248 / 310
番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑71 (トニエ視点)
しおりを挟む
「殆ど減っていない様ですが、どの程度使われたか覚えていらっしゃいますか」
この塗り薬の効果は、通常の傷薬と比べたら気休め程度でしか無い。
第二王子殿下から、サデウス嬢の気持ちを安らかにさせるものと言われて、貴族令嬢であれば手肌の手入れは必ずするだろうと思い、肌の調子を整えながら、気持ちが落ち着く薬草で香りつけしたものなのだから、こんなに強い反応が出るのはおかしいのだ。
もし傷薬を使って傷を治療したとして、このようにはならない。治癒師の魔法でも同じだろう。
「……そうですね、ほんの少し様子を見るつもりでつけただけですから、指先で撫でる程度だったかと想います」
「そうですか。……塗り薬はどなたが?」
「私の侍女です」
「その方は指で直接?」
出血がしている場合、薬師は直接触れたりせずに薬を塗るための専用のヘラで薬を取り、布に塗り貼り付けるが、普通なら指で傷口に塗るだろう。
「ええ、いけなかったでしょうか」
「いえ、薬の効果であればその侍女の指も同様の反応が出たのではないかと」
顔と指では肌の元々の調子が違っていたとはしても、それでも塗り薬の過剰反応がサデウス嬢だけなのか他の人もなのか、一つの判断材料にはなる。
「侍女は特に何も言っていませんでした」
「指は確認されていましたか?」
「ええ、私の肌の変化に気がついたのがその侍女ですし、その時に自分の指も見ていました」
私やマーニ先生達で確認した時には無かった反応との違いは気になるが、そうなるとサデウス嬢の肌だけが過剰に反応したことになる。
「それを見たのは、ボナクララと侍女だけ? エマニュエラは?」
エマニュエラというのは、確かサデウス嬢の双子の姉妹の名前で、彼女は王太子殿下と婚約しているらしい。
この国の王族は、他国の王族と結婚で縁を結ぶことが殆どない。例外は帝国時代の結婚位だ。
しかも、王妃になっているのがほぼ従姉妹だというから驚くばかりだし、王太子殿下と今私の隣に座る第二王子殿下の婚約者が姉妹というのも、他国では珍しい話だ。
そもそもこの国の王族は、殆どが王族と数家ある公爵家と結婚している。歴代の王妃は王の従姉妹だし、かなり昔には妹や娘というのもあったらしい。
他国であれば良く聞く、未来の王妃の座を争う上位貴族の争いというのも、王子達の王位を争う命の奪い合いなんていうのも何故かこの国には無い。
他国の人間にその噂が聞こえてこないだけの可能性もあるが、そもそもその噂が出ないのが珍しいのだ。
「手当はエマニュエラの部屋から自室に戻って行いましたから、知っているのは侍女だけです。これについて両親に話してもいいものか分かりませんでしたから」
この国の不思議さに考えを巡らせていて、話を中途半端に聞いていたのかもしれないが、今の話だとサデウス嬢は姉妹の部屋で怪我をしたのだろうか。
「サデウス嬢、そもそも怪我はなぜ」
「……それは……」
サデウス嬢は少し躊躇した後で、「身内の恥ですが」と話し始め、私は怪我の理由を尋ねた自分の行いを悔いた。
薬師というのは時にその家の影の部分に触れる時があるし、先日の様に思いもしないことに巻き込まれることもあるが、王太子殿下の婚約者ともあろう人が姉妹を害するなんてあっていいのだろうか。
「失礼ながら、過去にもそういったことが?」
あまりに淡々と話すものだから、よくある事なのかと心配になる。
「姉妹の仲は良くありませんが、さすがに怪我をさせられたのは初めてです。だから油断してしまいましたの」
「油断してしまったって、随分と呑気な」
武器を使ったわけでは無いとしても、切れ味の良い刃でないなら余計に傷が上手く治らずに痕が残る場合もある。
傷薬も治癒師の魔法も万能では無いのだ。
「エマニュエラは今日から王宮の母の宮に住まわせると決まったから、この様なことは無くなるとは思うがボナクララも、あまり油断しないで欲しい」
私に言わせれば、呑気の代表の様な第二王子殿下が心配そうにサデウス嬢に告げる。
王宮に住まわせるというのは、つまり見張りが必要ということか? そんな人が王太子殿下の婚約者でこの国は大丈夫なのだろうか。
この塗り薬の効果は、通常の傷薬と比べたら気休め程度でしか無い。
第二王子殿下から、サデウス嬢の気持ちを安らかにさせるものと言われて、貴族令嬢であれば手肌の手入れは必ずするだろうと思い、肌の調子を整えながら、気持ちが落ち着く薬草で香りつけしたものなのだから、こんなに強い反応が出るのはおかしいのだ。
もし傷薬を使って傷を治療したとして、このようにはならない。治癒師の魔法でも同じだろう。
