【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑77

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「母上の薔薇園の土で育てたものが一番育ちが良いというのか? あれは皇帝の薔薇を育てるために配合された特別な土では無かったのか?」

 兄上の部屋に戻り、兄上が取り寄せてくれた茶葉を使ったお茶を頂きながら今日ボナクララの家でおきた話をすると、兄上の眉間に皺が寄ってしまう。
 私はトニエから聞いた話で、簡単に王宮で日薬草の栽培が出来ると喜んだだけだが、兄上は違うらしい。

「あの土は、皇女殿下が記した配合を基本としているのでしたね」
「そうだ。お前は詳しく知らないだろうが、皇女の記した土の配合は特殊で薔薇園を王妃自身が管理する事に意味があるのだ。なにせ土の基本は薔薇園で育った薔薇の花弁や葉等をまとめて腐葉土とし、そこに歴代の王妃が魔力を注がなければならないのだから」

 魔力を腐葉土に注ぐ理由が分からず、茶器を両手で持ちながら首を傾げてしまう。
 日薬草の栽培に必要なのは、土に含まれた魔力と魔素なのだという。
 本来日薬草は、魔物が多く出る森等に自生していて人間が暮らしている場所で育てられるものではないが、父上の体の為に日薬草が必要だから、トニエが苦心して栽培方法を模索しているのが現状だ。
 人間が暮らしている場所にも少ないが魔力の素になる魔素は存在しているが、迷宮や魔物が出る場所の土と比べたら殆ど無いのと同じらしい。
 魔力と魔素が殆ど無い土でも日薬草は育てられはするが、薬効はあまり期待できないし育ちも良く無い。
 普通の土、迷宮である王家の森の土、そして薔薇園の土の三種類で日薬草を育てているが、普通の土と他二つの土とでは差があり過ぎて話にならないそうだ。
 王家の森の土と薔薇園の土、それぞれ育てた物はどちらも遜色ない薬効があるとの判断だったが、ボナクララが塗り薬を試した結果はトニエの試した結果とは違っていたのだ。
 皇帝の薔薇の花びら等があの土に含まれているのは知っていたから、私はそれが原因ではないかと考えていた。皇帝の薔薇は王族の血を受け継ぐ者にのみ毒消しや癒しの効果がある。王家の血が濃ければ濃いほど効果は高く、男性より女性の方が良く効く。
 だからトニエが塗り薬を試してもそれなりでしかなかったのに、ボナクララには顕著に出たのだ。私にもかなり効いていて塗った箇所だけ皮膚の滑りが良くなった。
 それにしても、薔薇の効能はもしかして歴代の王妃が注いでいる魔力と関係があるのだろうか。

「兄上、日薬草を薔薇園の中で育てることは出来ませんか?」
「母上に許可を頂く必要はあるが、可能だろう。ただ、エマニュエラが薔薇園に出入りするようになれば気が付かれてしまうから、薔薇園の土を父上の宮に運び入れて育てた方がいいかもしれない」

 兄上の眉間の皺が深くなる。

「エマニュエラはやはり問題ですか」

 エマニュエラは父上には従順な方だと思うが、母上には反抗的だ。
 これから先を思うと憂鬱になる。
 エマニュエラなら、薔薇園の景観が損なわれると平気で文句を言いそうだ。

「あぁ、彼女はどこまでも自分本位な考え方しかしない。父上の体の為に必要だと知ったら、何をしでかすか」

 兄上の言葉に、私の思考が止まる。
 私が考えるより、エマニュエラは困った人なのだろうか。

「それはどういう意味なのでしょう」

 今この部屋には兄上と私だけ、兄上の従僕は部屋の外に控えている。
 だから、込み入った話も出来る。

「エマニュエラには皇帝の薔薇の秘密を教えていない。各公爵家にもそれは徹底している。彼女はその昔嫁いできた皇女が大切にしていた薔薇だから価値があると思っている程度だろう」
「何故です? 彼女が王太子妃になれば知ることではありませんか?」
「あの花は特殊だ。王家の血を受け継ぐ女性が大切に守っていくものだ。皇女殿下が王家の血を守る為に考えて下さったのだから、絶対に失うわけにはいかないものだ」

 それは知っているが、兄上は何が言いたいのだろう。

「もしエマニュエラが真実を知れば、薔薇を自分一人のものとし他の者に渡さなくなるだろう。特にボナクララにはな」
「そ、それは」

 流石にありえないと言おうとして、口を閉じる。
 エマニュエラは、ボナクララの頬に怪我を負わせた。
 今まで言葉で攻撃することは数え切れない程あったし、自分が欲しければ自分のものになって当然とばかりに奪ってはいたが、怪我をさせるまではしなかったのに、怪我をさせ謝罪も反省もしない。
 自分は王太子妃になり、王妃になる。
 ボナクララより上なのだから、遠慮はしないと言い切ったらしいエマニュエラなら、皇帝の薔薇を独占した上で、ボナクララの命まで狙うかもしれない。
 
「兄上、国のためとはいえそんな女性を妻にするのですか、守りの魔方陣に掛けられた呪いのせいで、エマニュエラを王妃としなければならないとしても、せめて他の誰かを影で愛することは出来ないのですか」

 父上には母上が、私にはボナクララがいるというのに、兄上だけが国の犠牲になるなんて。
 愚かな私は、感情のまま兄上に告げてしまったのだ。
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