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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑47 (ボナクララ視点)
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「あれは?」
昼の休憩がもうすぐ終る時間になり、マーニ先生の教官室の前で剣術の授業に向かうデルロイ様と別れ侍女と護衛達と共に中庭に面した外廊下を歩いていると、噴水の前で立ちすくむ女生徒の姿が見えた。
あの女子生徒は見覚えがある、入学式の日にブレガ様の命令でデルロイ様に近付こうとする女性の振りをさせられたルチーア・ロサルバさんだ。
女生徒を遠巻きに見ている数人の女生徒がいるけれど、声を掛ける様子はない。
「彼女どうしたのかしら? あなた分かる?」
「噴水の中に何か落ちていて、それを見ているのかと……あっ!」
私達二人が戸惑っていると、ロサルバさんは靴と靴下を脱ぎ始めた。
「止めて」
「はっ、あなた何をするおつもりですか!」
咄嗟に命令した私の声にすぐさま反応し、侍女は足早に噴水に近付きながら大きな声を上げる。
「え、サデウス様?」
「うそでしょ、どうするの?」
「大丈夫よ、だって彼女は……」
私に気がついたのだろう、遠まきに見ていた者達がヒソヒソと囀っている。
侍女がロサルバさんのところにたどり着いたのを確認してから、私はゆっくりと歩を進める。
「あなた達何をしているの」
「私達は何も」
「ルチーア、あなたどうしたの? 急に靴を脱ぎ始めたから驚いてしまったわ」
侍女に慰められている様子のロサルバさんに、私はわざと名前で呼びかける。
すると、侍女がロサルバさんに何か耳打ちし始めた。
「ボナクララ様」
瞬時の判断で私の名を呼ぶように伝えたらしい侍女の機転に満足しながら、私は大きなため息を吐きロサルバさんの前まで近付くと、項垂れている彼女の手を取った。
「どうしたの? 知り合ったばかりとはいえ、あなたがそんな風に悲しんでいる様子を見るのはとても辛いわ」
私が大袈裟にそう言いながら、親しげに接する様子に女生徒達は息を呑む。
入学式の後で、ロサルバさんは上位貴族の令嬢達から軽い嫌がらせをされているらしいと配下の者達から報告を受けていた。
ブレガ様のデルロイ様への行き過ぎた忠義の末、彼女に愚行をさせたのが嫌がらせの理由だとすぐに理解したけれど、ほんの少しの嫌がらせ程度であれば私が表立って大袈裟にすると余計に拗れる可能性もある。
だから、彼女と同じ組にいる私の家の派閥の家の令嬢達に、それとなく助ける様指示を出していた。
だが今はその令嬢達はいない。
昼の休憩時間だから、一人でいるところを狙われたのかもしれない。
「サ、サデウス様、彼女は粗忽者らしくて本を誤って噴水の中に落としたのです」
「ええ、それで私達心配していましたの」
「ふうん? それなら学内の雑務担当か庭師を呼んであげたら良かったのではありませんか。私の耳には、いい気味だと聞こえたけれど? 違った?」
励ます様にロサルバさんの手を握り問いただしながら、女生徒達の顔を確認すると、頭が痛いことにエマニュエラと仲が良い者達ばかりだった。
ブレガ様の愚行のせいで、いらない騒ぎが起きている。しかも、これがエマニュエラの耳に入れば自分の友達に難癖をつけたと文句を言い出すのは想像がつく。
ブレガ様を恨めしく思いながら、デルロイ様にも関わりが出そうな問題をこのままにはしておけないと心を決める。
「……で、ですが、この者は入学式の日に!」
「そうです、サデウス様はお忘れなのかもしれませんが、この人は恐れ多くも第二王子殿下に近づこうとして」
「……それが何かあなた達に関係があるのかしら」
