた名前だ。良い名前だ。蜘蛛はマチルディーダの名前が大好きだ』
腹が立つが、マチルディーダにはまだ手が出されていないから蜘蛛が攻撃するわけにはいかない。
ロニーの頬が腫れているが、それでもあれは今のところ平民だ。
「言いなさい。婚約をすると。皆に憐れな子だと言われたくなければ。親に捨てられたくなければ」
マチルディーダに手を出せばマズイと分かっているのだろう、男はマチルディーダに胡散臭い笑みを向けながら馬鹿な事を言う。
誰が憐れな子だ。
マチルディーダは皆に愛されている、皆がマチルディーダを愛している。
『くぅちゃん、ディーダ、すてられる?』
『そんなわけあるか。マチルディーダを妻に望む人間が目の前にいるだろう。ディーダを妻にしたくてずっと側にいたくて仕方が無い者が』
その場を見ていないが、ロニーはマチルディーダを守ろうとしてこの男に殴られたのだろう。
平民の立場で貴族に歯向かうなんて、切り殺されても仕方が無いというのに。
『ロニー?』
『そうだ。ロニーはディーダを守ろうとしたんだろ? そいつらは客でも何でもない、追い返してもいい奴らだぞ』
『きゃくでもなんでもない? ディーダしってる、そういうときなんていうか』
何だ? ディーダは何を言おうとしている。
「しちゅじっ!」
「は、はい。マチルディーダ様っ。遅くなりました!」
バンッと勢いをつけ扉を開き私兵を連れた執事長が部屋の中に入って来た。
「しちゅじ、おちゃくしゃまがおかえりでしゅっ!」
「ディーダ?」
「お、おじょ……」
「おじぃしゃまがいってたもん、しちゅれいなことをしゅるものをゆるしゅひちゅようはないって」
一体いつ父上殿がそんなことをマチルディーダに教えたと言うのか。
だが、マチルディーダは正しく言葉を理解して、執事にお客様がお帰りだ(これを追い出せ)と命令したのだ。
「な、なんだと。私がいつ失礼な事をしたというのだ」
「ディーダしってりゅもんっ。さきびゅれをだしゃないでくりゅのは、あいてをばかにしてりゅときだって、にーりゅおじしゃまがいってたもんっ。そういうひとがいたら、しゅぐにおじしゃまとおじぃしゃまにいうんだよって、ディーダいわれたもんっ」
なんていう教育を父上殿とニール様はディーダにしているんだ。
なんだ、ディーダの体から大量の魔力が出ていないか? これはまさかっ。
「ディーダはねるちゅけのちょうじょだもんっ。ばかになんかされにゃいんだから!」
「だめだ、ディーダ、魔力を抑えろっ!」
声の限りに叫んだマチルディーダが男を指さしたその瞬間、ディーダの体が発光したのだ。
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