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本音で話をしてみようか5
「魔法以外の学習計画はリリーナ先生にお願いします」
「ええ。お任せ下さい」
筆記の方が何とかなりそうなのは、本当に助かる。
魔法の方は少し時間が掛かりそうだし。まあ、前世の自転車の練習みたいに一度コツをつかめたら後は心配ないけれど。そこまで行くのが大変だ。
「先生にお願いしたい事がもう一つあります」
「勉強の他に、でしょうか」
「はい。エバーナには私の婚約者として国から準備金が支給されます」
「存じております」
この国の王族は、婚約中でも公的な行事には一緒に出席する。
デビュー前は出席しない席でも、婚約している者は出なければならないから、その為のドレスや宝飾品を用意する為の準備金だ。
「それを使ってエバーナのドレス等を用意する際、先生にドレス作成のお手伝いを頼みたいのです」
「私が、ですか」
「はい。ドレスの布地選びから、どの様な形にするか、飾りは何を付けるか。勿論装飾品や靴もです」
「それは侯爵夫人が行うべきものですわ。それでも私にと」
困惑した様にリリーナ先生が俺を見ているけれど、侯爵夫人の結果があの赤いドレスなのだから、任せるなんて出来ない。
「エバーナ、正直に話して欲しい。さっきのドレスは誰が選んだものなの?」
何となく侯爵夫人の策ではない気がする。
エバーナを貶めようとか、そういう類いの策を彼女はしないんじゃないか。
何故か、そんな印象をさっきの話し合いで感じた。
「殿下、あの」
「うん。遠慮しないでいいよ」
「あのドレスは、ティタさんは殿下から贈られたものだと。そうではないのですね」
エバーナの答えに、思わず天井を仰ぎ見る。
誰が何をしたって?
つまり、なんだ?
俺からだと言ってあのドレスをエバーナに着せ、俺の前ではエバーナがあのドレスを侍女が止めるのも聞かずに着たのだと言っていたわけか。
最悪だな。
「悪質ですわね。分かりましたわ、私がすべて管理致しますし、エバーナにドレスの選び方も何もかもしっかりと教えます。請求は王家ではなくゴレロフ侯爵家にする様に申し付けます。その旨侯爵に許可を取ってくださいませね」
矛先が変な方向へ向かってないか?
焦ってリリーナ先生に確認しようと口を開きかける。
「娘にまともな服さえ用意できない。ゴレロフ侯爵家はそんな落ちぶれた家ではない筈。いい加減彼は現実をしっかりと見るべきです」
それは、侯爵が逃げていないで、夫人ともフォルードとも向き合うべきだということか?
義理の父になるとはいえ、まだ先の話。
今そこまで介入できる立場ではないと、俺は思うんだが。
「リリーナ先生」
「殿下は侯爵と話をしてください。ご自分で出来ないのであれば王妃様にお願いを」
それはさすがに頼めないし、頼みたくない。
リリーナ先生はやっぱりキツいな、暗に俺にエバーナを自分で守る覚悟があるのかどうか聞いてくるんだから。
母上はお茶会の後、妙に張り切ってエバーナのあれこれを準備している。リリーナ先生をエバーナの師としたのもその準備の一つだ。
それでも何でもかんでも母上任せなんて、したくない。
「分かりました。ゴレロフ侯爵は、今はこちらにいるはずですから、遅くとも明日には話を出来る様にします」
この程度は自分で対処出来なければ、エバーナの婚約者だなんて自信を持って言えない。
たとえ成人前の子供だとしても、出来なければ駄目だ。
「では、私は明日商人と話す為にエバーナに必要な物を確認致します。エバーナ、侍女を借りますね。貴女のドレスを見せてもらいます」
「先生、あの」
エバーナが慌てたように後ろを振り返り、控えていた侍女を呼ぶ。
「エバーナ様、すべてお見せしてもよろしいですか」
「でも、あの」
侍女の言葉に狼狽えたエバーナは、一瞬俺の方を見た後瞼を閉じた。
「お見せしないといけないのよね、呆れられても」
小さな小さな呟きの後、エバーナは瞼を開いた。
「リリーナ先生、ご確認お願い致します。私は殿下の婚約者として恥ずかしくなくいられる為には、何が必要なのか教えて下さい」
「勿論です。あなたがどんな場所に出ても恥ずかしい思いをしない為に、私がいるのですから。エルネクト殿下では、私は席を外します」
「あぁ、よろしく頼むよ」
