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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑70 (トニエ視点)
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私は何故ここにいるのだろう。
品は良いが高級な調度品で構成された部屋に、何故か第二王子殿下と並びソファーに腰掛けている状況に軽い目眩を感じながら、豪華な部屋に相応しい高級茶葉の香りを漂わせている紅茶を、これまた高級品だと一目で分かる茶器で頂いている。
私の実家トニエ家は、子爵位ながら家族親戚の殆どが薬師と錬金術師のため、収入に困ったことはないが贅沢を好む者はおらず大金が入れば領地の整備等に使うのが常だし、屋敷は広いだけで調度品に金をかけることはなく、食事もそれなりでしかない。
つまり、こういう豪華さには全く慣れていないから落ち着かないし、やらなくてはならないことも山程あるのだから、出来るならさっさと帰りたいというのに、それが出来ずに若い女性向きだと一見して分かる部屋で、何故自分はここにいるのだろうと、考えても仕方がないことを思いながら紅茶を啜っているしか今のところすることがない。
それもこれも、隣にのほほんと座っている第二王子殿下のせいだ。
授業が終わり、さて帰って日薬草の世話をするかと教科書をまとめていたら、マーニ先生の助手が殿下からの伝言を伝えに来たのだ。
お陰で今日の予定がずれ込んでしまった。
日薬草の手入れをしてから異なった土で育てた違いを研究結果としてまとめる予定が、留学中の私の下宿先になったマーニ先生の屋敷で殿下と待ち合わせ、この豪華な部屋の主であるサデウス嬢の屋敷に出向くことになってしまったのだから。
しかも、私の意志は無視されてだから、少しぼかり気分も悪い。
「お待たせして申し訳ありません、デルロイ様。トニエ様、急にお呼びして申し訳ありません」
メイドが開いた扉から、優雅に部屋に入って来たサデウス嬢は、座る前にそう言った。
待たせた詫びは第二王子殿下にしかしないのか、と細かいことはどうでも良いが、今日の件は第二王子殿下の我儘ではなく私を呼んだのはサデウス嬢だったらしい。
「ご挨拶せず申し訳ございません。サデウス嬢」
彼女の片側の頬に布が当てられているのに驚きすぎて、立ち上がり礼をするのを忘れていたと気がついたのは彼女が正面のソファーに腰を下ろした後だった。
でも、貴族の令嬢が顔に怪我をし、それが治療されていないと言わんばかりなのだから、驚くなというほうが無理な話だ。
「この様な格好で驚かれました?」
サデウス嬢の前に茶器を置きいたメイドが部屋を出ていき、小さく扉が開けられているものの人払いされた部屋で、サデウス嬢は頬に当てられた布に手を添えながら笑う。
「少し怪我をしてしまいましたの。実はこの件でトニエ様にご相談したいことが出来たもので、急ぎデルロイ様にお願いしましたのよ」
相談という言葉に、考えを巡らせる。
貴族の、しかも王族の婚約者が怪我か何かをしたのならそれは確かに大事だ。
でも、サデウス嬢の家は公爵家、当然お抱えの薬師か治癒師がいるだろうに、他国の薬師である私に相談というのはどういうわけだろう。
「ボナクララ、怪我はまだ痛むのかな」
「いいえ、今は傷痕もありません」
心配そうな第二王子殿下に、サデウス嬢はにこやかに答えるけれど、それならなぜ布を当てているのだろうという疑問が残る。
「見ていただいた方が早いですわね」
私の疑問を察したのだろう、サデウス嬢はそう言うと布を外してみせた。
「えっ」
声を上げたのは私だけだった。
でも第二王子殿下も驚いてはいるようだ。