嫌なことを聞いたとばかりに私は扇を広げ口元を隠し、不快感を表す。
「私あなた達の行いの方が不愉快だわ、一人に大勢で、みっともなくてよ」
繋いだ手が震えが伝わってきて、庇護欲を刺激されてしまう。
報告からささやかな嫌がらせと考えてしまっていたけれど、上位貴族との関わりが少なかったであろう下位貴族の令嬢にとって、良く知りもしない相手から嫌がらせをされる事などこの学校に入るまでなかったのかもしれない。
だとすれば、私には少しの嫌がらせに思えるものでも、彼女にはとても辛いことだっただろう。
私はデルロイ様の婚約者候補として、常にその立場を狙う令嬢から妬み嫉みを受けていたし、姉妹であるエマニュエラからの嫌がらせに慣れてしまっているから、人から悪意を向けられても羽虫が飛んでいる程度と思うだけ、でも普通はそうではないのだろう。
「ですが!」
「入学式の件は彼女の家の寄親であるブレガ家から正式な謝罪がありました。あれは意図したものではなく、ルチーアはハンカチが風に飛ばされ不幸にもデルロイ様の近くにそれが落ちてしまっただけ」
あれはまさしく風の魔法により、デルロイ様の近くにハンカチを飛ばせていたけれど、目の前の者達に魔法が得意な者はいないから、風魔法を使うなんて発想もないだろう。
「ブレガ家に聞いたけれど、ルチーアはとても優秀なのよ。話をしてみて私は彼女が気に入ったの。これの意味が分かるわね?」
「も、勿論です、ねえ、皆さん」
私のいつもとは違う口調に怒りを感じたのか、ジリジリと後退りしつつ仲間同士で視線を合わせる。
「理解したらなら結構、もうすぐ授業が始まるわ行きなさい」
「は、はいっ! 失礼致します!」
口々にそう言うと、制服のスカートを翻しながら逃げるように去っていった。
「品がないわ」
「仕方ございません。お嬢様とは違います」
褒めているのか貶しているのか分からない侍女の呟きに苦笑していると、ぐんっと繋いでいた手が下った。
「あなた大丈夫?」
「申し訳ありません、ホッとしたら力が抜けて」
座り込んでしまったロサルバさんを見下ろしながら、ブレガ様の件はデルロイ様から絶対に注意させなければと心に決めたのだった。
昼の休憩がもうすぐ終る時間になり、マーニ先生の教官室の前で剣術の授業に向かうデルロイ様と別れ侍女と護衛達と共に中庭に面した外廊下を歩いていると、噴水の前で立ちすくむ女生徒の姿が見えた。
あの女子生徒は見覚えがある、入学式の日にブレガ様の命令でデルロイ様に近付こうとする女性の振りをさせられたルチーア・ロサルバさんだ。
女生徒を遠巻きに見ている数人の女生徒がいるけれど、声を掛ける様子はない。
「彼女どうしたのかしら? あなた分かる?」
「噴水の中に何か落ちていて、それを見ているのかと……あっ!」
私達二人が戸惑っていると、ロサルバさんは靴と靴下を脱ぎ始めた。
「止めて」
「はっ、あなた何をするおつもりですか!」
咄嗟に命令した私の声にすぐさま反応し、侍女は足早に噴水に近付きながら大きな声を上げる。
「え、サデウス様?」
「うそでしょ、どうするの?」
「大丈夫よ、だって彼女は……」
私に気がついたのだろう、遠まきに見ていた者達がヒソヒソと囀っている。
侍女がロサルバさんのところにたどり着いたのを確認してから、私はゆっくりと歩を進める。
「あなた達何をしているの」
「私達は何も」
「ルチーア、あなたどうしたの? 急に靴を脱ぎ始めたから驚いてしまったわ」
侍女に慰められている様子のロサルバさんに、私はわざと名前で呼びかける。
すると、侍女がロサルバさんに何か耳打ちし始めた。
「ボナクララ様」
瞬時の判断で私の名を呼ぶように伝えたらしい侍女の機転に満足しながら、私は大きなため息を吐きロサルバさんの前まで近付くと、項垂れている彼女の手を取った。