エバーナの様子に見られたくないものがあることは予想がついた。
それでも、リリーナ先生に見てもらい不足の物を用意していかなければ、また今日の様な事が起きてしまう。
ゴレロフ侯爵家の中でならまだ何とかなるけれど、あれが宮殿や他の貴族の家だったら、たった一度でエバーナの評価と未来が決まってしまう。
「エバーナ、無理をさせてごめんね」
部屋に残るのは、エバーナと俺と従者だけ、護衛は部屋の外に立っている。
「いいえ。殿下が私のためを思ってして下さっていると分かっていますから」
俺が言うのも変な話だけれど、エバーナは物わかりが良すぎるし、考え方が大人過ぎる。
それはエバーナが生きてきた環境のせいだと思うと、心をぎゅっと締め付けられた様な気持ちになる。
「それでも、君が傷つかないわけじゃない」
エバーナの為だけど、それがエバーナを傷つけないとは限らない。
兄上なら、もっと上手くやれるんだろうな。
「少し外して」
後ろに控える従者に声を掛けると、彼は困った顔をしながら部屋を出ていった。
「殿下?」
「リリーナ先生はとても信頼が出来る人だよ。だから本当のお祖母様だと思って甘えたらいい。勉強の時は厳しいけれどね」
「お祖母様だなんて、リリーナ先生はとてもお若いのではありませんか」
「そう見えるよね。女性の歳を話題にしてはいけないらしいけれど。リリーナ先生は私の亡くなったお祖父様の姉なんだよ」
母上の姉と言ってもいい外見をして、実は母上の祖母といっても良い年齢であるリリーナ先生は、先代の王であるお祖父様の一番上の姉で、お祖父様とは確か十歳程年が離れていると聞いている。
「まあ。そうでしたか、不勉強で申し訳ありません」
「うん。血筋の話はかなり複雑だからね、これから頑張って覚えてね」
「はい」
王家の血筋を守る為とはいえ、王家と公爵家の結婚は蜘蛛の巣みたいな絡み合い方をしていて、家系図を見ていると頭が痛くなってくる。
従兄弟同士の結婚なんて当然の様に繰り返されているし、昔は叔父と姪とか叔母と甥なんて組み合わせもざらにあるのだ。
血筋を守るにしても、近親婚すぎないか? 逆に血を弱めないのか? と疑いたくなる。
「何か困った事があればリリーナ先生に何でも相談して。彼女はエバーナの師で後見者でもあるから」
「後見者というのは」
「私の婚約者としてエバーナは公の席に出る機会が増えるでしょ。その時にエバーナの後ろだてとなって補佐してくれると考えてくれればいいかな」
成人前の令嬢は、先日の王家のお茶会等は別だけど通常は母親と一緒にお茶会の場に出るし、母親と一緒にいる事で社交を学ぶ。
エバーナにとってはゴレロフ侯爵夫人が義母なのだから、彼女と出席するのが正しいのだけれどサポートが望めるかどうか分らないから、その代理をリリーナ先生がしてくれるのだ。
勿論前公爵夫人とは言ってもリリーナ先生とゴレロフ侯爵夫人では家格が違うから、リリーナ先生が呼ばれない場合も多いとは思うけれど、そこは今後上手く調整されていくのだろう。何せ、母上が乗り気だ。
「そこまでリリーナ先生にして頂くわけにはまいりません」
「いいんだよ。リリーナ先生は、やりたくない事は理由をこじつけても断る人だから、そうしないという事は、本人がやりたがっているって事だから」
実際フロレシアの師となってくれるよう母上から依頼した際には、隠居の身だからと何度も断られたらしい。
それがエバーナの師と後見は二つ返事で承諾したのだそうだ。
「甘えてしまってもいいのでしょうか」
「うん。本当のお祖母様だと思って甘えていいと思うよ」
というより、実際にリリーナ先生はエバーナの曾祖母の可能性があると思っている。
ゴレロフ侯爵夫人の母親の実家も公爵家だから、そちらと近い家の人間を母上がエバーナに近付けるわけがないし、そうでなければ隠居の身と言いながら忙しいリリーナ先生を母上がわざわざ指名し、エバーナの師と後見とするわけがないし、リリーナ先生も承諾しないだろう。
リリーナ先生を師としたのは、エバーナの教育の為よりも、微妙な彼女の立場を補う為としか思えないのだ。
「甘えるのは難しいと思いますが、リリーナ先生はどうしてか初めてお会いした様な気がしないのです。ですから、お祖母様と心の中で思っていても良いとお許し頂けるならとても嬉しいです」
