210 / 310
番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑33 (デルロイ視点)
しおりを挟む
「兄上、我儘を言って申し訳ありません」
夢でおじい様から語られたことを話そうと兄上と一緒に休みたいと告げただけなのに、あの後私は自分の宮に帰ることなくずっと兄上と共にいた。
兄上の執務室でソファーに座りお茶を頂きながら兄上が仕事をされているのを眺め、夕食を一緒に頂き食後のお茶を頂きながら兄上にトニエと話してから父上に魔力譲渡をするに至った状況を話し、それぞれ入浴してから寝室へと向かった。
「何を謝ることがある」
兄弟とはいえ、兄上の寝間着姿を見るのは初めてだと思う。
貴族はどうか分からないが、王家では子供達は幼い頃からバラバラに育てられる。
それぞれに乳母と子守が付き起きてから眠るまで世話をし、本当に幼い内は眠っている間も部屋の中で見守る。
兄弟仲が良くても悪くても、そうやって育つ。
食事もそれぞれの宮で頂くことが殆どだったが、兄上が私と共にいる時間を望んだから食事は一緒に頂くこともあった。他の姉弟達を放って私だけを誘うから、兄上と食事した次の日は私は兄上と他の姉弟を私の宮に招いて食事を頂くことが増えていった。
歴代の王家の兄弟でこれほど仲睦まじいのは珍しいかもしれない、それでもこうやって同じベッドで眠る事は無かった。
「今日、兄上のお仕事の邪魔をずっとしていたのに、お休みの時間までお邪魔してしまいました」
兄上は断らないだろうと思って言ったことだった。
兄上は、基本私の我儘を何でも叶えようとするから、私はそれを警戒して何も言わなくなった。
だから、この我儘は珍しいことだ。
「邪魔ではない。お前が執務室にいてくれた方が仕事が捗る。お前が倒れたと聞いた時は心臓が止まりそうになったし、その理由を作ったあの薬師の命を縮めてやろうかと思ったが」
「兄上、トニエは悪くありませんよ。私を心配してここまで来てくれたのです。あれはマーニ先生の指示ではないと思います。トニエは自ら来たのです」
私は迂闊だった。
今日の私はいつも以上に迂闊で、考えなしだった。
トニエは私の考えなしの行いに巻き込まれただけだ、だから彼を罰したりするのはおかしなことだし、ましてや命を縮めるなんてしてはいけない。
「分かっている。だから他言しないという魔法契約をするだけで許した。魔力回復薬や他の薬の買い取り額も通常より遥かに高い額にしている。あれにだけ負担を与えるのは可哀相だからな」
兄上が言うと、ちっとも可哀相だと思っている様に聞こえない。
けれど、その魔法契約でトニエの命が守れるのなら安心出来る。
私が巻き込んだ人間を、私のせいで苦しめるのは本意ではないのだから。
「マーニ先生の屋敷で薬は作らせるのは、お前と薬師を引き合わせた責任を取って貰うためだ。他国の人間を私の許可も得ずに会わせるなど、警戒心が足りなすぎる」
「先生はトニエを信用しているのでしょう。あの人は悪い人ではないと思います。薬師の誇りを持っている人です」
私に近付いてくる貴族の子息令嬢達とは異なる。
私と知り合いたくなかったと言わんばかりの警戒している様子は、演技ではないだろう。
「あれが自分が作った薬に自信があるのは分かっている。それに知識欲も旺盛だな、父上が言っていた褒美は何かいいのかと聞いたら皇帝の薔薇を調べさせて欲しいと言い出した」
「皇帝の薔薇、ですか? あれは彼の国のものでは?」
皇帝の薔薇というのは、この国に嫁いできた皇女が嫁入り道具と一緒に運んで来た薔薇だ。
あの薔薇は不思議な力があって、一年中次々に花を咲かせ続けるし、皇女の血を受け継ぐ王家の女性のみに解毒作用がある。
王家の人間は、命を狙われる可能性の高い。その際に毒を使われる事も多いから、皇女はそれを警戒して薔薇を持参したのだと言われている。
「王宮には残っているらしいが、あの者の家は子爵位を持つだけの下級貴族だから、その息子が王宮で皇帝の薔薇を見る機会はほぼないのだろう」
「そういうものですか」
優秀な薬師の家系らしいのに、王家は彼の家を優遇してはいないらしい。
この国なら子爵位のままではいさせないだろう、優秀な薬師と錬金術師は貴重だ。
「でも薔薇を見せるだけで褒美になりますか?」
兄上なら、薔薇を使って解毒剤を作れと言いそうだけれど、それも褒美になるのだろうか。
