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番外編
兄の寵愛弟の思惑78
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「デルロイ」
私の愚かな言葉を、兄上は私の名前を呼ぶことで止めた。
私を見つめ、繰り返し「デルロイ」と私の名前を呼ぶ。
この世で一番、いいや唯一のものを見つめてでもいるかの様に私を見つめる、兄上のその目は優しくてとても強い。
「デルロイ、私はお前が大切だ。何よりの宝だよ。愛しているなんて、そんな軽い言葉では語れない」
「兄……上?」
兄上は腕を伸ばし、私を抱きしめる。
「お前が私を案じてくれる。それだけで私は幸せだ。妻なんて私にはどうでもいい存在なんだよ。デルロイ」
どうでもいい? そんな筈はない。
兄上は、体調不良で思うように執務が出来なくなった父上の代わりに、王太子ならまだ負わなくていい重責を背負い込み執務をこなしているというのに、忙しい兄上を精神的に支えてくれる立場の婚約者は、兄上の心労を増やすことしかしていないのだ。
エマニュエラと結婚したら、それがどちらかが死ぬまで続くことになる。
「私は、お前とボナクララが幸せであれば十分に幸せだ。私にとって国を守ることはお前を守るのと同じこと、お前が憂うことなく暮らせるように、その為だけに私はこの国を守っていく」
「兄上」
「お前とボナクララの子はどれほど愛らしいだろう、早く会いたいものだ」
くすりと笑い、冗談なのかごまかされたのか分からないことを言う。
「兄上、私は真剣に……」
「私だって真剣だよデルロイ。私の愛しいデルロイ。私はね、日々神に感謝している。お前の兄としてこの世に生を受けたことを」
「え?」
私を抱きしめたまま、兄上は不思議な事を言う。
「私は、生まれてすぐに母上とデルロイに会わせてもらえた。デルロイにそっと手を伸ばすと、お前は薄く目を開き私の指先を握ったんだ」
「私が?」
「赤ん坊は生まれたばかりの頃殆ど目が見えていないと聞いたことがある。だが私は、その時確かにデルロイと視線が合ったのだ。お前の曇りなく愛らしい瞳は私の姿をとらえ、そして私の指先をお前の小さな手がギュッと握った。その瞬間気がついたのだ、私はこの幼い弟を心から愛し守るために生まれたのだと」
兄上の言葉、その声があまりに真剣過ぎて、大袈裟だとか戯れが過ぎると笑い飛ばすことは出来なかった。
「私が兄で良かった、お前が弟で良かったと神に感謝した」
「え……」
「兄の立場なら、お前を生涯愛していてもおかしくない。誰にもこの立場を奪われずデルロイの唯一の存在でいられるのだから。デルロイ、あの時私はお前に救われたのだ」
兄上は何が言いたいのだろう。
「父上にも話したことはないが、私は自分が生まれ半年程で守りの魔方陣に初めて触れた。その時エマニュエラの母が魔法陣に呪いの様な魔法を掛ける幻覚を見たのだ」
「え?」
エマニュエラの母親が魔法陣に魔法を掛けたのは、エマニュエラが生まれる少し前では無かったのか?
兄上が生まれて半年の頃私は勿論、エマニュエラもボナクララも生まれていないというのに、どういうことなのか。
「今思えば、あれは魔方陣に呼ばれたのだと思う。自室の、使用人や護衛が守る部屋で眠っていた筈の私が、なぜか夜中に一人魔方陣の間に飛ばされたのだから人の力を超えた何かに呼ばれたのだとしか思えない」
「護衛も誰も気が付かずに、ですか?」
私が本当に幼い頃、部屋の中には最低でも乳母の一人が必ずいたと思う。
私や弟や妹には、それぞれ三人の乳母がいて、その他に子守とメイドが昼夜交代でついていたし、兄上には五人の乳母がいたらしい。
初めての王子ということで、兄上の警護も乳母達の見守りも厳重だったと聞いている。それなのに彼らは誰も気が付かなかったのだろうか。
私の愚かな言葉を、兄上は私の名前を呼ぶことで止めた。
私を見つめ、繰り返し「デルロイ」と私の名前を呼ぶ。
この世で一番、いいや唯一のものを見つめてでもいるかの様に私を見つめる、兄上のその目は優しくてとても強い。
「デルロイ、私はお前が大切だ。何よりの宝だよ。愛しているなんて、そんな軽い言葉では語れない」
「兄……上?」
兄上は腕を伸ばし、私を抱きしめる。
「お前が私を案じてくれる。それだけで私は幸せだ。妻なんて私にはどうでもいい存在なんだよ。デルロイ」
どうでもいい? そんな筈はない。
兄上は、体調不良で思うように執務が出来なくなった父上の代わりに、王太子ならまだ負わなくていい重責を背負い込み執務をこなしているというのに、忙しい兄上を精神的に支えてくれる立場の婚約者は、兄上の心労を増やすことしかしていないのだ。
エマニュエラと結婚したら、それがどちらかが死ぬまで続くことになる。
「私は、お前とボナクララが幸せであれば十分に幸せだ。私にとって国を守ることはお前を守るのと同じこと、お前が憂うことなく暮らせるように、その為だけに私はこの国を守っていく」
「兄上」
「お前とボナクララの子はどれほど愛らしいだろう、早く会いたいものだ」
くすりと笑い、冗談なのかごまかされたのか分からないことを言う。
「兄上、私は真剣に……」
「私だって真剣だよデルロイ。私の愛しいデルロイ。私はね、日々神に感謝している。お前の兄としてこの世に生を受けたことを」
「え?」
私を抱きしめたまま、兄上は不思議な事を言う。
「私は、生まれてすぐに母上とデルロイに会わせてもらえた。デルロイにそっと手を伸ばすと、お前は薄く目を開き私の指先を握ったんだ」
「私が?」
「赤ん坊は生まれたばかりの頃殆ど目が見えていないと聞いたことがある。だが私は、その時確かにデルロイと視線が合ったのだ。お前の曇りなく愛らしい瞳は私の姿をとらえ、そして私の指先をお前の小さな手がギュッと握った。その瞬間気がついたのだ、私はこの幼い弟を心から愛し守るために生まれたのだと」
兄上の言葉、その声があまりに真剣過ぎて、大袈裟だとか戯れが過ぎると笑い飛ばすことは出来なかった。
「私が兄で良かった、お前が弟で良かったと神に感謝した」
「え……」
「兄の立場なら、お前を生涯愛していてもおかしくない。誰にもこの立場を奪われずデルロイの唯一の存在でいられるのだから。デルロイ、あの時私はお前に救われたのだ」
兄上は何が言いたいのだろう。
「父上にも話したことはないが、私は自分が生まれ半年程で守りの魔方陣に初めて触れた。その時エマニュエラの母が魔法陣に呪いの様な魔法を掛ける幻覚を見たのだ」
「え?」
エマニュエラの母親が魔法陣に魔法を掛けたのは、エマニュエラが生まれる少し前では無かったのか?
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「今思えば、あれは魔方陣に呼ばれたのだと思う。自室の、使用人や護衛が守る部屋で眠っていた筈の私が、なぜか夜中に一人魔方陣の間に飛ばされたのだから人の力を超えた何かに呼ばれたのだとしか思えない」
「護衛も誰も気が付かずに、ですか?」
私が本当に幼い頃、部屋の中には最低でも乳母の一人が必ずいたと思う。
私や弟や妹には、それぞれ三人の乳母がいて、その他に子守とメイドが昼夜交代でついていたし、兄上には五人の乳母がいたらしい。
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