【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
186 / 310
番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑9(デルロイ視点)

しおりを挟む
 何となく釈然としないものを感じながら入学式を終えて講堂を出ると、ボナクララ達と共に校舎に向う。この後は新入生各自の教室で担当教師と生徒の顔合わせがある。
 私の学年の組は一から五組まであり、成績と家格を考慮し生徒が振り分けられている。一、二組は上位貴族、三から五組が下位貴族だ。兄上の学年は一学年七組あったらしい。母上が兄上を懐妊した年とその次の年は貴族家の出産が立て続けにあったため兄上と年の近い令息令嬢が多いらしいが、その他の理由として年齢が近い者がこぞって兄上と一緒に入学しようとしたためだ。お陰で兄上の一年下と、その次の年、つまり今いる先輩方の学年だがどちらも四組しかないらしい。
 学校は、ゆくゆくは貴族の子供だけでなく優秀な平民も通えるようにしたいと父上達は考えているそうだが、今のところ平民用の学校と貴族用の学校は完全に分かれている。
 習う内容と学校に通う意味が異なるから、今のままではいくら優秀だとはいえ平民が通うのは難しいのではないかと私は思っているが、父上達は平民用の学校で優秀な成績を修めた者をこの学校に通わせたいと考えているらしい。それで上手くいくものだろうか。

「デルロイ様何か気になることがございますか?」
「いや……先程私の挨拶の後、急に皆が誓いを立て始めたことが気になっていてね。あれはどうしたのだろう」

 考えていた事と違うことを咄嗟に口にした。
 平民をこの学校に通わせるという話はまだ知らぬ者の方が多いから、迂闊に外で話せない。
 それに、先程の誓いの件は本当に気になっていた。

「皆さん熱意のこもった誓いをされていましたね」

 ボナクララは呑気に言っているが、あれはそんなものじゃなかった気がする。
 熱意がありすぎて、顔が引きつりそうになった。それを誤魔化すために無理矢理笑顔を作ったのだ。
 兄上から、相手への反応に困った時は自分は十分余裕があると相手に思わせられる様に笑顔でいろと常々教えられていた。それが役にたった。
 無表情、怒り、笑顔、その場その場で表情を作る必要はあるが、私の顔立ちだと一番効果があるのは良くも悪くも笑顔なのだと兄上は言う。いつもは微笑む程度、でもここぞという場面ではしっかりと相手に伝わる笑顔を作るのがいいと教えられていたが、それが今回上手くいったのかどうかは分からない。

「熱意というのかな」

 新入生代表として用意していたものを読み上げたが何か足りない気がして付け加えただけだというのに、私の言葉を受けて、何故か講堂のあちこちから誓いを立てる声が響き始めたのだから、驚いてしまった。
 あの誓いの声はまるで地響きの様に講堂内に響き渡り、その声の熱量は恐ろしい程だった。

「デルロイ様のお言葉に感銘を受けた故でしょう。私も自身を高める努力をしようと、声には出しませんでしたがそう決意致しましたもの」
「大袈裟だな」

 ボナクララは当然の様に言うが、私には納得できない。
 私が王家の者だから、私の言葉に従おうとする者は多いのかもしれない。
 だが、先程のはほんの思いつきで言っただけだから私が先導して何かを成し遂げようとしたわけではない。

「大袈裟でなく皆本心から誓っていたのだと思いますけれど、ねえ?」
「はい、仰るとおりでございます。私など感動のあまり涙が出てしまいました。新入生代表挨拶だけでも堂々とされ素晴らしいものでした。それに加え最後の……なぜ私は既に学びの年を過ぎているのか、殿下と共に学びとうございました」

 ボナクララの問いかけにレモは大袈裟に答える。彼は兄上よりも一つ年上だ。
 本当は野心があるのかもしれないが、兄上ではなく不幸にも第二王子付きとなった。私付きの者は臣籍降下の際にも私に付き合い新たに興す公爵家の使用人となるだろう。
 王太子殿下付きとして王宮の最上級使用人となる方が良いのだろうが、レモに不満はないのだろうか。

「レモも大袈裟だな」

 兄上の傍らで、兄上の補佐をして生き、自分の家となる公爵家を守り次代を育て領民を守る。私はそういう生き方をするのだといつの頃からか考えていた。
 兄上の予備、第二王子殿下として王宮に留まることよりも、予備ではなく兄上を補佐する者として生きる道を選びたい。そう考えているのだ。

「大袈裟ではございません。本心でございます。私は生涯第二王子にお仕えする所存です。この場所を誰にも譲るつもりはございません」

 きっぱりと言い切るレモは、私の考えを察したのだろうか。
 
「そうか。頼りにしているよレモ」

 本心かどうか分からないが、私に仕えたいと言ってくれるのは嬉しい。
 そんなことを呑気に考えながら歩いていると、ふわりと一枚の小さな布が足元に落ちて来てそれを追いかけて来る女性の姿が視界に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...