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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑4 (デルロイ視点)
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「デルロイ様、どうかされましたか」
手を繋ぎ講堂に向かい歩いていると、私達を遠巻きにしながら人達が動いていく。
私は表情に出したつもりは無いが、敏いボナクララには分かってしまったのだろう心配されてしまった。
「なんでもないよ。……ボナクララには本心を言ってもいいかな?」
一度否定しながら、それに騙されそうにないボナクララの表情に考えを改めて尋ねる。
「デルロイ様のご負担を少しでも私が担えるなら。お気持ちを教えて下さいませ」
繋いだ手に少し力を込めながら告げるその言葉が嬉しくて、つい頬がゆるむ。
ボナクララと一緒にいる時間は私の安らぎだ。
従者のレモは私達の会話が聞こえているだろうが、何も言わず私の後ろを歩いている。
他の生徒は供を連れて授業を受ける事は出来ないが、王子である私は護衛騎士と従者が常に周囲に控えている。
護衛騎士は少し離れた位置に四人いて、従者のレモは常に側にいる。
授業の間はレモと護衛騎士が一人教室の中に入り、その他の護衛騎士達は教室の外で待機するらしい。
心配症の兄上は護衛をもっと増やそうとしていたが、この他に影もいるのだからと私が止めさせた。
「……兄上がお疲れにならないか、心配なだけだ」
私が何を話したかレモから兄上に抜けるだろうと知っているが、これは本心だから知られても構わない。
「王太子殿下がお疲れ? それはエマニュエラのせいでしょうか」
不安そうな表情でボナクララは私を見上げる。
ボナクララの両親と私の両親と兄上と私以外は本当に信用出来る使用人数名だけが知る真実、ボナクララの異母姉のエマニュエラを誰もが優秀で美しいと褒める。だが、
だが私は、もし彼女が自分の婚約者、将来の妻にと考えるだけで背筋が寒くなる程に嫌いだ。
あんな女性といても安らぎなど得られる筈が無い、愛しさを感じるなんて想像もできない。
だが兄上は、優秀な彼女の守りの魔法はこの国の守りに必要だと言い、彼女が優秀であればあるだけあの残虐な性格は放ってはおけないから自分の側に置き見張らないといけないと、自分の幸せを諦めてしまった。
兄上がエマニュエラを愛せるとは思えないと、私も両親も知っているのに、兄上は自ら国の為にそう決めたのだ。
「彼女は優秀だ。母上が自ら王太子妃教育を担って下さったのだからすぐにそれは身に付くだろう。だが……」
毎日毎日兄上は彼女と顔を合わせなくてはいけない。
その日の王太子妃教育を終えたらお茶の時間を共にする。エマニュエラが学校に通わず王太子妃教育に専念する替わりの条件がそれだった。
それが兄上にとって都合がいいものなのかどうか分からない。
兄上は私が宮に戻る頃にはエマニュエラを屋敷に帰すから、安心して帰っておいでと笑っていたが兄上の負担にならないか心配だ。
父上の政務の引継ぎを初めた兄上は、毎日エマニュエラとお茶の時間を取れる様な暇はない。
政務の合間にお茶を一杯飲んで休憩して終わりとはならないだろう。
ボナクララなら忙しさを察してすぐに帰ろうとするだろうが、エマニュエラはなぜ自分との時間を大切にしないと文句を言いそうだ。
「お父様になるべく早く屋敷に戻る様エマニュエラを説得して……」
「公爵の言葉を聞く様な人じゃないのはボナクララも理解しているだろう。兄上はきっと大丈夫だと思う」
エマニュエラが出した条件を知るボナクララが言葉を濁すから、途中でそれを遮り自分の希望を告げる。
兄上は大丈夫だ。あの方ならあの傲慢なエマニュエラとの時間を上手く使うだろう。
上手く使う為に相当な心労が伴いそうで、それが気の毒に思えて仕方が無いだけだ。
「王太子殿下はエマニュエラを気に入って下さるのですよね」
兄上の本心を知らないボナクララは、不安そうに私にたずねる。
「エマニュエラは優秀だ。彼女は少し苛烈だし自分勝手だが、未来の王妃として貴族女性の頂点に立つ能力があると兄上は判断されたのだろう」
「……そう、そうですね。エマニュエラはとても優秀です。あの子の守りの魔法は強力です。きっと国を守る者になるでしょう」
見張る為とはとても言えない。
国の周囲に張巡らせた守りの魔法の壁、それに魔力を送る魔法陣に放つ守りの魔法は、王妃になる際の儀式で魔法陣と王妃の魔力を結ぶことで効果的に守りの魔法の壁を強化する。
この国の国境は高い石塀で囲まれていて、さらにその外周を守りの魔法の壁で覆っている。
守りの魔法の壁は、壁の外側からの魔物の侵入を防ぐ。他国からの行き来は屈強な兵士が守る門からでなければ出来ない仕組みだ。門は海側を除き十数か所あるが、その門も扉を閉めれば守りの魔法に守られている。
この守りの魔法は、代々の王妃を始め王家の血を受け継いだ女性が魔法陣に魔力を注ぎ守って来たものだ。
ボナクララも成人後は、この魔法陣にその身の魔力を注ぐようになる。
「そうだ。だから絶対に他国に渡すわけにはいかない」
「はい。王太子殿下はそのために決断されたのですね」
