【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑10(デルロイ視点)

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 なんだ? 足元近くに落ちてとどまった布切れを足を止め見下ろした後ボナクララと視線を合わせる。
 風など殆ど吹いていない今なぜ布切れが風に飛ばされた様に舞い落ちるのか、それが分からずに周囲を視線だけで見渡した後レモに視線を向けると、彼は心得たとばかりに小さく頷き行動した。

「ハンカチが風に飛ばされて……」

 私の目の前、とはいっても少し離れた位置に立つ女子生徒がそう言いながら歩み寄ろうとして私の護衛騎士に止められていた。

「風など吹いてはいなかったと思いますよ。ご自分で拾って下さい」

 レモの咎める様な声に女生徒は一瞬肩を震わせた後、すぐさまハンカチを拾うと大げさに頭を一度下げてから去って行った。

「あからさま過ぎて驚きますね。殿下ああいう場合は絶対に拾わずに、勿論足を止めずに護衛の背後に隠れる様にお願い致します」
「拾う事はしないが、足を止めるのもいけないのだな」

 従者や護衛がいて何かを自分で拾う等はしないが、足を止めてはいけないとまでは考えが及ばなかった。
 今まで常に守られた環境にいて護衛に囲まれていたから、自分が隙を作る場面など想像すらした事が無かった。
 
「ええ、殿下と少しでも会話をしたいと狙っての行いです。話がしたい程度ならまだしも殿下を害そうとしている場合一瞬の隙が問題になります」
「学校内でも私を害そうとする者はいるか、そうだな」

 私自身命が狙われたと言う経験は一度も無い。
 それでも、何時何があるか分からないから警戒は必要だと言われ続けていた。

「彼女は夢見ただけでしょう。一度目です大事にはしないで差し上げて」

 ボナクララの『夢見た』という言葉に疑問を投げると、彼女は「市井で流行っている芝居にそういう物があるのですよ」と笑った。

「……つまり、身分差がある者と、些細な切っ掛けで知り合い恋人になると」

 ボナクララの説明に私は自分の知識の浅さを実感し、天を仰いだ。
 彼女の説明を今の状況に当てはめると、ハンカチを拾い女生徒と会話した私は女生徒に興味を持ち交流を始めるとそういうことだろうか? ただハンカチを拾っただけで? 初めて会話する女生徒に興味を持ち交流する? あり得な過ぎて何をどうしたらいいのか分からない。

「ええ、落としたハンカチや小物を男性が拾ってくれた。ならず者に襲われかけたところを助けられたのが切っ掛けで助けてくれた男性を好ましいと感じた等ですね。しかも男性は王族や公爵の息子なのです。実際に上位貴族や王族の方々の状況を知らぬ者が作った芝居ですから、甘いところがあるのでしょう」
「なるほど相手が身分ある者で、平民と貴族の恋物語に発展すると。それは完全な夢物語だな」

 貴族や王族が平民と恋人の関係になるなんて、現実世界ではあり得ない。
 芝居は所詮芝居だからいいのだろう。
 現実では、上位貴族の令息は従者と共に動くだろうし、落ちているものを拾うのは令息では無く従者だ。
 王族の者なら確実にそうで、本人が会話するのではなく従者か警護の者が対応するだろう。
 その状況が偶然ならともかく、令息の命を狙って行った行為でないとは言えないのだから、令息の側に仕えているものは令息を命の危険に晒す行為はしない。だから令息自身が誰かを助けたり、物を拾って自身に隙を作ったりはしない。

「自分の常識とは異なる女性だから、興味を引かれて付き合う内に恋に落ちるのです。身分違いの恋愛に人々は涙して二人の恋が実って芝居は終わります」
「ありえないだろう。身分違い、貴族と市井の者ではそれがありすぎる」

 下級貴族ならともかく、上位貴族の嫡男と平民、王族と平民、それはあり得ない。
 まあ芝居は所詮作り物だから、あり得ない物程人気が出るのかもしれない。

「今の彼女は偶然か?」
「いえ、意図的でしょう。風は吹いていませんでした。彼女は風魔法を使いハンカチを殿下の足元に飛ばせたのではないかと思います」
「風魔法で、ハンカチを足元に」

 それはかなり高度な魔法ではないだろうか。
 こちらにそうとは知らせずに風魔法を駆使してハンカチを飛ばしてきたのなら、かなり魔法使いとしての腕が良い事になる。

「ボナクララ、彼女に近付き能力を探ることは出来るかな」
「彼女に興味を?」
「魔法使いの能力がどの程度あるのか気になる。それに、入学初日に私に近付いてきた意図も」

 誰かの差し金なのか、彼女本人の思惑か。
 それはしっかりと調べておかないといけないだろう。

「そうですね。彼女の顔を見たことがありませんから、上位貴族の令嬢ではないのでしょう。素性を調べお伝えいたします」
「ありがとう」

 私が今まで交流して来た貴族の令嬢令息は極一部だけ、今後学校で過ごすなら王宮で過ごしているのとは異なる注意をしなければならないのだな。
 新たな問題を理解して、でもそれがなんだかわくわくして、私はつい口角を上げ笑顔になっていたのだ。
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