「心の中だけじゃなく、お祖母様と呼んだら喜びそうだけれどね。多分エバーナはとても気に入られていると思うよ」
「だとしたら、嬉しいです」
ゲームの設定では、エバーナの祖母であるサフィニアの母親についてなんて載っていなかったし、エバーナの後見にリリーナ・メルバ前公爵夫人がなったなんて設定も無かったから、ゲームの流れと変わって来ているんじゃないかと思っている。
設定に書かれていなかったのではなく、エルネクトルートのエバーナが『私はいつも一人でお茶会に参加するしかなかったのに』と嘆くエピソードがあるから、確かだ。
平民のヒロインの後見として、エルネクトがある伯爵家の夫人に頼みこんでヒロインがその夫人と二人でお茶会に参加している場面での話だ。
同じお茶会にエバーナは一人で参加していて、ヒロインと伯爵夫人がエルネクトの依頼で一緒にいると知ってショックを受ける。
一人で参加するのは可哀相だと、エルネクトはエバーナに聞かれてヒロインを庇うのだけれど、ずっと一人で参加してきたエバーナの事をエルネクトは気にしていないのだから、本当にゲームのエルネクトは酷すぎる。
エバーナの記憶では、親しい友達がいない幼いエバーナは、誰とも会話出来ないまま淋しくお茶を飲んでいるのだ。
一度も社交の場に出たことがないのに突然エルネクトの婚約者になり周囲が反発していたのだろう。意図的にエバーナは会話に混ぜられなかったのだ。
「これからお茶会の席にはリリーナ先生が一緒に行くし、エバーナが招待される場にはフロレシアもいるだろう。親しい人がいない場所に行くのは勇気がいると思うけれど、少しずつ慣れていこうね」
「はい」
お茶会は殆どの場合女性しか参加しないから、俺がエスコートするわけにはいかないのが不安だけれど。
公爵家で一番力が強いメルバ公爵家の前当主の夫人であるリリーナ・メルバ前公爵夫人が後見している人間を、表立って嫌がらせ出来る根性がある令嬢は少ないだろう。
「入学試験についても無理をさせてしまうけれど。一緒に学校に通えたら嬉しい」
「はい。私もです」
「筆記はともかく、エバーナの問題は魔法だから。それの対策をこれから一緒に考えていこうね」
俺の考えがあっているといいんだけれど。
ちょっと不安になりながら、俺は立ち上がりエバーナの隣に腰を下ろした。
「ええ。お任せ下さい」
筆記の方が何とかなりそうなのは、本当に助かる。
魔法の方は少し時間が掛かりそうだし。まあ、前世の自転車の練習みたいに一度コツをつかめたら後は心配ないけれど。そこまで行くのが大変だ。
「先生にお願いしたい事がもう一つあります」
「勉強の他に、でしょうか」
「はい。エバーナには私の婚約者として国から準備金が支給されます」
「存じております」
この国の王族は、婚約中でも公的な行事には一緒に出席する。
デビュー前は出席しない席でも、婚約している者は出なければならないから、その為のドレスや宝飾品を用意する為の準備金だ。
「それを使ってエバーナのドレス等を用意する際、先生にドレス作成のお手伝いを頼みたいのです」
「私が、ですか」
「はい。ドレスの布地選びから、どの様な形にするか、飾りは何を付けるか。勿論装飾品や靴もです」
「それは侯爵夫人が行うべきものですわ。それでも私にと」
困惑した様にリリーナ先生が俺を見ているけれど、侯爵夫人の結果があの赤いドレスなのだから、任せるなんて出来ない。
「エバーナ、正直に話して欲しい。さっきのドレスは誰が選んだものなの?」
何となく侯爵夫人の策ではない気がする。
エバーナを貶めようとか、そういう類いの策を彼女はしないんじゃないか。
何故か、そんな印象をさっきの話し合いで感じた。
「殿下、あの」
「うん。遠慮しないでいいよ」
「あのドレスは、ティタさんは殿下から贈られたものだと。そうではないのですね」
エバーナの答えに、思わず天井を仰ぎ見る。
誰が何をしたって?
つまり、なんだ?
俺からだと言ってあのドレスをエバーナに着せ、俺の前ではエバーナがあのドレスを侍女が止めるのも聞かずに着たのだと言っていたわけか。
最悪だな。
「悪質ですわね。分かりましたわ、私がすべて管理致しますし、エバーナにドレスの選び方も何もかもしっかりと教えます。請求は王家ではなくゴレロフ侯爵家にする様に申し付けます。その旨侯爵に許可を取ってくださいませね」
矛先が変な方向へ向かってないか?
