【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑83

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「こちらに伺うのも久し振りだ。変わっていませんねここから眺める景色は、とても心が安らぐ」
「この部屋からの眺めは私も気に入っています。庭が一望出来るのが良いでしょう? 庭師達が丹精込めて育てた花々を眺めながらお茶を頂く時間が好きなんです」
「私が住んでいた頃に植えられていたものが多いように思いますが、第二王子殿下もお好きなのですね」

 私の宮で一番気に入っている部屋に案内するなりジョバンニ叔父上は懐かしそうに言うけれど、それは私の宮に訪れたのが久し振りというよりも元々この宮がジョバンニ叔父上の住まいだったからだと思う。
 ジョバンニ叔父上は私の両親が結婚してから一年後に結婚し、結婚と同時にこの宮を出てサデウス公爵家に婿入りした。
 王族の殆どが従兄弟同士で結婚をしているが、ジョバンニ叔父上はクロティルデ叔母上に一目惚れだったそうだ。
 父上は従兄弟の中の最年長で、ジョバンニ叔父上は同じ年の従兄弟が数人いる。
 私も兄弟が多いが、父上と祖父はどちらももっと兄弟が多い。
 側妃を設けないのは多妻が宗教上の禁忌だからだが、そもそも王家は代々多産だから側妃が必要ないというのもある。
 大抵四、五人程度の子供が生まれているのが普通で、最も多い代では十二人と系譜に書かれている。
 一人でそれだけ産んだのかと驚くが、人数が多い理由は双子が三組いるというのもある。
 王子、王女、王子と年子で生まれ、その後に男女の双子が生まれ、その三人王女が生まれた後男女の双子がまた生まれ、その三年後にもう一度男女の双子が生まれている。
 まだ近親婚が許されていた時代で、双子達は三組とも一緒に生まれた相手と結婚しているが、双子以外もこの代を含め近親婚が驚くほどに多い。
 誰かが呪いの様だと言っていたらしいが、とにかく他家の血を意図的に避けていたのかと思うほどに血が近い者同士の結婚多く、近親婚が禁忌となった今でも従兄弟同士の結婚が殆どだ。
 そんな結婚事情があるから王子、王女の婚約者は基本王族から選ばれる。
 ジョバンニ叔父上の場合、叔父上が五歳になった年、従兄弟を集めたお茶会を開かれた。
 そこでジョバンニ叔父上とクロティルデ叔母上は初めて会ったらしいが、その時互いに一目惚れしたのだそうだ。
 父上はもう母上が婚約者候補と決められていて、エマニュエラの母親はすでに性格に問題があると判断され父上の相手から除外されていたらしい。つまり幼い時から性格に難ありと言われていたところまで、エマニュエラは母親に似ているということだ。

「ジョバンニ叔父上がお好きだった花は残しておくようにと、父上が庭師に言いつけていますから。あの辺りに咲いているのは特に私も好きな花なので、兄上は私とボナクララの屋敷にも植えさせると準備を進めている様ですよ。気が早いですよね」

 懐かしそうにしている様子にそう言うと、小さく頷きながら「王太子殿下らしい采配だ」と微笑む。
 私とボナクララが結婚してから暮らす屋敷は、王宮からとても近い数代前の王妃殿下が終の棲家として作った離宮を手直しすると決まっている。
 私は結婚後公爵位を賜り宮を出る。
 この離宮は兄上が成人の祝に贈られたものだが、兄上があそこを使うことはないし私にはすぐ近くにいて欲しいと、婚約祝に譲られると正式に決まった。
 あそこは元々皇帝の薔薇を育てているし、公爵家の屋敷として十分な広さがある。私達の結婚はまだ先だが、いつでも住める様に準備が進められている。
 侯爵家を新たに興すのは数代振りのことだ、大抵はどこかの公爵家と縁を結ぶか、結婚してもそのまま王宮に暮らし続ける。

「王太子殿下は若い頃の陛下によく似ていらっしゃる。心が強くそして優しい」

 ジョバンニ叔父上は、父上によく似たお顔で微笑む。
 ジョバンニ叔父上は父上と同じく穏やかな人だというのに、エマニュエラは母親似なのだろうかとふと思いつく。

「エマニュエラには会われましたか」

 お茶と菓子を盛った皿をテーブルに運び終えたメイド達を部屋から出し人払いすると、何から話したものかと考えながらジョバンニ叔父上に茶を勧め、自分も茶器に口をつけ話の糸口としてエマニュエラの名前を出す。

「ええ、王妃殿下の宮に部屋を用意されてとても不機嫌でした」

 ジョバンニ叔父上の話もエマニュエラに関してだろうと思って名前を出しただけなのに、返って来た予想外な言葉に飲みかけの紅茶を吹き出しそうになる。
 まさかエマニュエラは母上の宮に住むのが嫌だと、公言したのだろうか。
 ただでさえ、エマニュエラはお義母様と呼ぶのを断り母上の機嫌を損ねているというのに、これが母上の耳に入ればどれだけお怒りになるだろう。

「まさかそれを叔父上に?」
「王妃殿下にはどれだけお詫びしても足りないが、あの子の中には遠慮という言葉はないようです。私と妻は育て方を間違えたのでしょう」

 私の問いに頷きで答えてから、ジョバンニ叔父上は額に手を当てる。

「なるほど、いえ、納得していいものかどうか悩みます」

 口元をハンカチで拭いながらジョバンニ叔父上を見るけれど、冗談を言った顔ではないのが恐ろしい。

「結婚前に王宮に入る場合、王妃殿下の宮に部屋を頂くのがしきたりだとあの子も王太子妃の教育で習っている筈なのですがね……あの子は自分に都合の悪い事は耳に入れないらしい」
「そうは言っても、まだ婚約披露もしていないのに兄上の宮に入れるわけにはいかないし、王女宮に部屋を移すのも問題が出るでしょう」

 妹達はエマニュエラが苦手だから、絶対に嫌がるだろう。
 母上だって、よくも受け入れてくれたものだと驚いたのだから。
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