【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑71 (トニエ視点)

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「殆ど減っていない様ですが、どの程度使われたか覚えていらっしゃいますか」

 この塗り薬の効果は、通常の傷薬と比べたら気休め程度でしか無い。
 第二王子殿下から、サデウス嬢の気持ちを安らかにさせるものと言われて、貴族令嬢であれば手肌の手入れは必ずするだろうと思い、肌の調子を整えながら、気持ちが落ち着く薬草で香りつけしたものなのだから、こんなに強い反応が出るのはおかしいのだ。
 もし傷薬を使って傷を治療したとして、このようにはならない。治癒師の魔法でも同じだろう。

「……そうですね、ほんの少し様子を見るつもりでつけただけですから、指先で撫でる程度だったかと想います」
「そうですか。……塗り薬はどなたが?」
「私の侍女です」
「その方は指で直接?」

 出血がしている場合、薬師は直接触れたりせずに薬を塗るための専用のヘラで薬を取り、布に塗り貼り付けるが、普通なら指で傷口に塗るだろう。

「ええ、いけなかったでしょうか」
「いえ、薬の効果であればその侍女の指も同様の反応が出たのではないかと」
 
 顔と指では肌の元々の調子が違っていたとはしても、それでも塗り薬の過剰反応がサデウス嬢だけなのか他の人もなのか、一つの判断材料にはなる。

「侍女は特に何も言っていませんでした」
「指は確認されていましたか?」
「ええ、私の肌の変化に気がついたのがその侍女ですし、その時に自分の指も見ていました」

 私やマーニ先生達で確認した時には無かった反応との違いは気になるが、そうなるとサデウス嬢の肌だけが過剰に反応したことになる。

「それを見たのは、ボナクララと侍女だけ? エマニュエラは?」

 エマニュエラというのは、確かサデウス嬢の双子の姉妹の名前で、彼女は王太子殿下と婚約しているらしい。
 この国の王族は、他国の王族と結婚で縁を結ぶことが殆どない。例外は帝国時代の結婚位だ。
 しかも、王妃になっているのがほぼ従姉妹だというから驚くばかりだし、王太子殿下と今私の隣に座る第二王子殿下の婚約者が姉妹というのも、他国では珍しい話だ。
 そもそもこの国の王族は、殆どが王族と数家ある公爵家と結婚している。歴代の王妃は王の従姉妹だし、かなり昔には妹や娘というのもあったらしい。
 他国であれば良く聞く、未来の王妃の座を争う上位貴族の争いというのも、王子達の王位を争う命の奪い合いなんていうのも何故かこの国には無い。
 他国の人間にその噂が聞こえてこないだけの可能性もあるが、そもそもその噂が出ないのが珍しいのだ。

「手当はエマニュエラの部屋から自室に戻って行いましたから、知っているのは侍女だけです。これについて両親に話してもいいものか分かりませんでしたから」

 この国の不思議さに考えを巡らせていて、話を中途半端に聞いていたのかもしれないが、今の話だとサデウス嬢は姉妹の部屋で怪我をしたのだろうか。

「サデウス嬢、そもそも怪我はなぜ」
「……それは……」

 サデウス嬢は少し躊躇した後で、「身内の恥ですが」と話し始め、私は怪我の理由を尋ねた自分の行いを悔いた。
 薬師というのは時にその家の影の部分に触れる時があるし、先日の様に思いもしないことに巻き込まれることもあるが、王太子殿下の婚約者ともあろう人が姉妹を害するなんてあっていいのだろうか。

「失礼ながら、過去にもそういったことが?」

 あまりに淡々と話すものだから、よくある事なのかと心配になる。

「姉妹の仲は良くありませんが、さすがに怪我をさせられたのは初めてです。だから油断してしまいましたの」
「油断してしまったって、随分と呑気な」

 武器を使ったわけでは無いとしても、切れ味の良い刃でないなら余計に傷が上手く治らずに痕が残る場合もある。
 傷薬も治癒師の魔法も万能では無いのだ。

「エマニュエラは今日から王宮の母の宮に住まわせると決まったから、この様なことは無くなるとは思うがボナクララも、あまり油断しないで欲しい」

 私に言わせれば、呑気の代表の様な第二王子殿下が心配そうにサデウス嬢に告げる。
 王宮に住まわせるというのは、つまり見張りが必要ということか? そんな人が王太子殿下の婚約者でこの国は大丈夫なのだろうか。
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