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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑48 (ボナクララ視点)
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「……立てそう? あなた手を貸して差し上げて」
地面に座り込んでしまったロサルバさんを見下ろして、侍女に指示を出す。
繋いだままの手が震えていて、可哀相だと思うけれどこのままにしてはいられない。
「ロサルバ様、失礼致します」
侍女が手を貸し、ロサルバさんは何とか立ち上がると不安そうにこちらを見ている。
今の様に嫌がらせをされたことは一度や二度ではないのだろう、それが分かるだけにこの後どうしたらいいのかと悩んでしまう。
「助けて頂きありがとうございます」
「いいえ、あれは教科書?」
「……はい」
「そう、あれを風魔法で浮かせているの?」
侍女に支えられながら、噴水の水面に浮かぶ本を見つめているロサルバさんに聞けば驚いた様に私に視線が動くけれど、本が長い間水に浮いている筈がないのだから、理由があると思うのは当然だと思う。
「あなたなら、噴水に入らずに本を回収出来たのではないかしら」
「……それは」
「やってみせて、どうするの?」
何度か嫌がらせをされて、苦肉の策で編み出した魔法なのかもしれないけれど、風魔法をこんな使い方をしようと思いつくのは面白いと思う。
多分、彼女の考え方はデルロイ様も王太子殿下も気に入るだろう。
「はい、では、水がかかるかもしれません。お気を付けください」
私の問いかけに、ロサルバさんは諦めた様に息を深く吐いた後私に注意してから侍女の手を離し一人で噴水の前に移動する。
「……風よ、浮かせよ」
口の中で何か詠唱した後、水面が風に揺れ始めそれとともに教科書が水面から浮き上がった。
「きゃっ」
ぐんと大きな風が吹き教科書が持ち上がったかと思うと、大量の水を周囲にまき散らしながらそのまま噴水の外に飛び出したものだから、私ははしたなく声を上げてしまった。
「お嬢様っ」
「大丈夫ですか?」
驚いた私を心配し、侍女とロサルバさんは私を見るけれど、そのせいで魔力の制御が甘くなったのだろう教科書は地面に落ちてしまった。
「あ、あぁっ。最後の最後でやらかしたっ」
地面に出来た水たまりの中で、教科書は汚れてしまっている。
水に浮いていた時は綺麗に読めていた教科書の表紙の文字が水に滲み、水と湿った土で汚れてしまった。
「これは、また買い直しだわ」
手が汚れるのも構わずに、ロサルバさんは教科書を持ち上げると中を開き項垂れてしまった。
「また、ということは今まで何度もあったのね」
「はい、買い直しの資金は頂いているからいいの……あ、ええと、あの」
ロサルバさんは自分の失言にオロオロとし始めるけれど、成程ブレガ様はあの愚策の末彼女にどんな嫌がらせが起きるか想定し、資金を彼女に渡しているのだろう。
全くあの人は頭がいいのか悪いのか分からない、分かるのは目的の為になんの関係もない彼女が傷付いても構わないと考えているということだ。
「それを貸してくださる? ええと、私の前に」
「え、はい」
「……戻れ時よ、悲しみを消し清らかな光よ、元の姿に戻せ光よ」
あまり使ったことはない復元魔法の詠唱をし、教科書に光魔法を掛ける。
小さな光は教科書を包みその光が消えた後、ロサルバさんが持っていた教科書は真新しい物に姿を変えた。
「え、これ」
「この魔法の欠点は、出来上がった当初のものに戻るというところなの。あなたが何か教科書に書き込んでいたらそれは消えてしまっていると思うわ」
私は教科書に書き込むことはせず覚書は専用の物を用意するけれど、一部の人達は授業の説明を教科書に書き込み勉強に役立てていると聞いた事がある。
ちなみに王太子殿下やデルロイ様は、授業中先生が話すのを聞いているだけで覚書等は特に取らなず覚えてしまうらしいけれど、私にはそんなことは出来ない。
そもそもあの方々は、学校で習うものはすべて学び終えているから授業を受ける必要は本来ない。私もある程度先のものまで学んではいるものの、すべて覚えていると自信を持っては言えない。
