【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑17 (デルロイ視点)

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 入学して初めての剣術の授業、久しぶりにマーニ先生と剣を交えたのが楽しくて私は上機嫌で控えていたレモに剣を預けた。
 剣は授業用の刃を潰したもので、生徒全員が使う為の学校の備品だ。
 いつもは自分の愛用の剣を使っているから、他の者達と同じものを使うというのも新鮮に感じて何だか楽しい。
 この学校の良いところは、王子だからと特別扱いせずに生徒全員が使うものは王子にも使わせるというところだ。
 勿論、すべてが平等ではないし、特別扱いの方が多いのは分かっている。それでも建前だけでも王子も上位貴族も下位貴族も平等に同じものを使わせようとしているのは好感が持てる。

「ロマーノ・トニエか、彼は必要な素材を自分で集められる腕があるそうだな」

 留学生について兄上が情報を集めていて、以前見せて貰った資料に確かそう書いてあった。
 その時に兄上に聞いたのだ。薬師や錬金術師は自分で素材を集めるものなのかと。答えは否だった。
 普通、というかこの国の薬師や錬金術師、それだけに限らず鍛冶師も細工師等も必要な素材、この場合魔物素材が主だがそういったものは、冒険者ギルドというところに素材採取の依頼を出して必要な素材を集めるのが普通なのだそうだ。
 薬師が薬を作る為に自ら薬草を採取するのは、弱い魔物が出る場所位で上級薬で使用する様な薬草は強い魔物が出る場所に自生しているから、そういうものは冒険者が採取してくるのだという。
 だが、彼ロマーノ・トニエはそういうものも自分で採取しにいくのだそうだ。彼だけでなく、彼の一族トニエ家の者は皆そうなのだという。

「はい、殿下。彼は優れた薬師で錬金術師を多く輩出している家系として彼の国で有名なトニエ家の嫡男、薬師や錬金術師はそれぞれの職業としての腕は確かでも戦えぬ者が殆どですが、トニエ家の者達は皆自分の身を守り必要な素材は自分で採取することを当然としているようです」

 私の呟きにテレンスが応える。
 テレンスもエベラルドも、一見剣にしか興味が無いように振舞っているが実は周囲に目を配り情報収集を怠らずに冷静だ。さすが父上と兄上が私の友として選んだ者達だと思う。

「そうか、彼は寮住まいなのか?」
「はい。そう聞いております」

 学校の寮は、王都内に屋敷を持てない下級貴族向けにある施設だ。
 学校の生徒なら誰でも寮に住めるが、上位貴族でそこに住む者はいないらしい。そういうところからも貴族の見栄が存在するようだ。

「うちと向こうの国では薬師の考えが違うと聞いたことがある。テレンスはその辺りは詳しいのか?」
「私の家はやり取りがありません、エベラルドの家は確かあちらの国と取引をしていたと聞いております」
「そうか、では後でエベラルドにも聞いてみよう。テレンス良く教えてくれたな。ありがとう」

 同じ剣を扱う者として日頃張り合うことも多いテレンスとエベラルドだが、こういう時にどちらも正しい情報を私にくれるのは好ましいと思う。
 相手の評価につながるからと、わざと相手が得意なものを隠すのは貴族だけでなくありがちな事だと思う。
 でもテレンスもエベラルドも、私がそういうのを嫌うと知っているから教えてくれるのだ。

「礼を言われる程のことではありません」

 なんでも大袈裟に喜ぶエベラルドと違い、テレンスの喜び方は少し控えめだ。

「そうか? 私は嬉しい時は正直にそう言うよ。お前もエベラルドも私の友だから、気持ちを隠したりしない」
「友、第二王子殿下に生涯そう言って頂けるように自分を律し続ける所存でございます」

 急に畏まったテレンスに戸惑っていると、先生方はロマーノ・トニエを囲み何やら話し始めた。

「第二王子殿下、お疲れ様でございます」
「おや、エベラルド終わったのか。君の剣は相変わらず激しいな」

 話に夢中でエベラルドと先生の打ち合いを後半見ていなかった。でも、最初に見ていた印象を伝えると彼は嬉しそうに破顔した。

「第二王子殿下にお見せできるような出来ではありませんでした。さすが先生は鍛えておられる。私は後半息切れがしてどうしようもありませんでした。もっと体力をつける必要があると猛省しております」

 侯爵家の嫡男で、贅沢な暮らしが出来るのが当たり前の家に生まれ育ったというのに、エベラルドの暮らしは見習い騎士よりも厳しいらしい。
 朝日が昇る頃に起き、自分の馬の世話をした後で侯爵家の騎士達と共に走り込みを行ってから剣の鍛錬を行う。朝食後教師について勉強をした後で、また騎士達と共に訓練をする。
 それが彼の当たり前の日常だ。
 彼の鍛え上げられた体は、そうした日々の訓練の積み重ねで出来たものだし、侯爵家の嫡男としての教養も十分に身に着けている。

「そうか、エベラルドもテレンスも強いが、まだまだ鍛えるのだな」

 今でも十分に強いと言うのに、二人共今以上に自分を鍛えようと努力している。
 私も兄上も努力する者達を好ましいと思っている。
 貴族家の嫡男に生まれ、家の跡継ぎとしての教養を身に付けつつ己を鍛える努力をし続ける二人を、私も兄上も頼もしいと評価しているのだ。
 二人は時に暑苦しいが、それでも気持ちは真っすぐで王家に忠誠を誓ってくれている。

「二人の努力し続ける姿勢が私はとても好ましいよ」

 幼い頃から気心がしれた二人に、つい目を細めていると「皆注目!」とマーニ先生が声を上げた。

「授業の途中だが、ここでモロウールリ国からの留学生ロマーノ・トニエの模範試合を行う」

 マーニ先生の声に、生徒達がザワザワと声を上げ始めるが、ロマーノ・トニエは動揺した様子も無く静かに視線を伏せてマーニ先生の近くに立っている。
 彼がどんな剣を見せてくれるのか、私は密かにわくわくとしながらその様子を見ていたんだ。
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