自分を望まなかった王家を、エマニュエラならきっと恨むだろう。
その恨みを持ち他国とでも繋がれてしまえば、何を企てられるか分からない。
エマニュエラならそうなりかねないと、父上と兄上は考えていたのだ。
手を繋ぎ講堂に向かい歩いていると、私達を遠巻きにしながら人達が動いていく。
私は表情に出したつもりは無いが、敏いボナクララには分かってしまったのだろう心配されてしまった。
「なんでもないよ。……ボナクララには本心を言ってもいいかな?」
一度否定しながら、それに騙されそうにないボナクララの表情に考えを改めて尋ねる。
「デルロイ様のご負担を少しでも私が担えるなら。お気持ちを教えて下さいませ」
繋いだ手に少し力を込めながら告げるその言葉が嬉しくて、つい頬がゆるむ。
ボナクララと一緒にいる時間は私の安らぎだ。
従者のレモは私達の会話が聞こえているだろうが、何も言わず私の後ろを歩いている。
他の生徒は供を連れて授業を受ける事は出来ないが、王子である私は護衛騎士と従者が常に周囲に控えている。
護衛騎士は少し離れた位置に四人いて、従者のレモは常に側にいる。
授業の間はレモと護衛騎士が一人教室の中に入り、その他の護衛騎士達は教室の外で待機するらしい。
心配症の兄上は護衛をもっと増やそうとしていたが、この他に影もいるのだからと私が止めさせた。
「……兄上がお疲れにならないか、心配なだけだ」
私が何を話したかレモから兄上に抜けるだろうと知っているが、これは本心だから知られても構わない。
「王太子殿下がお疲れ? それはエマニュエラのせいでしょうか」
不安そうな表情でボナクララは私を見上げる。
ボナクララの両親と私の両親と兄上と私以外は本当に信用出来る使用人数名だけが知る真実、ボナクララの異母姉のエマニュエラを誰もが優秀で美しいと褒める。だが、
だが私は、もし彼女が自分の婚約者、将来の妻にと考えるだけで背筋が寒くなる程に嫌いだ。
あんな女性といても安らぎなど得られる筈が無い、愛しさを感じるなんて想像もできない。
だが兄上は、優秀な彼女の守りの魔法はこの国の守りに必要だと言い、彼女が優秀であればあるだけあの残虐な性格は放ってはおけないから自分の側に置き見張らないといけないと、自分の幸せを諦めてしまった。
兄上がエマニュエラを愛せるとは思えないと、私も両親も知っているのに、兄上は自ら国の為にそう決めたのだ。
「彼女は優秀だ。母上が自ら王太子妃教育を担って下さったのだからすぐにそれは身に付くだろう。だが……」
毎日毎日兄上は彼女と顔を合わせなくてはいけない。
その日の王太子妃教育を終えたらお茶の時間を共にする。エマニュエラが学校に通わず王太子妃教育に専念する替わりの条件がそれだった。
それが兄上にとって都合がいいものなのかどうか分からない。
兄上は私が宮に戻る頃にはエマニュエラを屋敷に帰すから、安心して帰っておいでと笑っていたが兄上の負担にならないか心配だ。
父上の政務の引継ぎを初めた兄上は、毎日エマニュエラとお茶の時間を取れる様な暇はない。
政務の合間にお茶を一杯飲んで休憩して終わりとはならないだろう。
ボナクララなら忙しさを察してすぐに帰ろうとするだろうが、エマニュエラはなぜ自分との時間を大切にしないと文句を言いそうだ。
「お父様になるべく早く屋敷に戻る様エマニュエラを説得して……」
「公爵の言葉を聞く様な人じゃないのはボナクララも理解しているだろう。兄上はきっと大丈夫だと思う」
エマニュエラが出した条件を知るボナクララが言葉を濁すから、途中でそれを遮り自分の希望を告げる。
兄上は大丈夫だ。あの方ならあの傲慢なエマニュエラとの時間を上手く使うだろう。
上手く使う為に相当な心労が伴いそうで、それが気の毒に思えて仕方が無いだけだ。
「王太子殿下はエマニュエラを気に入って下さるのですよね」
兄上の本心を知らないボナクララは、不安そうに私にたずねる。
「エマニュエラは優秀だ。彼女は少し苛烈だし自分勝手だが、未来の王妃として貴族女性の頂点に立つ能力があると兄上は判断されたのだろう」
「……そう、そうですね。エマニュエラはとても優秀です。あの子の守りの魔法は強力です。きっと国を守る者になるでしょう」
見張る為とはとても言えない。
国の周囲に張巡らせた守りの魔法の壁、それに魔力を送る魔法陣に放つ守りの魔法は、王妃になる際の儀式で魔法陣と王妃の魔力を結ぶことで効果的に守りの魔法の壁を強化する。
この国の国境は高い石塀で囲まれていて、さらにその外周を守りの魔法の壁で覆っている。
守りの魔法の壁は、壁の外側からの魔物の侵入を防ぐ。他国からの行き来は屈強な兵士が守る門からでなければ出来ない仕組みだ。門は海側を除き十数か所あるが、その門も扉を閉めれば守りの魔法に守られている。
この守りの魔法は、代々の王妃を始め王家の血を受け継いだ女性が魔法陣に魔力を注ぎ守って来たものだ。
ボナクララも成人後は、この魔法陣にその身の魔力を注ぐようになる。
「そうだ。だから絶対に他国に渡すわけにはいかない」
「はい。王太子殿下はそのために決断されたのですね」
自分を望まなかった王家を、エマニュエラならきっと恨むだろう。
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