私達にとって学校は、学ぶというより社交の場という意味合いが強いけれど、彼女はそうではないだろう。
学ぶために学校に来ているのに、それを邪魔されているのだ。
「凄い、水染みなんて一つもないわ。ありがとうござます、あのなんてお呼びしたらいいのでしょうか」
「ふふ、先程と同じくボナクララと呼んで下さっていいのよ。私もあなたを名前で呼ぶわ」
わざと微笑みながらそう言うと、ロサルバさんは動揺して教科書を落としそうになる。
先程は侍女の指示で私の名を呼んでいたけれど、それではいけないと判断し確認して来た。
彼女は先刻の彼女達より余程賢い人だと思う。
「で、ですが」
「先程あなたは私の名を呼んだでしょう? 彼女達はあなたはそれが許されているともう認識しているのよ、だから今更変えてはいけないわ」
「でも私は男爵家の者です。それも第二王子殿下に失礼を働いたのです」
ぎゅっと教科書を両手で抱きしめる様に持ちながら俯く姿に、入学してから今日までの彼女がどんな状況だったか悟ってしまう。
本当にブレガ様は愚かな事をやってくれたものだと思う。
「それはあなたの意思では無かったのでしょう? あなたは不本意かもしれないけれど、今日この時からあなたは私の配下と同じになってもらうわ。そうすればこの様な事はもう誰にもさせない。どうかしら」
幸い私の家の派閥の者が彼女と同じ組に数人いるから、彼女を守る事は出来るだろう。
「それは、でも……いいのでしょうか」
「学ぶために来たのに、それを愚かな者に邪魔されるのは悔しいでしょう? 利用できるものはなんでも利用すればいいのよ」
「……ボナクララ様、それをご自身で仰るのはどうなのでしょう」
困った様に笑いながら、それでもロサルバさんは「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「……サデウス様、彼女が何か!」
侍女にロサルバさんを教室に送らせようかと考えていると、先程聞いたばかりの声が私の名を呼んだ。
「トニエ様」
「トニエさん」
駆け寄って来る彼は、険しい顔をして私と彼女の間に身を滑らせたのだった。
地面に座り込んでしまったロサルバさんを見下ろして、侍女に指示を出す。
繋いだままの手が震えていて、可哀相だと思うけれどこのままにしてはいられない。
「ロサルバ様、失礼致します」
侍女が手を貸し、ロサルバさんは何とか立ち上がると不安そうにこちらを見ている。
今の様に嫌がらせをされたことは一度や二度ではないのだろう、それが分かるだけにこの後どうしたらいいのかと悩んでしまう。
「助けて頂きありがとうございます」
「いいえ、あれは教科書?」
「……はい」
「そう、あれを風魔法で浮かせているの?」
侍女に支えられながら、噴水の水面に浮かぶ本を見つめているロサルバさんに聞けば驚いた様に私に視線が動くけれど、本が長い間水に浮いている筈がないのだから、理由があると思うのは当然だと思う。
「あなたなら、噴水に入らずに本を回収出来たのではないかしら」
「……それは」
「やってみせて、どうするの?」
何度か嫌がらせをされて、苦肉の策で編み出した魔法なのかもしれないけれど、風魔法をこんな使い方をしようと思いつくのは面白いと思う。
多分、彼女の考え方はデルロイ様も王太子殿下も気に入るだろう。
「はい、では、水がかかるかもしれません。お気を付けください」
私の問いかけに、ロサルバさんは諦めた様に息を深く吐いた後私に注意してから侍女の手を離し一人で噴水の前に移動する。
「……風よ、浮かせよ」
口の中で何か詠唱した後、水面が風に揺れ始めそれとともに教科書が水面から浮き上がった。
「きゃっ」
ぐんと大きな風が吹き教科書が持ち上がったかと思うと、大量の水を周囲にまき散らしながらそのまま噴水の外に飛び出したものだから、私ははしたなく声を上げてしまった。
「お嬢様っ」
「大丈夫ですか?」
驚いた私を心配し、侍女とロサルバさんは私を見るけれど、そのせいで魔力の制御が甘くなったのだろう教科書は地面に落ちてしまった。
「あ、あぁっ。最後の最後でやらかしたっ」
