悪役令嬢の婚約者に転生しました

木嶋うめ香

文字の大きさ
31 / 83

本音で話をしてみようか3

「殿下、エバーナは魔法が使えないというのに、試験に受かりますか」

 話が終わりエバーナの部屋への案内は、フォルードが買って出てくれた。
 侍女の失態が余程ショックだったのか、侯爵夫人は俺が話終える頃には立ち上がるのもやっとの様な状態になってしまった為だ。
 母親の様子が気になるのだろう、応接室の前に立ちずっと頭を下げている夫人を一度振り返って確認してから、フォルードは歩き始めた。

「君は受からないと思っているのかな」
「いえ、あの。受からない方がいいとか、そういうのではなく。ただ、難しいかと」

 案内の途中、こんな事を言い出したのはエバーナの魔力の量のせいだろう。
 貴族学校の試験はある意味公平で、一定の魔力量がない者は魔法試験を受けなくていい。
 その代わりに剣術試合や魔方陣を書く等の実技を受けなければならないが、魔力量が一定量ある者はどんなものでもいいから魔法を使ってみせ試験をクリアしないといけない。

「フォルードは、実技は剣術を受けるのかな」
「はい、私は父と同じで殆んど魔力がありませんから。剣術で実技を受ける事になるかと思います」
「そうなるだろうね。魔法より剣術の方が、私にとっては難易度が高い気がするけれど」
「ご謙遜を。殿下は剣術の腕も素晴らしいではありませんか」

 でも別に剣術は好きでもなんでもない。
 王家の人間は、所詮は守られる側の人間だから剣術の腕などどうでもいいし、兄上にはどうやっても勝てないから、前世の記憶を取り戻すまでエルネクトは手を抜いていた分野だ。
 魔法はかなり好きだったから、こちらは頑張っていた。
 まあ、これからはどれも上位にならないといけないから手を抜くなんて出来ないけれど。

「でもエバーナは」
「妹が心配なのは分かるよ、兄として」

 同じ公爵の父を持つ娘でも、エバーナの母親は魔力量の多い子を産み、もう一方は己も産んだ子も魔力を殆んど持たない。
 フォルードは幸い剣術を好んでいるから、その道に進むのが本人の為でもあるのかもしれない。
 ゴレロフ侯爵も剣の腕が素晴らしいし、こういう所は親子なんだろう。

「私達の仲はご存知の筈でしょうに、殿下は人が悪い」

 少し前のフォルードなら、反論しないまでも感情に嫌悪感が現れていた筈だ。それを考えると、彼はやっぱり変わった気がする。
 何が彼を変えたんだろう。

「仲、ね。君とエバーナは、そう悪くない。こんな環境でなければ。そう願っているだけかもしれないけど」

 あの庭での一件はあるけれど、フォルードはどこかエバーナを気遣っている風があるのだ。

「願いですか。どうして」
「仲が良くない兄妹なんて沢山いるだろうね。貴族とか平民とか関係ない。でも血の繋がりをもって生まれたのに憎み合うのは悲しいだろう。死ぬ時に、本当は仲良くなりたかったと言っても遅いんだよ。だから願ってしまうんだ。状況が許さないにしてもね」

 これは他人だから言える話ではあるだろうな。
 そう思いながら、言ってしまうのは前世の俺が早死にして家族を悲しませたせいだ。
 もっと生きたかった。家族と友達と一緒に生きて、色々な思い出を作りたかった。
 泣いても笑っても怒っても、悲しんでも喜んでも、生きていられたらきっと大好きな人達と一緒に乗り越えられた。
 大好きだとか、信頼してたとか、一緒にいられて良かったとか、そういう事を家族にも友達にも言ったことは無かった。
 あの夢が本当に姉ちゃんも見ていて、父さんと母さんにも伝えてくれたらいい。
 ありがとう。家族でいられて良かったよって。
 あれは夢じゃなく、本当で。あの姉ちゃんメモは俺の魔法が作り出したものではなく、姉ちゃんとの夢で話した産物だったらどんなに良いか。
 最後は姉ちゃんにありがとうって言って終われていたら、どんなにいいか。

「死ぬ時に後悔ですか、私達はまだ子供ですが」
「子供だって死ぬ時は死ぬ。その時に後悔しても遅いよ。確かに君のご両親達の禍根はどうしようもないのかもしれない。でも、君たち兄妹がそれに引き摺られる必要はない。人間の感情は簡単じゃないから、すぐにどうこう出来るものじゃないけれどね」
「殿下は、私等邪魔なのではないのですか」
「そうだね。エバーナを大切に思う様に君を大切にとはいかない。正直な話を言えば、君以外にも私の周囲にいる学友達もそれ以外もすべて、兄上へ近付く足掛かりとして私の傍にいるのだと思っていたからね」

 俺の言葉に、フォルードと、従者と護衛が息を飲む気配がした。

「殿下、そんな。私は」
「私の存在意義はなんだろうと考え悩んだ事もある。悩んだ末に君たちの事を割り切ろうとしてそういう付き合いをしてきた。でもそういう付き合いしかしてこなかったからこその今の関係なんだとも分った」

 立ち止まり、フォルードに右手を伸す。

「君たちが何を思って私の傍にいるのかなんて、どうでもいいよ。フォルード、友達になろう。何でも話せる間柄なんて夢は持たない。それでも友達だと本心から言える様になろう」
「わた、私と本当に」
「君が嫌じゃなければね。ああ、友達になったからと言って兄上の側近になれるとは限らないよ」
「そんなの当り前です。私はエルネクト殿下の友達だと胸を張って言える者になりたいのですから」

 ぎゅっとフォルードが両手で俺の右手を握る。
 ぎゅっと握ったまま、フォルードが俯いて肩を震わせ始める。

「エバーナとの事は、いつかちゃんとします。このままでは駄目だと分っているんです。それでも、私は子供で、気持ちが整理出来なくて、ですから」
「ゆっくりでいいよ。せめて彼女をこの家の悪意から少しでも守って欲しい」
「はい」

 頷くフォルードの肩をポンと叩いた後、ふっと従者達の視線に気がついた。
 ああ、そうだよな。父上に報告されるよな。
 俺達よりだいぶ年上な従者と護衛、彼らが俺達を見る目は子供を見守るそれだった。
 いいじゃないか、子供なんだし。
 この会話を父上に報告されるのかと思うと、身悶えする程恥ずかしいけれど。そう開き直るしか無かった。

☆☆☆☆☆
このお話の番外編、「その時彼らは(悪役令嬢の婚約者に転生しました番外編)」も作成していますので、良かったらこちらも覗いてみて頂けたらと思います。
よろしくお願いします。

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。 逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。 全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。 新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。 そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。 天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが… ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。 2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。 ※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。 ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。 カクヨムでも同時投稿しています。