【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑9(デルロイ視点)

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 何となく釈然としないものを感じながら入学式を終えて講堂を出ると、ボナクララ達と共に校舎に向う。この後は新入生各自の教室で担当教師と生徒の顔合わせがある。
 私の学年の組は一から五組まであり、成績と家格を考慮し生徒が振り分けられている。一、二組は上位貴族、三から五組が下位貴族だ。兄上の学年は一学年七組あったらしい。母上が兄上を懐妊した年とその次の年は貴族家の出産が立て続けにあったため兄上と年の近い令息令嬢が多いらしいが、その他の理由として年齢が近い者がこぞって兄上と一緒に入学しようとしたためだ。お陰で兄上の一年下と、その次の年、つまり今いる先輩方の学年だがどちらも四組しかないらしい。
 学校は、ゆくゆくは貴族の子供だけでなく優秀な平民も通えるようにしたいと父上達は考えているそうだが、今のところ平民用の学校と貴族用の学校は完全に分かれている。
 習う内容と学校に通う意味が異なるから、今のままではいくら優秀だとはいえ平民が通うのは難しいのではないかと私は思っているが、父上達は平民用の学校で優秀な成績を修めた者をこの学校に通わせたいと考えているらしい。それで上手くいくものだろうか。

「デルロイ様何か気になることがございますか?」
「いや……先程私の挨拶の後、急に皆が誓いを立て始めたことが気になっていてね。あれはどうしたのだろう」

 考えていた事と違うことを咄嗟に口にした。
 平民をこの学校に通わせるという話はまだ知らぬ者の方が多いから、迂闊に外で話せない。
 それに、先程の誓いの件は本当に気になっていた。

「皆さん熱意のこもった誓いをされていましたね」

 ボナクララは呑気に言っているが、あれはそんなものじゃなかった気がする。
 熱意がありすぎて、顔が引きつりそうになった。それを誤魔化すために無理矢理笑顔を作ったのだ。
 兄上から、相手への反応に困った時は自分は十分余裕があると相手に思わせられる様に笑顔でいろと常々教えられていた。それが役にたった。
 無表情、怒り、笑顔、その場その場で表情を作る必要はあるが、私の顔立ちだと一番効果があるのは良くも悪くも笑顔なのだと兄上は言う。いつもは微笑む程度、でもここぞという場面ではしっかりと相手に伝わる笑顔を作るのがいいと教えられていたが、それが今回上手くいったのかどうかは分からない。

「熱意というのかな」

 新入生代表として用意していたものを読み上げたが何か足りない気がして付け加えただけだというのに、私の言葉を受けて、何故か講堂のあちこちから誓いを立てる声が響き始めたのだから、驚いてしまった。
 あの誓いの声はまるで地響きの様に講堂内に響き渡り、その声の熱量は恐ろしい程だった。

「デルロイ様のお言葉に感銘を受けた故でしょう。私も自身を高める努力をしようと、声には出しませんでしたがそう決意致しましたもの」
「大袈裟だな」

 ボナクララは当然の様に言うが、私には納得できない。
 私が王家の者だから、私の言葉に従おうとする者は多いのかもしれない。
 だが、先程のはほんの思いつきで言っただけだから私が先導して何かを成し遂げようとしたわけではない。

「大袈裟でなく皆本心から誓っていたのだと思いますけれど、ねえ?」
「はい、仰るとおりでございます。私など感動のあまり涙が出てしまいました。新入生代表挨拶だけでも堂々とされ素晴らしいものでした。それに加え最後の……なぜ私は既に学びの年を過ぎているのか、殿下と共に学びとうございました」

 ボナクララの問いかけにレモは大袈裟に答える。彼は兄上よりも一つ年上だ。
 本当は野心があるのかもしれないが、兄上ではなく不幸にも第二王子付きとなった。私付きの者は臣籍降下の際にも私に付き合い新たに興す公爵家の使用人となるだろう。
 王太子殿下付きとして王宮の最上級使用人となる方が良いのだろうが、レモに不満はないのだろうか。

「レモも大袈裟だな」

 兄上の傍らで、兄上の補佐をして生き、自分の家となる公爵家を守り次代を育て領民を守る。私はそういう生き方をするのだといつの頃からか考えていた。
 兄上の予備、第二王子殿下として王宮に留まることよりも、予備ではなく兄上を補佐する者として生きる道を選びたい。そう考えているのだ。

「大袈裟ではございません。本心でございます。私は生涯第二王子にお仕えする所存です。この場所を誰にも譲るつもりはございません」

 きっぱりと言い切るレモは、私の考えを察したのだろうか。
 
「そうか。頼りにしているよレモ」

 本心かどうか分からないが、私に仕えたいと言ってくれるのは嬉しい。
 そんなことを呑気に考えながら歩いていると、ふわりと一枚の小さな布が足元に落ちて来てそれを追いかけて来る女性の姿が視界に入った。
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