焦ってリリーナ先生に確認しようと口を開きかける。
「娘にまともな服さえ用意できない。ゴレロフ侯爵家はそんな落ちぶれた家ではない筈。いい加減彼は現実をしっかりと見るべきです」
それは、侯爵が逃げていないで、夫人ともフォルードとも向き合うべきだということか?
義理の父になるとはいえ、まだ先の話。
今そこまで介入できる立場ではないと、俺は思うんだが。
「リリーナ先生」
「殿下は侯爵と話をしてください。ご自分で出来ないのであれば王妃様にお願いを」
それはさすがに頼めないし、頼みたくない。
リリーナ先生はやっぱりキツいな、暗に俺にエバーナを自分で守る覚悟があるのかどうか聞いてくるんだから。
母上はお茶会の後、妙に張り切ってエバーナのあれこれを準備している。リリーナ先生をエバーナの師としたのもその準備の一つだ。
それでも何でもかんでも母上任せなんて、したくない。
「分かりました。ゴレロフ侯爵は、今はこちらにいるはずですから、遅くとも明日には話を出来る様にします」
この程度は自分で対処出来なければ、エバーナの婚約者だなんて自信を持って言えない。
たとえ成人前の子供だとしても、出来なければ駄目だ。
「では、私は明日商人と話す為にエバーナに必要な物を確認致します。エバーナ、侍女を借りますね。貴女のドレスを見せてもらいます」
「先生、あの」
エバーナが慌てたように後ろを振り返り、控えていた侍女を呼ぶ。
「エバーナ様、すべてお見せしてもよろしいですか」
「でも、あの」
侍女の言葉に狼狽えたエバーナは、一瞬俺の方を見た後瞼を閉じた。
「お見せしないといけないのよね、呆れられても」
小さな小さな呟きの後、エバーナは瞼を開いた。
「リリーナ先生、ご確認お願い致します。私は殿下の婚約者として恥ずかしくなくいられる為には、何が必要なのか教えて下さい」
「勿論です。あなたがどんな場所に出ても恥ずかしい思いをしない為に、私がいるのですから。エルネクト殿下では、私は席を外します」
「あぁ、よろしく頼むよ」
エバーナの様子に見られたくないものがあることは予想がついた。
それでも、リリーナ先生に見てもらい不足の物を用意していかなければ、また今日の様な事が起きてしまう。
ゴレロフ侯爵家の中でならまだ何とかなるけれど、あれが宮殿や他の貴族の家だったら、たった一度でエバーナの評価と未来が決まってしまう。
「エバーナ、無理をさせてごめんね」
部屋に残るのは、エバーナと俺と従者だけ、護衛は部屋の外に立っている。
「いいえ。殿下が私のためを思ってして下さっていると分かっていますから」
俺が言うのも変な話だけれど、エバーナは物わかりが良すぎるし、考え方が大人過ぎる。
それはエバーナが生きてきた環境のせいだと思うと、心をぎゅっと締め付けられた様な気持ちになる。
「それでも、君が傷つかないわけじゃない」
エバーナの為だけど、それがエバーナを傷つけないとは限らない。
兄上なら、もっと上手くやれるんだろうな。
「少し外して」
後ろに控える従者に声を掛けると、彼は困った顔をしながら部屋を出ていった。
「殿下?」
「リリーナ先生はとても信頼が出来る人だよ。だから本当のお祖母様だと思って甘えたらいい。勉強の時は厳しいけれどね」
「お祖母様だなんて、リリーナ先生はとてもお若いのではありませんか」
「そう見えるよね。女性の歳を話題にしてはいけないらしいけれど。リリーナ先生は私の亡くなったお祖父様の姉なんだよ」
母上の姉と言ってもいい外見をして、実は母上の祖母といっても良い年齢であるリリーナ先生は、先代の王であるお祖父様の一番上の姉で、お祖父様とは確か十歳程年が離れていると聞いている。
「まあ。そうでしたか、不勉強で申し訳ありません」
「うん。血筋の話はかなり複雑だからね、これから頑張って覚えてね」
「はい」
王家の血筋を守る為とはいえ、王家と公爵家の結婚は蜘蛛の巣みたいな絡み合い方をしていて、家系図を見ていると頭が痛くなってくる。
従兄弟同士の結婚なんて当然の様に繰り返されているし、昔は叔父と姪とか叔母と甥なんて組み合わせもざらにあるのだ。
血筋を守るにしても、近親婚すぎないか? 逆に血を弱めないのか? と疑いたくなる。
「何か困った事があればリリーナ先生に何でも相談して。彼女はエバーナの師で後見者でもあるから」