「どうしたの? 知り合ったばかりとはいえ、あなたがそんな風に悲しんでいる様子を見るのはとても辛いわ」
私が大袈裟にそう言いながら、親しげに接する様子に女生徒達は息を呑む。
入学式の後で、ロサルバさんは上位貴族の令嬢達から軽い嫌がらせをされているらしいと配下の者達から報告を受けていた。
ブレガ様のデルロイ様への行き過ぎた忠義の末、彼女に愚行をさせたのが嫌がらせの理由だとすぐに理解したけれど、ほんの少しの嫌がらせ程度であれば私が表立って大袈裟にすると余計に拗れる可能性もある。
だから、彼女と同じ組にいる私の家の派閥の家の令嬢達に、それとなく助ける様指示を出していた。
だが今はその令嬢達はいない。
昼の休憩時間だから、一人でいるところを狙われたのかもしれない。
「サ、サデウス様、彼女は粗忽者らしくて本を誤って噴水の中に落としたのです」
「ええ、それで私達心配していましたの」
「ふうん? それなら学内の雑務担当か庭師を呼んであげたら良かったのではありませんか。私の耳には、いい気味だと聞こえたけれど? 違った?」
励ます様にロサルバさんの手を握り問いただしながら、女生徒達の顔を確認すると、頭が痛いことにエマニュエラと仲が良い者達ばかりだった。
ブレガ様の愚行のせいで、いらない騒ぎが起きている。しかも、これがエマニュエラの耳に入れば自分の友達に難癖をつけたと文句を言い出すのは想像がつく。
ブレガ様を恨めしく思いながら、デルロイ様にも関わりが出そうな問題をこのままにはしておけないと心を決める。
「……で、ですが、この者は入学式の日に!」
「そうです、サデウス様はお忘れなのかもしれませんが、この人は恐れ多くも第二王子殿下に近づこうとして」
「……それが何かあなた達に関係があるのかしら」
嫌なことを聞いたとばかりに私は扇を広げ口元を隠し、不快感を表す。
「私あなた達の行いの方が不愉快だわ、一人に大勢で、みっともなくてよ」
繋いだ手が震えが伝わってきて、庇護欲を刺激されてしまう。
報告からささやかな嫌がらせと考えてしまっていたけれど、上位貴族との関わりが少なかったであろう下位貴族の令嬢にとって、良く知りもしない相手から嫌がらせをされる事などこの学校に入るまでなかったのかもしれない。
だとすれば、私には少しの嫌がらせに思えるものでも、彼女にはとても辛いことだっただろう。
私はデルロイ様の婚約者候補として、常にその立場を狙う令嬢から妬み嫉みを受けていたし、姉妹であるエマニュエラからの嫌がらせに慣れてしまっているから、人から悪意を向けられても羽虫が飛んでいる程度と思うだけ、でも普通はそうではないのだろう。
「ですが!」
「入学式の件は彼女の家の寄親であるブレガ家から正式な謝罪がありました。あれは意図したものではなく、ルチーアはハンカチが風に飛ばされ不幸にもデルロイ様の近くにそれが落ちてしまっただけ」
あれはまさしく風の魔法により、デルロイ様の近くにハンカチを飛ばせていたけれど、目の前の者達に魔法が得意な者はいないから、風魔法を使うなんて発想もないだろう。
「ブレガ家に聞いたけれど、ルチーアはとても優秀なのよ。話をしてみて私は彼女が気に入ったの。これの意味が分かるわね?」
「も、勿論です、ねえ、皆さん」
私のいつもとは違う口調に怒りを感じたのか、ジリジリと後退りしつつ仲間同士で視線を合わせる。
「理解したらなら結構、もうすぐ授業が始まるわ行きなさい」
「は、はいっ! 失礼致します!」
口々にそう言うと、制服のスカートを翻しながら逃げるように去っていった。
「品がないわ」
「仕方ございません。お嬢様とは違います」
褒めているのか貶しているのか分からない侍女の呟きに苦笑していると、ぐんっと繋いでいた手が下った。
「あなた大丈夫?」
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