【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑6(デルロイ視点)

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「ボナクララ、笑っているけれど君も一緒に描いてもらうのだからね」

 私とレモのやり取りを微笑みながら見ているボナクララに恨めし気に言えば、「兄弟の仲睦まじいお時間のお邪魔は出来ませんわ」と逃げられてしまった。
 
「ボナクララと一緒なのを厭うようなことはないよ」
「それでも、立場はわきまえませんと」

 微笑みながらボナクララはきっぱりと拒絶した。
 穏やかな淑女の鑑の様な彼女は、その実頑固で一度嫌だと言えばそれを通す人だ。そしてその断り方がとても上手だと思う。私が一緒にと言っているのにレモはボナクララの拒絶を微笑ましいものでも見る様に見ている。

「立場を言われると仕方ないね。君はまだ候補でしかない」

 私の婚約者候補はボナクララ以外いない。兄上の候補もエマニュエラ以外はいない。
 それなら決定している様なものだけど、エマニュエラを未来の王妃と認めたくない父上達がボナクララを諦めていないから、二人共候補のままだった。
 私の婚約者候補をボナクララと決めてくれたのに、父上は彼女を兄上の婚約者にしたいと本当は考えている。
 それを止めてくれているのは兄上だ。だから兄上がエマニュエラは嫌だボナクララが良いと言い出したら、その日のうちに婚約は決まってしまうだろう。

「早く君が正式に私の婚約者になればいいのに」

 その呟きはレモを通して兄上に伝わるだろう。
 私は狡いから、兄上が私の望みに応えてくれることを祈りながら姑息なことをする。

「私も候補で無くなる日が来ることを願っています」

 繋いでいる手の力を強めながらボナクララは「早く講堂の中に入りましょう」と私を促す。
 講堂の周辺に立っている生徒達は、私とボナクララを遠巻きに見つめていて中に入ろうとする気配もないから、私が中に入らなければずっとこの状態は続くだろう。

「レモ、今のは兄上に言ってはいけないよ」

 私が内緒にということほど、私の周囲にいる者達は兄上に最速で伝える。
 その証拠にレモは私に微笑むだけで、頷かない。
 これは私の従者でも、主は私では無く兄上なのだ。

「レモ、頼むよ」

 王子と言っても私に力はないのだと、虚しく思う。
 私は従者一人まともに従える力が無い。周囲にいるのは兄上の配下ばかりなのだから。

「行こうかボナクララ」
「はい。デルロイ様」

 今は子供だから仕方が無い。
 でも成人までに力を付ける。そうしないと私はいつまでも兄上の腕の中から出られない。
 息苦しさを感じても、それに気が付かない振りをして生きるのは簡単だけれど、私は一人の男として自立したい。
 レモが開いた扉から中に入ると、こちらを見ている視線が動いた。
 歴史のある建物の中は魔道具の灯りがあちこちに見えて綺麗だ。
 この建物の中は天井が高く、窓は高い位置にしかない。
 中に入って正面に一段高い場所があり、その中央に小さな机が置いてある。あれは演台というのだったか? 入学するにあたり教師から軽く説明を受けた時確かそう聞いた覚えがある。
 王宮であれば、このような場所の中央には私の父である国王陛下が座る王座が置かれているし、神殿ならシード神の像と祭壇がある。私は王宮から殆ど出ずに生きて来たからこういう施設を見るのも新鮮だ。
 まだ成人していない私は公務等もない、貴族の家に茶会等に招かれるか兄上について慰問に出るのが精一杯、後は避暑に出掛ける程度だから私の世界はとても狭い。

「ご入学おめでとうございます。お席にご案内いたします」
「ありがとう。ボナクララ」
「はい、デルロイ様」

 事前に説明があった通り、案内の者が私達の側にやって来たから後について席まで歩みを進める。
 まばらに座っているのは私と同じ新入生だろう。
 彼らの親はまだ講堂内に入るのを許されていない、生徒がすべて入ってから大人は講堂内に入って来ると聞いた。

「お席はこちらでございます」
「ありがとう」

 無駄な事を言わず席に案内する姿に、つい警戒が緩んで礼を言ってしまった。

「礼など、恐れ多い、ですっ。だ、第二王子殿下、失礼致しましたっ」

 うっかり私が礼を言ってしまったがために、慌てさせてしまったようだ。
 声を震わせ、床に座り込んでしまった。

「……慌てるな。私は怒って等いない」
「お見苦しい姿を見せてしまい。大変申し訳ございません。第二王子殿下、……ご尊顔を拝する栄誉を賜り、これ以上の幸いはございませんっ。それなのに大変申し訳ございません」

 怒っていないというのに、大袈裟に額を床につけ謝罪を続けようとするから困惑してしまう。
 なぜこうなるのだろう。

「大袈裟な。顔をあげよ、立ちなさい。私は怒っていない」
「私の失態をお許し下さるなんて、第二王子殿下の寛大なお心に感謝いたしますっ」

 だから声が大きい、そして大袈裟すぎる。

「あなたは三年生だろう。つまり私の先輩だ。軽んじられるのは困るが、そんなに大袈裟にしないで欲しい」
「第二王子殿下、はい私は三年生です。生徒会長を務めております」
「そうか、兄上から今年の生徒会長はとても優秀だと聞いているよ。私を含め新入生を正しく導いて欲しい」

 立ちなさいと言っているのに、目の前の男は跪いたまま私を見上げている。

「第二王子殿下、はい。私達生徒会全員、殿下が校内でお心安らかにお過ごしになれるように努めます。どうかどんな些細なことでもご命令下さいませ」

 なぜ私の周りにいる人間は、こうやってすぐに跪くのだろう。
 いつまでもこのままなのは悪目立ちして気持ちが良く無いから、右手を差し出すと彼は両手で私の右手に触れ「第二王子殿下の仰せのまま最善を尽くします」と私の右手に己の額を付けた。
 なぜ、こうなる。
 額を軽く右手に付けた後上げた顔は、陶酔しているように見える。
 この表情を私は良く知っている。これは私の周囲にいる者が良くしている顔だ。
 なぜ、こういう人ばかりなのだろう。私はため息を堪えながら目の前の男の行動を見つめていたのだ。
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