地面に出来た水たまりの中で、教科書は汚れてしまっている。
水に浮いていた時は綺麗に読めていた教科書の表紙の文字が水に滲み、水と湿った土で汚れてしまった。
「これは、また買い直しだわ」
手が汚れるのも構わずに、ロサルバさんは教科書を持ち上げると中を開き項垂れてしまった。
「また、ということは今まで何度もあったのね」
「はい、買い直しの資金は頂いているからいいの……あ、ええと、あの」
ロサルバさんは自分の失言にオロオロとし始めるけれど、成程ブレガ様はあの愚策の末彼女にどんな嫌がらせが起きるか想定し、資金を彼女に渡しているのだろう。
全くあの人は頭がいいのか悪いのか分からない、分かるのは目的の為になんの関係もない彼女が傷付いても構わないと考えているということだ。
「それを貸してくださる? ええと、私の前に」
「え、はい」
「……戻れ時よ、悲しみを消し清らかな光よ、元の姿に戻せ光よ」
あまり使ったことはない復元魔法の詠唱をし、教科書に光魔法を掛ける。
小さな光は教科書を包みその光が消えた後、ロサルバさんが持っていた教科書は真新しい物に姿を変えた。
「え、これ」
「この魔法の欠点は、出来上がった当初のものに戻るというところなの。あなたが何か教科書に書き込んでいたらそれは消えてしまっていると思うわ」
私は教科書に書き込むことはせず覚書は専用の物を用意するけれど、一部の人達は授業の説明を教科書に書き込み勉強に役立てていると聞いた事がある。
ちなみに王太子殿下やデルロイ様は、授業中先生が話すのを聞いているだけで覚書等は特に取らなず覚えてしまうらしいけれど、私にはそんなことは出来ない。
そもそもあの方々は、学校で習うものはすべて学び終えているから授業を受ける必要は本来ない。私もある程度先のものまで学んではいるものの、すべて覚えていると自信を持っては言えない。
私達にとって学校は、学ぶというより社交の場という意味合いが強いけれど、彼女はそうではないだろう。
学ぶために学校に来ているのに、それを邪魔されているのだ。
「凄い、水染みなんて一つもないわ。ありがとうござます、あのなんてお呼びしたらいいのでしょうか」
「ふふ、先程と同じくボナクララと呼んで下さっていいのよ。私もあなたを名前で呼ぶわ」
わざと微笑みながらそう言うと、ロサルバさんは動揺して教科書を落としそうになる。
先程は侍女の指示で私の名を呼んでいたけれど、それではいけないと判断し確認して来た。
彼女は先刻の彼女達より余程賢い人だと思う。
「で、ですが」
「先程あなたは私の名を呼んだでしょう? 彼女達はあなたはそれが許されているともう認識しているのよ、だから今更変えてはいけないわ」
「でも私は男爵家の者です。それも第二王子殿下に失礼を働いたのです」
ぎゅっと教科書を両手で抱きしめる様に持ちながら俯く姿に、入学してから今日までの彼女がどんな状況だったか悟ってしまう。
本当にブレガ様は愚かな事をやってくれたものだと思う。
「それはあなたの意思では無かったのでしょう? あなたは不本意かもしれないけれど、今日この時からあなたは私の配下と同じになってもらうわ。そうすればこの様な事はもう誰にもさせない。どうかしら」
幸い私の家の派閥の者が彼女と同じ組に数人いるから、彼女を守る事は出来るだろう。
「それは、でも……いいのでしょうか」
「学ぶために来たのに、それを愚かな者に邪魔されるのは悔しいでしょう? 利用できるものはなんでも利用すればいいのよ」
「……ボナクララ様、それをご自身で仰るのはどうなのでしょう」
困った様に笑いながら、それでもロサルバさんは「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「……サデウス様、彼女が何か!」
侍女にロサルバさんを教室に送らせようかと考えていると、先程聞いたばかりの声が私の名を呼んだ。
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駆け寄って来る彼は、険しい顔をして私と彼女の間に身を滑らせたのだった。
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