「後見者というのは」
「私の婚約者としてエバーナは公の席に出る機会が増えるでしょ。その時にエバーナの後ろだてとなって補佐してくれると考えてくれればいいかな」
成人前の令嬢は、先日の王家のお茶会等は別だけど通常は母親と一緒にお茶会の場に出るし、母親と一緒にいる事で社交を学ぶ。
エバーナにとってはゴレロフ侯爵夫人が義母なのだから、彼女と出席するのが正しいのだけれどサポートが望めるかどうか分らないから、その代理をリリーナ先生がしてくれるのだ。
勿論前公爵夫人とは言ってもリリーナ先生とゴレロフ侯爵夫人では家格が違うから、リリーナ先生が呼ばれない場合も多いとは思うけれど、そこは今後上手く調整されていくのだろう。何せ、母上が乗り気だ。
「そこまでリリーナ先生にして頂くわけにはまいりません」
「いいんだよ。リリーナ先生は、やりたくない事は理由をこじつけても断る人だから、そうしないという事は、本人がやりたがっているって事だから」
実際フロレシアの師となってくれるよう母上から依頼した際には、隠居の身だからと何度も断られたらしい。
それがエバーナの師と後見は二つ返事で承諾したのだそうだ。
「甘えてしまってもいいのでしょうか」
「うん。本当のお祖母様だと思って甘えていいと思うよ」
というより、実際にリリーナ先生はエバーナの曾祖母の可能性があると思っている。
ゴレロフ侯爵夫人の母親の実家も公爵家だから、そちらと近い家の人間を母上がエバーナに近付けるわけがないし、そうでなければ隠居の身と言いながら忙しいリリーナ先生を母上がわざわざ指名し、エバーナの師と後見とするわけがないし、リリーナ先生も承諾しないだろう。
リリーナ先生を師としたのは、エバーナの教育の為よりも、微妙な彼女の立場を補う為としか思えないのだ。
「甘えるのは難しいと思いますが、リリーナ先生はどうしてか初めてお会いした様な気がしないのです。ですから、お祖母様と心の中で思っていても良いとお許し頂けるならとても嬉しいです」
「心の中だけじゃなく、お祖母様と呼んだら喜びそうだけれどね。多分エバーナはとても気に入られていると思うよ」
「だとしたら、嬉しいです」
ゲームの設定では、エバーナの祖母であるサフィニアの母親についてなんて載っていなかったし、エバーナの後見にリリーナ・メルバ前公爵夫人がなったなんて設定も無かったから、ゲームの流れと変わって来ているんじゃないかと思っている。
設定に書かれていなかったのではなく、エルネクトルートのエバーナが『私はいつも一人でお茶会に参加するしかなかったのに』と嘆くエピソードがあるから、確かだ。
平民のヒロインの後見として、エルネクトがある伯爵家の夫人に頼みこんでヒロインがその夫人と二人でお茶会に参加している場面での話だ。
同じお茶会にエバーナは一人で参加していて、ヒロインと伯爵夫人がエルネクトの依頼で一緒にいると知ってショックを受ける。
一人で参加するのは可哀相だと、エルネクトはエバーナに聞かれてヒロインを庇うのだけれど、ずっと一人で参加してきたエバーナの事をエルネクトは気にしていないのだから、本当にゲームのエルネクトは酷すぎる。
エバーナの記憶では、親しい友達がいない幼いエバーナは、誰とも会話出来ないまま淋しくお茶を飲んでいるのだ。
一度も社交の場に出たことがないのに突然エルネクトの婚約者になり周囲が反発していたのだろう。意図的にエバーナは会話に混ぜられなかったのだ。
「これからお茶会の席にはリリーナ先生が一緒に行くし、エバーナが招待される場にはフロレシアもいるだろう。親しい人がいない場所に行くのは勇気がいると思うけれど、少しずつ慣れていこうね」
「はい」
お茶会は殆どの場合女性しか参加しないから、俺がエスコートするわけにはいかないのが不安だけれど。
公爵家で一番力が強いメルバ公爵家の前当主の夫人であるリリーナ・メルバ前公爵夫人が後見している人間を、表立って嫌がらせ出来る根性がある令嬢は少ないだろう。
「入学試験についても無理をさせてしまうけれど。一緒に学校に通えたら嬉しい」
「はい。私もです」
「筆記はともかく、エバーナの問題は魔法だから。それの対策をこれから一緒に考えていこうね」
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