「サデウス嬢、そのお顔は」
失礼だと分かっていながら、思わず立ち上がり手をサデウス嬢の頬に伸ばそうとしてしまった。
「何も言わずとも気が付かれるほどなのですね」
私の失礼に眉をひそめることもせず、サデウス嬢はホゥと息を吐く。
「サデウス嬢、殿下、これは?」
声を出さず、私を止めもしない第二王子殿下はサデウス嬢の頬がどのような状態なのか知っていたのだろう。驚く私を楽しそうに見ているだけだ。
「君の塗り薬の効果らしい」
「私の塗り薬? え、これが?」
塗り薬というのは、サデウス嬢に試しとして渡した日薬草で作ったもののことだ。
でもあれを私は自分で何度も試したし、マーニ先生の屋敷の人間数人でも試したがこんな風には誰もならなかった。
「なぜ、こんな……傷はどんな状態でしたか?」
「茶器の破片で私の小指の長さ程の傷です。出血が酷かったものですから、治癒師を呼ぶ前に気休めにでもなればと塗り薬を使ってみたのです」
茶器の破片でなぜそんな大きな怪我を? その疑問はあるが今はそれよりもこの頬だ。
「失礼ですが、近くで見せて頂いても?」
「ええ、薬師様ですもの、失礼等には当たりませんからどうぞ」
公爵家のご令嬢のわりに、この方は気安いなと思いながら第二王子殿下を見ると、にこやかに頷く。
「傷はどこにもありませんね、それより傷ができていたであろう場所だけが、出来たばかりの肌の様に滑らかで……」
間違っても触れない様に、十二分に気をつけながらサデウス嬢の側に近付き頬の状態を確認する。
さすが公爵家のご令嬢、手入れが行き届いている美しい肌をしているが、傷が出来ていたらしいところが特定出来そうなほど、そこだけ肌の状態が異なっていた。
まるで大人の肌の一部が、赤ん坊の肌に変わったかのようだ。
「ここに塗り薬を?」
「ほんの一塗り程度しか使ってはいませんが」
「一塗りで? 今残りはどうされていますか?」
「ここに」
サデウス嬢が差し出した小さな器を受け取り蓋を開くと、中身は殆ど減っていなかったのだ。
品は良いが高級な調度品で構成された部屋に、何故か第二王子殿下と並びソファーに腰掛けている状況に軽い目眩を感じながら、豪華な部屋に相応しい高級茶葉の香りを漂わせている紅茶を、これまた高級品だと一目で分かる茶器で頂いている。
私の実家トニエ家は、子爵位ながら家族親戚の殆どが薬師と錬金術師のため、収入に困ったことはないが贅沢を好む者はおらず大金が入れば領地の整備等に使うのが常だし、屋敷は広いだけで調度品に金をかけることはなく、食事もそれなりでしかない。
つまり、こういう豪華さには全く慣れていないから落ち着かないし、やらなくてはならないことも山程あるのだから、出来るならさっさと帰りたいというのに、それが出来ずに若い女性向きだと一見して分かる部屋で、何故自分はここにいるのだろうと、考えても仕方がないことを思いながら紅茶を啜っているしか今のところすることがない。
それもこれも、隣にのほほんと座っている第二王子殿下のせいだ。
授業が終わり、さて帰って日薬草の世話をするかと教科書をまとめていたら、マーニ先生の助手が殿下からの伝言を伝えに来たのだ。
お陰で今日の予定がずれ込んでしまった。
日薬草の手入れをしてから異なった土で育てた違いを研究結果としてまとめる予定が、留学中の私の下宿先になったマーニ先生の屋敷で殿下と待ち合わせ、この豪華な部屋の主であるサデウス嬢の屋敷に出向くことになってしまったのだから。
しかも、私の意志は無視されてだから、少しぼかり気分も悪い。
「お待たせして申し訳ありません、デルロイ様。トニエ様、急にお呼びして申し訳ありません」
メイドが開いた扉から、優雅に部屋に入って来たサデウス嬢は、座る前にそう言った。
待たせた詫びは第二王子殿下にしかしないのか、と細かいことはどうでも良いが、今日の件は第二王子殿下の我儘ではなく私を呼んだのはサデウス嬢だったらしい。
「ご挨拶せず申し訳ございません。サデウス嬢」
彼女の片側の頬に布が当てられているのに驚きすぎて、立ち上がり礼をするのを忘れていたと気がついたのは彼女が正面のソファーに腰を下ろした後だった。
でも、貴族の令嬢が顔に怪我をし、それが治療されていないと言わんばかりなのだから、驚くなというほうが無理な話だ。
「この様な格好で驚かれました?」
サデウス嬢の前に茶器を置きいたメイドが部屋を出ていき、小さく扉が開けられているものの人払いされた部屋で、サデウス嬢は頬に当てられた布に手を添えながら笑う。
「少し怪我をしてしまいましたの。実はこの件でトニエ様にご相談したいことが出来たもので、急ぎデルロイ様にお願いしましたのよ」
相談という言葉に、考えを巡らせる。
貴族の、しかも王族の婚約者が怪我か何かをしたのならそれは確かに大事だ。
でも、サデウス嬢の家は公爵家、当然お抱えの薬師か治癒師がいるだろうに、他国の薬師である私に相談というのはどういうわけだろう。
「ボナクララ、怪我はまだ痛むのかな」
「いいえ、今は傷痕もありません」
心配そうな第二王子殿下に、サデウス嬢はにこやかに答えるけれど、それならなぜ布を当てているのだろうという疑問が残る。
「見ていただいた方が早いですわね」
私の疑問を察したのだろう、サデウス嬢はそう言うと布を外してみせた。
「えっ」
声を上げたのは私だけだった。
でも第二王子殿下も驚いてはいるようだ。
「サデウス嬢、そのお顔は」
失礼だと分かっていながら、思わず立ち上がり手をサデウス嬢の頬に伸ばそうとしてしまった。
「何も言わずとも気が付かれるほどなのですね」
私の失礼に眉をひそめることもせず、サデウス嬢はホゥと息を吐く。
「サデウス嬢、殿下、これは?」
声を出さず、私を止めもしない第二王子殿下はサデウス嬢の頬がどのような状態なのか知っていたのだろう。驚く私を楽しそうに見ているだけだ。
「君の塗り薬の効果らしい」
「私の塗り薬? え、これが?」
塗り薬というのは、サデウス嬢に試しとして渡した日薬草で作ったもののことだ。
でもあれを私は自分で何度も試したし、マーニ先生の屋敷の人間数人でも試したがこんな風には誰もならなかった。
「なぜ、こんな……傷はどんな状態でしたか?」
「茶器の破片で私の小指の長さ程の傷です。出血が酷かったものですから、治癒師を呼ぶ前に気休めにでもなればと塗り薬を使ってみたのです」
茶器の破片でなぜそんな大きな怪我を? その疑問はあるが今はそれよりもこの頬だ。
「失礼ですが、近くで見せて頂いても?」
「ええ、薬師様ですもの、失礼等には当たりませんからどうぞ」
公爵家のご令嬢のわりに、この方は気安いなと思いながら第二王子殿下を見ると、にこやかに頷く。
「傷はどこにもありませんね、それより傷ができていたであろう場所だけが、出来たばかりの肌の様に滑らかで……」
間違っても触れない様に、十二分に気をつけながらサデウス嬢の側に近付き頬の状態を確認する。
さすが公爵家のご令嬢、手入れが行き届いている美しい肌をしているが、傷が出来ていたらしいところが特定出来そうなほど、そこだけ肌の状態が異なっていた。
まるで大人の肌の一部が、赤ん坊の肌に変わったかのようだ。
「ここに塗り薬を?」
「ほんの一塗り程度しか使ってはいませんが」
「一塗りで? 今残りはどうされていますか?」
「ここに」
サデウス嬢が差し出した小さな器を受け取り蓋を開くと、中身は殆ど減っていなかったのだ。
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