【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑82

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「ジョバンニ叔父上! お久し振りですね。お元気そうでなによりです」

 兄上の執務室から自分の宮に戻る途中、珍しい人に出会った。
 ジョバンニ・サデウス公爵はボナクララ達の父で、私の父の弟になる。ちなみに彼の妻クロティルデは父達の従姉妹だ。

「これは第二王子殿下、ご無沙汰しております」

 ジョバンニ叔父上は、父上に良く似た顔に微笑みを浮かべ私に両手を伸ばすから、苦笑して私も手を伸ばし父上とは違うがっしりとした体を一瞬だけ抱きしめすぐに離れる。
 殆どの叔父達は親しみを込めてこういう挨拶を私達にするし、父上にも私的な場では同じ様に、いいやもっと暑苦しい抱擁をする。叔母達はそれを見て狡いと騒ぐまでが挨拶の流れだが、貴婦人の鑑となる叔母達は人目のあるところで父上に抱擁などはしない、母上にだけだ。
 それは私に対して兄上が行う様なものに近いから、兄上だけでなくそもそも王家の血を継ぐ者達は代々兄弟愛が重いのかもしれない。

「父上のところに? それともエマニュエラですか」

 エマニュエラの名前を出すと、ジョバンニ叔父上は少し眉を動かしすぐに元に戻った。
 今まであまり気にして来なかったが、こうして見るとジョバンニ叔父上のボナクララとエマニュエラに向ける愛情には差があるのかもしれない。
 ボナクララは愛する妻の娘だが、エマニュエラはそうではないのだから。
 エマニュエラの母はとんでもない罪を犯し、その罪から彼女も王家の血を受け継ぐものだったというのに籍を抹消され遺体は残されず焼かれた。この国の貴族達は石棺に遺体を入棺し霊廟に埋葬するというのに彼女は骨すら残されなかったという。
 遺体を焼かれた罪人は、死後シード神の園に入ることは出来ず無に還るという。
 つまり死後の安らぎが訪れず、神の慈愛に守られないということだ。
 そんな罪人をジョバンニ叔父上が愛していた筈も無いから、エマニュエラの母親が守りの魔法陣を書き変えたりしなければ側に置き育てることすらしなかったかもしれない。
 そうなると当然ジョバンニ叔父上の妻、クロティルデ叔母上はエマニュエラをどう思っているのか知りたくなる。
 クロティルデ叔母上はとても優しい方だけれど、エマニュエラの母親のことは恨んでいておかしくない。そうなるとエマニュエラとボナクララ二人への扱いに差は無かったのだろうか。
 あのエマニュエラの酷い性格が形成された理由の一つに、それがあったのかもしれないと考えるのはおかしいだろうか。

「突然エマニュエラを引き取って頂きましたので、その件についてお詫びに来たのですよ。ありがたいことに陛下には夕餉をお誘い頂きました」
「そうでしたか、それでは時間まで私の宮でお茶でもいかがですか」

 ジョバンニ叔父上との食事なら場所は父上の宮だろうと気楽にお茶に誘うと、ジョバンニ叔父上はにこりと笑って頷いた。
 政務に忙しい父上だが、兄弟仲はとても良いから時間を作っては叔父上や叔母上を誘い食事をしているのは知っている。
 叔父上達は父上を敬愛しているし、心からの忠誠を誓っている。
 この国が他の国に比べ平和で豊かなのは、トニエ曰く驚く程に貴族達が王家を敬っているためらしいがその貴族達の筆頭が叔父上達になる。
 他国の歴史を学びトニエにも話を聞く様になって驚いたが、他所の国は我が国とは違い王家というものをそれ程敬うことはしていないらしいし、兄弟で王位争いをすることは当たり前にあるというのは知っていたが、兄弟で命を奪い合うなんていうことが日常だと言われても内心首を傾げてしまいたくなる。
 この国はあまりにも呑気過ぎるとトニエはため息を吐くことがあるが、私のこういう感覚の違いがトニエのため息の理由なのだろう。
 例えば兄上や弟達と食事を共にして、彼らから毒を盛られる心配なんてしたことがない。王族としてそれは不用心が過ぎるとトニエなら頭を抱えそうだが、一応毒見役はいるし彼らは日々真剣に職務を全うしてくれているが、兄弟が自分を害そうとしているなんて疑ったことは幸いなことに一度もない。

「叔父上、聞きたいことが」
「奇遇ですね、私もお話しておきたいことが」

 呑気で不用心なのは、多分過去のジョバンニ叔父上もだったのだろう。
 エマニュエラの母親に薬を盛られて、ジョバンニ叔父と彼女の間にエマニュエラが生まれてしまった。
 そして守りの魔法陣までエマニュエラの母親は、恐ろしい魔法で繋がりを書き変えてしまった。
 それはジョバンニ叔父上への愛故だったわけではなく、私の父上に選ばれなかった仕返しに魔法陣に登録する王妃の座を奪ったのだ。
 残虐で利己的過ぎる性格は王妃の器ではないと、父上の相手に選ばれなかったエマニュエラの母親、その性格を娘のエマニュエラは引き継いでいるのだろうか、そうすると彼女を育てたジョバンニ叔父上達に問題は無かったのか。
 分からないが、兄上はこの国を守る為にエマニュエラを妻にすると決めているのだから、私達が兄上とこの国をエマニュエラから守る為に動ける様にジョバンニ叔父上と話さなければ。
 私の考えを知っているのかいないのか、ジョバンニ叔父上は微笑みながら私と共に歩き始めたのだ。
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