「あの者は薔薇を調べた結果は全部報告すると誓った。皇帝の薔薇を勝手に研究してくれるなら、これほどありがたいものはない。こちらの益にしかならないものを褒美としたのでは王家の名が廃る。そう言ったら、学校の一般教科の授業免除を言い出した」
「それはもうすぐ行われる学力試験で合格点を取ればそうなるでしょう。知らないのでしょうか」
下級上級関係なく、学力試験で合格点を取り本人が望めばその年の一般教科は受けなくてもいい許可が下りる。
だが、上級組ではそれを望む者は少ない。
上級組は学校に通うことに意味がある。社交として横の繋がりを広げていく必要があるからだ。
すでに知っていても授業を受け、定期的に行われる試験で上位を取り自分の優秀さを示すことも大事だからだ。
ただ下級組の者は授業料を支払うのが大変な家もあるから、上級組より合格点が低く設定されていて本人が必要だと思う授業だけを受けられる様に配慮されているらしい。
様は学校を卒業したという肩書が欲しい者が、無駄な費用を使わなくてすむようにしている仕組みらしい。
「あの者は母国ですでに学校を卒業しているから、一般教科を受ける時間を専門教科に当てたいらしい」
「ああ、つまり上の学年の授業を受けたいと」
一年生は専門教科の授業は無い。彼は薬学と魔法陣学を学びたいと言っていたから、一年生の授業は物足りないのだろう。
「それならなぜ一年生に?」
「校長が上の学年に入る許可を出さなかったらしい」
「何故でしょう」
「さあ、校長の思惑は分からないが、学力試験を全学年分受けて合格するだけの学力があるなら特例を認めさせると約束した。実力がないものの授業免除は出来ないからな」
それは確かにそうだ。
でも、全学年の試験を受けるのは大変そうだが大丈夫なのだろうか。
後日私の心配は杞憂だったと分かるのだか、この時の私は彼を心配していたのだ。
夢でおじい様から語られたことを話そうと兄上と一緒に休みたいと告げただけなのに、あの後私は自分の宮に帰ることなくずっと兄上と共にいた。
兄上の執務室でソファーに座りお茶を頂きながら兄上が仕事をされているのを眺め、夕食を一緒に頂き食後のお茶を頂きながら兄上にトニエと話してから父上に魔力譲渡をするに至った状況を話し、それぞれ入浴してから寝室へと向かった。
「何を謝ることがある」
兄弟とはいえ、兄上の寝間着姿を見るのは初めてだと思う。
貴族はどうか分からないが、王家では子供達は幼い頃からバラバラに育てられる。
それぞれに乳母と子守が付き起きてから眠るまで世話をし、本当に幼い内は眠っている間も部屋の中で見守る。
兄弟仲が良くても悪くても、そうやって育つ。
食事もそれぞれの宮で頂くことが殆どだったが、兄上が私と共にいる時間を望んだから食事は一緒に頂くこともあった。他の姉弟達を放って私だけを誘うから、兄上と食事した次の日は私は兄上と他の姉弟を私の宮に招いて食事を頂くことが増えていった。
歴代の王家の兄弟でこれほど仲睦まじいのは珍しいかもしれない、それでもこうやって同じベッドで眠る事は無かった。
「今日、兄上のお仕事の邪魔をずっとしていたのに、お休みの時間までお邪魔してしまいました」
兄上は断らないだろうと思って言ったことだった。
兄上は、基本私の我儘を何でも叶えようとするから、私はそれを警戒して何も言わなくなった。
だから、この我儘は珍しいことだ。
「邪魔ではない。お前が執務室にいてくれた方が仕事が捗る。お前が倒れたと聞いた時は心臓が止まりそうになったし、その理由を作ったあの薬師の命を縮めてやろうかと思ったが」
「兄上、トニエは悪くありませんよ。私を心配してここまで来てくれたのです。あれはマーニ先生の指示ではないと思います。トニエは自ら来たのです」
私は迂闊だった。
今日の私はいつも以上に迂闊で、考えなしだった。
トニエは私の考えなしの行いに巻き込まれただけだ、だから彼を罰したりするのはおかしなことだし、ましてや命を縮めるなんてしてはいけない。
「分かっている。だから他言しないという魔法契約をするだけで許した。魔力回復薬や他の薬の買い取り額も通常より遥かに高い額にしている。あれにだけ負担を与えるのは可哀相だからな」
兄上が言うと、ちっとも可哀相だと思っている様に聞こえない。
けれど、その魔法契約でトニエの命が守れるのなら安心出来る。
私が巻き込んだ人間を、私のせいで苦しめるのは本意ではないのだから。
「マーニ先生の屋敷で薬は作らせるのは、お前と薬師を引き合わせた責任を取って貰うためだ。他国の人間を私の許可も得ずに会わせるなど、警戒心が足りなすぎる」