「……そうですね、ほんの少し様子を見るつもりでつけただけですから、指先で撫でる程度だったかと想います」
「そうですか。……塗り薬はどなたが?」
「私の侍女です」
「その方は指で直接?」
出血がしている場合、薬師は直接触れたりせずに薬を塗るための専用のヘラで薬を取り、布に塗り貼り付けるが、普通なら指で傷口に塗るだろう。
「ええ、いけなかったでしょうか」
「いえ、薬の効果であればその侍女の指も同様の反応が出たのではないかと」
顔と指では肌の元々の調子が違っていたとはしても、それでも塗り薬の過剰反応がサデウス嬢だけなのか他の人もなのか、一つの判断材料にはなる。
「侍女は特に何も言っていませんでした」
「指は確認されていましたか?」
「ええ、私の肌の変化に気がついたのがその侍女ですし、その時に自分の指も見ていました」
私やマーニ先生達で確認した時には無かった反応との違いは気になるが、そうなるとサデウス嬢の肌だけが過剰に反応したことになる。
「それを見たのは、ボナクララと侍女だけ? エマニュエラは?」
エマニュエラというのは、確かサデウス嬢の双子の姉妹の名前で、彼女は王太子殿下と婚約しているらしい。
この国の王族は、他国の王族と結婚で縁を結ぶことが殆どない。例外は帝国時代の結婚位だ。
しかも、王妃になっているのがほぼ従姉妹だというから驚くばかりだし、王太子殿下と今私の隣に座る第二王子殿下の婚約者が姉妹というのも、他国では珍しい話だ。
そもそもこの国の王族は、殆どが王族と数家ある公爵家と結婚している。歴代の王妃は王の従姉妹だし、かなり昔には妹や娘というのもあったらしい。
他国であれば良く聞く、未来の王妃の座を争う上位貴族の争いというのも、王子達の王位を争う命の奪い合いなんていうのも何故かこの国には無い。
他国の人間にその噂が聞こえてこないだけの可能性もあるが、そもそもその噂が出ないのが珍しいのだ。
「手当はエマニュエラの部屋から自室に戻って行いましたから、知っているのは侍女だけです。これについて両親に話してもいいものか分かりませんでしたから」
この国の不思議さに考えを巡らせていて、話を中途半端に聞いていたのかもしれないが、今の話だとサデウス嬢は姉妹の部屋で怪我をしたのだろうか。
「サデウス嬢、そもそも怪我はなぜ」
「……それは……」
サデウス嬢は少し躊躇した後で、「身内の恥ですが」と話し始め、私は怪我の理由を尋ねた自分の行いを悔いた。
薬師というのは時にその家の影の部分に触れる時があるし、先日の様に思いもしないことに巻き込まれることもあるが、王太子殿下の婚約者ともあろう人が姉妹を害するなんてあっていいのだろうか。
「失礼ながら、過去にもそういったことが?」
あまりに淡々と話すものだから、よくある事なのかと心配になる。
「姉妹の仲は良くありませんが、さすがに怪我をさせられたのは初めてです。だから油断してしまいましたの」
「油断してしまったって、随分と呑気な」
武器を使ったわけでは無いとしても、切れ味の良い刃でないなら余計に傷が上手く治らずに痕が残る場合もある。
傷薬も治癒師の魔法も万能では無いのだ。
「エマニュエラは今日から王宮の母の宮に住まわせると決まったから、この様なことは無くなるとは思うがボナクララも、あまり油断しないで欲しい」
私に言わせれば、呑気の代表の様な第二王子殿下が心配そうにサデウス嬢に告げる。
王宮に住まわせるというのは、つまり見張りが必要ということか? そんな人が王太子殿下の婚約者でこの国は大丈夫なのだろうか。
82
あなたにおすすめの小説
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生したので前世の大切な人に会いに行きます!
本見りん
恋愛
魔法大国と呼ばれるレーベン王国。
家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。
……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。
自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。
……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。
『小説家になろう』様にも投稿しています。
『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』
でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる