【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑19 (デルロイ視点)

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 魔物と戦う者の剣か、確かに彼の剣は私達が日頃鍛錬し身に着けたものとは違う気がする。
 彼は自分で必要な素材を得るために魔物を狩ってきた、その経験が彼の剣の強さに繋がっているのだろう。
 私のように己を守る為だけの剣、何者かから襲われた時逃げる機会を得るため、助けがくるまでの間身を守る為の術として剣の腕を鍛えているのとは違う、戦う者の剣だ。
 
「私も彼と戦ってみたいが、多分彼の方が実力は上だ。今の私では悔しいがまともに戦えないだろう」

 エベラルドが悔しそうに拳を握りしめる。
 日頃騎士達と訓練している彼は、同年代には負けたりしないと豪語しているがその彼が剣を合わせる前からこんな風に言うとは意外過ぎた。

「そうなのか?」
「残念ながら今の私では力不足です。彼の剣は鍛錬しているだけの者とは違う、どこからどう攻撃されても防御と反撃が出来る様に瞬時に動いている様に見えました。対して私は一対一の、あえて言うなら行儀の良い戦い方をする剣です。そして私には圧倒的に実戦経験が足りません」

 エベラルドは自分を鍛える事に熱心で、だからこそ彼と自分との実力の差を見ただけで理解したのかもしれない。

「父は、そろそろ私も魔物を狩る経験をした方が良いと言っていましたが、私は人も魔物も変わらないと考えていたので、それは不要だと拒否していました。でも、父の言う通り魔物を狩る経験も必要なのかもしれません」

 エベラルドの家の領地、ブレガ領は海に面したところだ。
 大きな港があり、海を挟んだ向こうの国からの攻撃より、海賊対策を常に考え動いている。
 海に住む魔物もいるが、それは地元を拠点にしている冒険者が対応しているから、エベラルドが今後慣れなければいけないのはやはり人と戦う事だと思う。
 でも実戦経験として、魔物を狩ることも必要なのかもしれない。

「確かに旅をしていれば魔物に襲われることもあるだろう。騎士と共に旅をしていたとしても自分が戦えるかどうかで生存率は変わると思うが、そういうことをエベラルドにもそういう経験が必要ということか」

 王領地に向かう際、私は騎士達が守る馬車に乗り移動する。
 旅の途中魔物が出る事は勿論あるが、それは騎士達によって駆除されて私は戦う様子すら目にすることはない。
 ベルガ侯爵の言う経験というのは、そういう事を想定しているのだろうか。

「それもありますが、冒険者の様に自ら野に出て魔物を探し狩る。または迷宮に入り魔物を狩るのです。王宮の騎士団や魔法師団は王宮の森で魔物を狩る訓練をするそうですが、一般貴族家は王宮の森には入れませんので、そうして経験を積むのです」

 エベラルドの言っている王宮の森というのは王の森とも言われている場所で、王宮の敷地のすぐ裏にある大きな大きな森の事だ。
 あの森だけで小さな男爵領程度の大きさがあるらしいが、本当の大きさはそれ以上だと言う。あの森こそが迷宮になっていて、見た目以上に大きいのだそうだ。
 迷宮というのは定期的に魔物を狩らないと大量に魔物が発生して魔物が氾濫を起こす。
 だから騎士団と魔法師団の訓練を兼ねて魔物を狩っているが、それでも森の奥までは行くことができない。
 王宮の森の最奥には大魔女郎蜘蛛の巣があり、大量の大魔女郎蜘蛛がいるという。その蜘蛛の中に大魔女郎蜘蛛の長とも言える巨大な大魔女郎蜘蛛がいて、それに出会った者は生きて森から出られないとも言われている。
 その他に古代竜や魔狼等の災害級の魔物がいるらしいと言われているが、その王宮の森から魔物が出て来ない様に抑えているのも、国境を守る魔法陣と同じものだと言われている。

「それではエベラルドも迷宮に入るのか?」

 先生と話をしている留学生を視界の端で気にしながら、エベラルドの話に耳を傾ける。
 冒険者と魔物との戦いは、幼い頃兄上が読んで下さった物語に出て来た。
 冒険者が竜と戦うその勇ましさは、幼い私の心を掴んで離さずいつか本物の冒険者を見てみたいと思ったものだ。
 彼はその冒険者の様に魔物を狩り、必要な素材を得ている。それだけでなく、彼は薬師で錬金術師、他国の薬師と話をする機会など今までなかった。彼ならばもしかすると私が求めている知識を持っているかもしれない。
 そう思うと、公には難しいだろうが彼と話せる機会が欲しくなる。

「はい。長期休みに領地に戻り迷宮に入り経験を積んでまいります」
「そうか、エベラルドはもっともっと強くなるのだな。テレンスもそういう計画があるのか?」

 私とエベラルドの話を黙って聞いているテレンスは「私は入学前に一度、初級の迷宮に入りましたが狩ったのは小鬼程度の弱い魔物でございます」と教えてくれた。

「小鬼は弱いのか?」
「冒険者になりたての者では狩れないそうですが、少し経験を積んでいれば遅れをとることはないとか」
「……それでもテレンスはすでに魔物を狩っているのか。くぅっ、このエベラルド・ブレガは己の慢心に恥じ入るばかりです。まだまだ訓練が足りませんっ」

 エベラルドは相変わらず暑苦しい。
 私が魔物を狩るなんて兄上が許さないだろうが、少しだけ憧れがある。
 私は守られる者で、自ら危険な場に己を連れて行ってはいけないと分かっていても、そう思う。

「エベラルド、経験等これから積めばいいだけだ。慢心などでは無いと私は思うよ。テレンス、今度迷宮の話を聞かせて欲しい。私はあまりそういう知識が無いのだ」
「畏まりました。では殿下のご都合の良い時にでも」
「で、殿下。何とお優しい言葉を! テレンス私にも迷宮について教えて欲しい!」

 エベラルドは暑苦しいが、素直なところは美点なのかもしれない。

「テレンス、エベラルドも一緒でいいか」
「はい、私の経験等細やかなものですが、それでもよろしければ」

 私の頼みを快諾してくれたテレンスに、にっこりと微笑むと彼は少し頬を染めながら「殿下のお望みであれば私が否ということはございません」と言ってくれた。 
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