「先生はトニエを信用しているのでしょう。あの人は悪い人ではないと思います。薬師の誇りを持っている人です」
私に近付いてくる貴族の子息令嬢達とは異なる。
私と知り合いたくなかったと言わんばかりの警戒している様子は、演技ではないだろう。
「あれが自分が作った薬に自信があるのは分かっている。それに知識欲も旺盛だな、父上が言っていた褒美は何かいいのかと聞いたら皇帝の薔薇を調べさせて欲しいと言い出した」
「皇帝の薔薇、ですか? あれは彼の国のものでは?」
皇帝の薔薇というのは、この国に嫁いできた皇女が嫁入り道具と一緒に運んで来た薔薇だ。
あの薔薇は不思議な力があって、一年中次々に花を咲かせ続けるし、皇女の血を受け継ぐ王家の女性のみに解毒作用がある。
王家の人間は、命を狙われる可能性の高い。その際に毒を使われる事も多いから、皇女はそれを警戒して薔薇を持参したのだと言われている。
「王宮には残っているらしいが、あの者の家は子爵位を持つだけの下級貴族だから、その息子が王宮で皇帝の薔薇を見る機会はほぼないのだろう」
「そういうものですか」
優秀な薬師の家系らしいのに、王家は彼の家を優遇してはいないらしい。
この国なら子爵位のままではいさせないだろう、優秀な薬師と錬金術師は貴重だ。
「でも薔薇を見せるだけで褒美になりますか?」
兄上なら、薔薇を使って解毒剤を作れと言いそうだけれど、それも褒美になるのだろうか。
「あの者は薔薇を調べた結果は全部報告すると誓った。皇帝の薔薇を勝手に研究してくれるなら、これほどありがたいものはない。こちらの益にしかならないものを褒美としたのでは王家の名が廃る。そう言ったら、学校の一般教科の授業免除を言い出した」
「それはもうすぐ行われる学力試験で合格点を取ればそうなるでしょう。知らないのでしょうか」
下級上級関係なく、学力試験で合格点を取り本人が望めばその年の一般教科は受けなくてもいい許可が下りる。
だが、上級組ではそれを望む者は少ない。
上級組は学校に通うことに意味がある。社交として横の繋がりを広げていく必要があるからだ。
すでに知っていても授業を受け、定期的に行われる試験で上位を取り自分の優秀さを示すことも大事だからだ。
ただ下級組の者は授業料を支払うのが大変な家もあるから、上級組より合格点が低く設定されていて本人が必要だと思う授業だけを受けられる様に配慮されているらしい。
様は学校を卒業したという肩書が欲しい者が、無駄な費用を使わなくてすむようにしている仕組みらしい。
「あの者は母国ですでに学校を卒業しているから、一般教科を受ける時間を専門教科に当てたいらしい」
「ああ、つまり上の学年の授業を受けたいと」
一年生は専門教科の授業は無い。彼は薬学と魔法陣学を学びたいと言っていたから、一年生の授業は物足りないのだろう。
「それならなぜ一年生に?」
「校長が上の学年に入る許可を出さなかったらしい」
「何故でしょう」
「さあ、校長の思惑は分からないが、学力試験を全学年分受けて合格するだけの学力があるなら特例を認めさせると約束した。実力がないものの授業免除は出来ないからな」
それは確かにそうだ。
でも、全学年の試験を受けるのは大変そうだが大丈夫なのだろうか。
後日私の心配は杞憂だったと分かるのだか、この時の私は彼を心配していたのだ。
55
あなたにおすすめの小説
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生したので前世の大切な人に会いに行きます!
本見りん
恋愛
魔法大国と呼ばれるレーベン王国。
家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。
……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。
自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。
……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。
『小説家になろう』様にも投稿しています。
『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』
でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる